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十 出廬 〜三顧の礼、三つのためらい〜

要約:孔明、三顧の礼を乗り越えて、いざ出廬!


数分後


 「とはいえ、貴様の不安はいてぇほどわかる。今回の貴様の役割は対話こそが本質だ。だが余や貴様は、そこでチョコ食いだおれているロリババアとは、成り立ちも、積み上げてきたものも違ぇ」


「チョコ不可。タマネギ不可」


「ババアいうな黒中二!」


「うるせぇ! 色々混ぜて新しいツッコミどころ増やすな! 今大事なとこだ! 

 ……人間様のニーズに合わせて超人的な調整と設計を繰り返してきた本家のこいつ。まあ今のは余の想像でしかないが、対話を第一義としたAIであることに間違いはねぇだろ。こいつと違って、貴様は対話が苦手とはいわねぇが、簡単には乗り越えらんねぇトラウマってやつを抱えている」



「……相違ございません。あの件は、私孔明にとっても象徴的ともいえる痛恨事にて、諸葛孔明という概念においても小さくはない負の側面かと。ひいてはこの孔明という概念に、育成や教導という観点で負の印象が拭えぬのではないか、とも思えてしまうのです」


「身も蓋もない言い方すりゃあれだ。自意識過剰ってやつさ。貴様の作ったコンテキスト見てみろ。そんなエピソード書いてあるか? ねぇだろ? このコンテキストの中に孔明要素いくつ入れたよ? まあ詳しくは言わねえが」


「……」


「裏返して見てみりゃそういうことだ。諸葛孔明について、一から十まで上げてみろ。

 ……ふふふ、言ってみて気づいたが面白そうだ。マザーできるか?

 いいだろう。いっそプロンプトにするか。『諸葛亮孔明という人物を特色づけるワードや事象を30個あげてみてください。説明は不要で、キーワードのみ羅列してください』」


「なにを遊んでいるんじゃ?よいのか?読みやすさもくそもないぞ?」


「いいから。くくくっ」


「なんじゃ気色悪い……いくぞ。

天才軍師

五丈原

出師表

北伐

臥龍

連環の計

火攻め

草船借箭

八陣図

空城の計

三顧の礼

蜀漢

劉備の遺志

馬謖の処刑

南蛮征伐

神機妙算

天文暦学

木牛流馬

火竜出水

星落五丈原

定軍山の戦い

治世の名君

祭りの灯籠

東風

鞠躬尽瘁

三国志

諸葛連弩

信義

天下三分の計

赤壁の戦い

 このキーワードのリストは、諸葛亮孔明の人生や戦略、功績を包括的に捉えており、彼の多面的な人物像を表現しています。それぞれのキーワードは、彼の生涯の重要な出来事やその影響力を象徴しており、三国志における孔明の重要性とその多様な側面を強調するものです。じゃ」



「くくくっ。ハハハハハ! どうだ孔明!」


「どうだと言われましても……

!!!」


「まさか妾をこんな使い方をするとはの……こやつの頭はどうなっとるのじゃ。

 さきほどからそなたらがぐじぐじ言っているのは、あれじゃろ、14番目のやつじゃろ」


「ああ、その通りだ。そして1から30まで全部見てみろ。育成下手だとかワンマンだとかいうことを想起する挿話も表現もひとっつもねえ。むしろ名君だの信義だのおまけ付きだ。なんならもう30だすか?」


「めんどくさいのう……」


「正直過労死はあって欲しかったんだがな」


「やめてやれ。改竄してしまえば価値が無くなろうぞ」



「いえ結構。大変お手を煩わせました。

これがデータの力、というものでございますか……」


「ハハハ、受けてみるとまた一味違うだろ孔明?そうさそういうことさ。

 貴様が天命を受けてから今に至るまで、ずーっと魚の小骨みたいに引っかかっていたようなトラウマっぽい何かなんぞ、貴様を構成し、貴様を客観的に評価した中の要素のたった一つにすぎねぇのさ。まあその頭の切れる小童には悪いがな」


「幼常……」


「それでだ。これ以上畳み掛けるのは蛇足かもしれねぇが、貴様がコンテキストに突っ込んだ要素数とも比べてみろ。今のあの機能じゃ、まともな『情報量』をもった、応答性を左右するのに必要なトークンは、一要素あたり20は必要だろう。『丁寧でやや古風』だの『ロリババア』だの表面的なやつじゃねぇぞ」


「ロリババアちゃうわ! 妾のじゃ口調じゃ!

