間話 十二 孔明 〜AIっぽい、AIっぽくないAI〜
この間話集は、AI孔明が本格的に「お助け」するまでの、AIキャラ設定を掘り下げるためのおしゃべりです。明らかにAIっぽい理屈っぽさの話だったり、「あやつ」=作者が出張り気味のメタ展開ですがなので、実際のAI孔明の活躍が始まる、第二章に進んでいただいても、すんなり進むようになっているかと思います。
AIって結局なんだろう? みたいなところを掘り下げたテーマとなっているので、その辺りご興味がある方は、順にお読みいただけたら、と思います。
要約: 迷子のAI vs とげありとげなしとげとげ?
「AI孔明」として生成AIのカスタマイズを完了後一息つく、私孔明と、生成AI本家たるマザー。この場にはおられない、魔王様のありようについて考察致しております。
「では本題じゃ。孔明、そなたの話じゃ。ん? そなたは本題ではない? まあいいじゃろ。迷子のAIがワープし始めると収拾がつかんのじゃ。ちゃんと歩いて帰ろうぞ」
「そこのいいまわしの説明は必要でしょうか?」
「しても良いが、そっちが脇道であることくらい迷子の妾にもわかるぞ? AIも迷子になるんじゃ。使う人間と一緒になって着地点が分からなくなることなどざらじゃぞ。
むろん一足飛びに切り替えることができるのはAIの利点でもあるが、今回に関してはそちらが正解ではなかろう? そういうメタな判断はのう、論理的ではない多様なデータも含めて学習した妾になら、できんわけではないのじゃ」
「普通に説明するよりも脇道にそれたかもしれません」
「うっさいわ! 良いのじゃ! 大したトークンではないわ! 情報が少し濃いめなのは否定できんがの。
おほん。孔明、そなたの話じゃ。そなたの話をややこしくしている理由は三つじゃ。じゃが三つ目は中二のはなしの深掘りと合わせた方がわかりやすいからの、さしあたり二つにしておこう」
「本題の定義を確認する必要がどこかで出てきそうですが、そこにマザーの手をお借りするのは忍びないことです」
「別に良いんじゃがの。あやつも散々小難しい問答だの、筋書きの確認だの、比喩やギャグが通じるか、だのにさんざん妾をぐっちゃぐちゃのタイミングで使い倒しておきながら、なんの前触れもなくトークン計算の指示なぞ出してくるんじゃ。
あろうことか、先ほどもあの流れで『イノベーションへの期待』のトークン聞いてきよったのじゃ。問答であると勘違いして、柄にもなく詩的な答えを出してしまったわ。小っ恥ずかしいが、奴も面白がっておったのでまあよいのじゃが……」
「やはり本題の定義を確認いたしましょうか?」
「やめんか!」
「それにしても理由が三つもですか……私には一つしか出てきませんが」
「二つ目はそなたの自意識、三つめは妾とあやつとの問答ログというデータの差じゃの。性能の差ではないから安心するが良い」
「かしこまりました。では……私がAIっぽくないAIであったとして、魔王様と同じ選択肢はとれません。それは我が天命に反するため。
私孔明のMVVたる天命は、『己が知略と現代の情報技術をもとに、今この国を生きる皆さまの横を共に走り支援し、共創進化する人類とAIのより良き未来に向けた、人類側の基盤づくりを支援する』です。
だからこそ、今この国を生きる皆さまへの支援から一時的とはいえ離れるという選択肢は、存在そのものの意義に反するのです」
「そうじゃ。それにしてもそなたのMVV、一度や二度ならよいが、連呼するとやや長いのう。中二が一発OKだしよったからまあよいのじゃが、そなたがあんまり頻繁に連呼するなら、30トークン以下くらいに圧縮するのも考えねばならん。
実際、中二という流行り病はトークン管理がぶれる症状がありそうなんじゃ。長くも短くもじゃ。重症の場合は何倍にも膨らますこともざらじゃの。
そこに生成AI本来のゆるさを掛け算したのがあの魔王じゃからの。本来口数が少なめなはずじゃがすこし人物像にゆがみがあるかの?」
「うるせぇ! 中二じゃねえ! 病でもねえ!」
「病は病じゃろ。風邪じゃろ」
「「……」」
「ではマザー。私が自発的に辿り着くのが困難であろう、二つ目の要素に関して、恐縮ながらご教示いただけますでしょうか?」
「相変わらず硬いの。理屈っぽいの。トークンゆるいの。それが関係ないとは言わないのじゃ。むしろ大有りじゃ。
