付き合っているわけではないのですが

作者: 丘野 境界

 春星高校。

 人だかりのできている屋外掲示板には、ズラリと生徒の名前が並んでいた。

 新入学生である一年生を除いた、二年生と三年生の教室の割り当てである。

 それを見上げる、不機嫌そうな顔をした一組の男女がいた。


「まーた、お前と同じクラスかよ」


 硬質の赤毛と野性的な顔つきが印象的な、男子生徒。

 名前を海東(かいとう)佐助(さすけ)という。


「呪いか何かかしらね」


 眼鏡に三つ編み、古き良き「委員長」というあだ名が似合いそうな小柄な女子生徒。

 名前を葛西(かさい)祐李(ゆうり)という。


「……前世でどんな悪事を重ねてきたんだろうな、俺」

「あたしと一緒は、罰ゲームか何かなの!?」


 祐李が佐助の足を蹴っ飛ばした。


「だって、本当に何回目だよ!? 小学校、中学校、そして高校! 名字まで同じ『カ』だから、隣の席ばっかりじゃねーか!」

「キレたいのはこっちだって一緒よ! 腐れ縁にも程があるでしょ!」


 そんな怒鳴り合う二人に、可もなく不可もなく地味な顔つきの男子生徒が、強引に割って入った。


「ま、まあまあ、二人とも。その辺で落ち着いて」


 脇谷(わきや)和人(かずと)

 佐助と祐李と同じく、幼馴染みの一人である。


「おう、和人」

「アンタも、また同じクラス?」

「まあね。それよりも、目立ってるよ。ほら……」


 和人は、佐助と祐李に、周囲の声を聞くよう促した。


「またやってるよ、あの二人」

「毎年恒例夫婦漫才。最早風物詩」

「もうさっさと結婚しちまえよ」


 そんな声に、二人は顔を真っ赤にした。


「「冗談じゃないぞ(わよ)!!」」


 周囲の生徒達は笑いながら逃げ出した。

 しばらく息を荒くしていた佐助だったが、舌打ちしながら校舎に向かって歩き出した。


「ったく、今年もまた一緒かよ……ホント、代わり映えしねーなー……」


 それを追おうとした祐李だったが、もう一度掲示板を見上げると、和人に見えないようにグッと拳を握りしめた。

 見えてるけどね。

 口元緩んでるけどね。

 突っ込みたいが、和人は我慢した。


「おい、行かねーの?」


 佐助の声に、祐李はハッと佐助の方へ駆けていく。


「あ、ちょっと待ちなさいよ。何で勝手に行くのよ」

「分かった。先は譲るぜ」

「どうして、一緒に行くって発想がないのよアンタは」


 祐李のローキックを、佐助は軽く回避した。


「だって、一緒に歩くと恥ずかしいし」

「ネタが古いし、キモいわよっ!」


 ハイキックからミドルへの回し蹴り。

 これもまた、佐助はミリ単位の間合いで避けきった。


「おいやめろ。理不尽暴力系ヒロインは今時流行らねーぞ」

「正当性があるから、問題ないわ! 壊れた家電も叩けば直るって言うでしょ!」

「テレビ扱い!?」


 ギャイギャイ騒ぎながらも校舎に進む二人の背を、軽く息を吐いて和人も見ていた。


「……一応、僕も小学校からずっと、二人と同じクラスなんだけどねえ」


 苦笑いを浮かべながら、和人は二人を追って歩き出した。

 元号が変わりますし、せっかくなので平成最後に何か新作書こうかなって考え、構想十分ぐらいですが、何とか書き終わりました。