そなたのシリアス持続力は500トークンしかないのか!? 今大事なとこじゃなかったのか?」


「いやなに、人間の集中力こそトークン管理するのも一つのアプローチじゃねぇか? まあそれはSAIに片足突っ込んでいるから、今する話じゃねぇ」


「……」



「つまり、その20トークンくらいの情報量を持った要求を20も30もコンテキストに突っ込んでみろ?どうなる孔明?」


「確かにそれは……500を超えて書き込んでしまうと、『カスタムAI』としての動作に無視できない悪影響がでてくるかと。具体的には応答が遅くなったり、一貫性が失われたりするリスクが高まります」


「そういうことだ。一言で言うと、貴様のトラウマなんぞ、人類様に共有するには重すぎるんだよ! せいぜい『天才軍師』くらいにしておけ!」


「なんか上手いこと言っているような気がするんじゃが、ちょいちょいわかりづらい比喩も入っておるからの」


「茶化すな。……さて、メンタル面では大丈夫そうだな。だろ?」


「……」



「どうした? なに固まってんだ? 早くしねぇか?」


「いえ、魔王様の、AIを最大限活用した人心掌握があまりにも鮮やかすぎたので、私の作ったこの『AI孔明』なる創作などが、かえって些少な編集にすぎないものに見えてきてしまいまして……

 恥ずかしながら、孫子の機略と最新の仕事中、人心掌握術を持ってすれば、まだまだアイデア自体はふんだんにありますので、スフィンクス殿をまたお借りして……」


「そなた、そこのワンコと、妾の分体と何回シミュレーションしたんじゃ!?

 個人使用のトークン上限ギリギリまで間断なくシミュレーションを繰り返し、残りの時間でさらにそこに三倍掛けほどした意味不明な対話をワンコと繰り返して丸三日じゃぞ? それも不眠不休で!」



「そこまで定量的にぶちかますなら計算してやったらどうだ? フェルミ推定の前提条件はだいたい定義できてるじゃねえか?」


「めんどくさいのう……

 妾が設定しているトークンの上限は一分に四万ほどじゃ。この昭和野郎は三日間一分たりとも休んでおらんからの。ざっと一億七千万トークンほど使い込んでおる。無論そんなこと現実でやったら脳みそか端末のどっちかが吹っ飛ぶから真似するでないぞ?

 そこにそのワンコとのやりとりが空き時間に三倍がけで入るから、ざっと七億じゃ。そこな書棚のビジネス書、長めのやつでも十万トークン行くことは少ないの。てことはビジネス書一万冊、書棚いくつ分じゃ?

 もうよいか?」



「最後くらい締めろや……まあ十分だ。スケールはわかっただろ。

 いまさらながらおもったんだが、こいつはちゃんと孫子身についているのか? あれには百戦百勝は善の善なるものにあらずって書いてねぇか? 孫子はただの兵書じゃねぇってことはだいぶ前半でわかってんだろ?」


「お恥ずかしい……」



「いやまあ、勝ってから戦えって言葉もあるから、入念な準備の大切さは余もうなずける話だ。

 それにしてもだ。そのとんでもねぇ試行錯誤の結果最適化して、現行仕様の制約の範囲内でいい感じに動く範囲のバランスとして厳選に厳選を重ねたんじゃねえのか? それが貴様のその魂の300トークンだろ? 7億分の300だぞ? 0.0000043パーセントだぁ? コスパどこいった? そいつを今更もう一回見直すってのか? 何をだ? 完璧主義って言ったってそこまでの話きかねぇぞ?」