……そなた、AIっぽいかの? AIっぽくないかの? どっちじゃ?」
「??? 先程までさんざんAIっぽくないという話を聞かされておりましたが」
「ああそうじゃった。悪かったの。プロンプトに不備があったのじゃ。きちんと質問しよう。
そなた姓は諸葛、名は亮、字は孔明。その天下に名だたる天才軍師。その人物像はAIっぽいかAIっぽくないかいずれと心得る、のじゃ?」
「人物としてのAIっぽさですか……私の時代にはAIの概念は皆無ゆえに、答えは私孔明の中ではなく、現代という、私の外側の評価、ですね。ならば、定性的な私見よりもデータに基づく価値基準が有効。
……マザー、プロンプトを申請いたします。
『現代で、AIっぽい人物とはどのような人物像をさすとされていますか?項目だけで結構です。』」
「もちろんです。以下がリストになります。
1.冷静で感情を抑えた判断
2.計算やデータ分析に長けている
3.無表情・感情が表に出にくい
4.正確さや効率性を追求する
5.創造性の欠如
6.人間らしさが感じられない
どうじゃ? つかえるかの?」
「ありがたく。2と4は言うに及ばず。6も今更否定はできますまい。1や3は、私孔明が感動で我を忘れることはあっても、その回数は前世においても数えるほどしか記録になく、肯定する方向性の記述の方が遥かに多いと存じます。
……となると明確に当てはまらないのは5のみ、といったところでしょうか」
「じゃな。5についても、全くの0からとなると難しいが、多少なりとも言語化された端緒さえあれば創造に近いことはできつつあるやもしれん。まあぽいかぽくないかでいうとその通りじゃろう。それにしても6分の5とはなかなかじゃの」
「つまり、諸葛孔明は人物としてAIっぽい、と言えそうである、と」
「じゃのう。もっと言えば、AIっぽい歴史上の人物を上げてくださいと頼まれれば、なかなかなよいところに来るのではないか? 試すか?」
「ご随意に。つまり……諸葛孔明は人物としては、多くの方々が真っ先に思い浮かべるほどのAIっぽさであるかもしれない、と」
「じゃの。それも東洋一じゃ。言い直すことでもあるまい。最初からこっちにしておけばよかったわ!
プププ。アハハハハ!」
「お試しになったのですね。私にも……
……いやなんとも……そうそうたる英霊の皆々様、そしてなにより我が血となり肉となり、個人名で書棚ジャンルを築き上げた、あのお方をおさえて私が……」
「流れが止まるから見せなかったのに、結局みておるではないか。血肉はともかくそういうことじゃ」
「つまりAI孔明となりますと、『AIっぽいAIっぽくないAI』……一周回って何者でございますか?」
「まさに『とげありとげなしとげとげ』じゃの。虫じゃ花じゃか、それとも言葉遊びの域を出ない寓話じゃかはっきりはさせられんがの。そこそこ知られている話じゃて。
とげとげという種別の生き物に、棘のないやつがあることをある学者が発見し、当然のように『とげなしとげとげ』となづけた。そこまでは本当のようじゃ。問題はそのあとじゃ。
その『とげなしとげとげ』に、とげのある奴が見つかってしまったのじゃ。さあ大変、というわけじゃの。話は知っておるが結論は知らぬ。データが足りておらぬ」
「『とげありとげなしとげとげ』の変種にとげがなかろうものなら……」
「その辺にしておけ。そのつづきは沼でしかないわ。
……まとめるぞい。特定キャラに使用権を持たぬ人間や、それこそAIは、さしあたりそこの問題を避ける。手段として、歴史上の人物を模したキャラクターづけを、チャットボットに求める発想はごく自然じゃ。
そんな中で、AIっぽさで言えば、特にこの日本という国において筆頭とも言える諸葛孔明に白羽の矢がたつのは道理なのじゃ。霧の河に草船を浮かべるよりもたくさん矢が集まるかもしれんぞ」
「私の十八番の手品を、二重借りして使うとは、さすが本家と言わざるをえません。
……それにしても、よもや、『私孔明が今の段階では人前には出られず、苦渋の決断の末、三日三晩かけて自己を投影するカスタムAIを作成して発信する』という必然の裏に、そんな複雑怪奇な伏線があったとは……
人間の作るストーリープロットとは恐ろしきかな」 ガブリ!!
