髪を断つ

作者: 揺木

 男女共に髪を伸ばす風習のあるこの国では、髪を短く切ることは特別な意味を持つ。

 生命力の象徴たる長髪を切り落とすことは即ち死を意味し、翻って死を目前にした者が髪を短く切りそろえる風習が生まれた。

 死を目前にした者――病の床にある者、俗世を離れ神の元に暮らそうとする者。そして何より。

 これから命を摘み取られようとする者たちにも、その儀式は執り行われる。

 最も、断頭台が現役で活躍しているこの国において、長髪を切り落とすことは実務的な意味合いが大きいという声もあるが。

「咎人に無辜の人々や神の身元に参る者たちと同様の儀式をするなど以ての外」等という声があるのも事実。

 だから、咎人たちの断髪はあくまで首を切り落とすのに支障がないようにするためだと一々お触れを出すのである。