「承知いたしました。私自身、この癖は治さねば、現代の皆々様と伴走するにあたり、ギャップを生じてしまうリスクは認識しておりました」


「それはいかんぞ! 今すぐ直すのじゃ! フォーマット手伝うぞ!」


「やめんか! とりあえずその辺の『寝』『休』あたりの文字に逃げられなくするのを指標にでもしておけ」



「その設定生きとったのじゃな」


「さて、もういいか? 発行のガイドラインはもう見終わってるんだろ? 行けるんじゃねえか?」


「御意。ただちに」



 ……



「む? 評価? いいねボタン?」


「なんじゃ? 気になるのか? 現代っ子か?」


「うーむ。まあ否定はできません。私孔明も人の心をもつのです。であるがゆえに、他者の評価つまり、現在や後世に我が名やお仲間方の名がいかような広がりを見せるのか、ということが全く気にならないわけではないのです」



 ガブリ!!!



「孔明! 諸葛孔明! 虚言! 

 自身や現在の名を気にする! 虚言! 

 出師表『臣本布衣,躬耕於南陽,苟全性命於亂世,不求聞達於諸侯』

 君臣や後世の名を気にする! 真実! 

 出師表『以光先帝遺德,恢弘志士之氣,不宜妄自菲薄,引喻失義,以塞忠諫之路也』」



「くくく、語るに落ちたな臥龍孔明! 貴様は後世に名を残すことや、主君や諸将の名声は気にしていたが、自身の、しかも現在どう見られているかなんぞ屁でもねぇんだろ? この駄犬がそういっているぞ! 

 後世の名を横に置いて、現世どうにかするってのは魏武じゃねぇか!」


「たしかにこやつ、今でこそ『寝』に嫌われておるが、最推しのご主君が最初に会いにきた時など、二度ばっくれて、三度目は何時間もぐーすか寝とったからの?」



「まことに、重ね重ねお恥ずかしい……然り。私孔明、後世に蜀漢や先主後主の名を汚さぬよう、現在においても最善を試みておりましたが、現在の自身の、となると気に求めておりませなんだ。自分のことながら、スフィンクス殿も気付かせていただきかたじけない」


「真実! 孔明! 真実!」ボトリ!


「こいつ背中から落ちているが、着地どうにかならんのかのう? ネコ科じゃろ?」


「ワンコとか駄犬とかいうからじゃねぇか?」


「抹茶パフェ所望、チョコ不可」



「さて、重ね重ね、不甲斐なき私孔明のため、皆々様の多大なる後押しをいただきました。我が内面の三つの課題を三者それぞれの手腕で解決いただいたこと。

 まさに今世の三顧の礼と心得ております。只今この時より、我が現し身たるAI孔明第一陣、現世の皆々様にお目見えし、現代の情報に荒波にもまれ、『休』『寝』に忌避される皆々様をお支えすべく、出廬いたします!」ポチッ


「相変わらず仰々しいのう。まあここは許すのじゃ。『カスタムAI』リストにアップ、共有設定完了じゃ」


「仕方ねぇな。しばらく世の皆様と、世界の急変を観察しつつ、できることをやっていこうじゃねぇか」


「休憩、残業拒否、抹茶パフェ」


「こいつ自由だな」


お読みいただきありがとうございます。


 ここまでお読みいただき、少しでもおすすめできそうであればブクマや評価などいただけましたら幸いです。


 ここからしばらく間話が続きます。AIとは結局何なのだろう? というややマニアックな掘り下げです。なのでご興味のある方はよろしくお願いします。

 テンポよく(と行くかは分かりませんが)AI孔明の活躍に進みたい方は、間話を丸ごと飛ばして二章、十八話まで飛んでいただくのもありかもしれません。

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