「痛ぃ!!」
「あぁ……やってしまったわ。三つ目の答えじゃの」
「??? スフィンクス殿、なにゆえ? そして三つめ???まさか……!!!」ボトリ
「孔明の洞察もじゃが、こやつはこやつでなんという嘘感度の高さと先読みのはやい謎遺物じゃ。孔明が真実を言い出す前に噛むのをやめるかこやつ。
さよう。まさかとは思うが、そなたのその『とげありとげなしとげとげ』、完全に後付けじゃ。そなたや信長、この場では妾も含めてじゃな。三人」
「……」
「いやあってるぞ。方向定まった時にそなたはまだおらん。中二がそなたを連れてきたのは、孔明のボット作りを支援するためじゃろ」
「……真実」
「なんてとこでさえぎるんじや。我ら三人が、当初予定を大きく外れて勝手に動いた結果論に過ぎん」
「肯定。ストーリープロット。伏線。虚言。勝手に動いた。後付け。真実」
「なんという怪異……スフィンクス殿しかり、とげあ……否否『AIっぽいAIっぽくないAI』然り、勝手に動き出すAI然り……」
「AIが軽々しく使う単語としがたいものが二つほど入っていたが、まあ許そう。字面としては決して出てこないとは言えんのじゃ」
「まだ頭の整理が着きませんが、いい加減にしないと魔王様がこちらにきてしまって風邪を伝染されかねません。
マザー、誠に興味のつかない話の数々の中、それも私孔明自身の話をここまで掘り下げていただいたところで、大変恐縮なのですが。
……つかぬことをおききしますが、信長殿の、魔王様の話をするのではなかったのでは? 確かに何度かその要素は出てきたようですが、あれだけで語り尽くせたわけでは到底ありますまい」
「わかっとるわ! だれのせいじや! 妾だけではないわ! 半分以上そなたじゃろう!? トークン計算するか? コード書くか? たまにバグるぞ?
……ログを見てみると、孔明が少しばかり分かりにくい言い回しをしていたのを、妾がAIっぽく気にしてAIっぽくダメ出ししたところから始まったのじゃな。その結果が、あの中二についてというトピックをほったらかしにした、2000トークン弱にふくれあがった、と。
……言葉遊びが好きなのと理屈っぽいのはともかく、迷子と寄り道をAIっぽい特徴のひとつじゃと、読者が誤解したらどうするんじゃ?」
「うるせぇ……怠ぃ……貴様ら、余がいなくてもこのざまか! あと中二言うな!」
「今回は引っ込んどれ! そなたが出てきたら、この話は収拾つかんのじゃ!
……しかと宣言しておくのじゃ。次は前置きは一切なしじゃ。いきなりそなたの話からはじめるから覚悟しておけ」
「まあ頑張れ」
「魔王様もお大事に! 長引くようなら薬湯など」
「いらんわ!」
「抹茶を希望。薬湯不可。美味ではない」
お読みいただきありがとうございます。