12話『ホテルにて』
プログラマーの多くはラブホテルに入ったことがない。これは統計から見ても明らかだ。何故か? 僕にはわからない。
それはともあれラブホは郊外に多い。客の多くは車で来るので、駐車スペースを広く取る必要がある。だからといって奥多摩に作って儲けが出るのだろうか。
まあ少なくともヒッピーハーブタヌキランドよりは客入りもあるみたいだ。何台か車が止まっていた。
レズが指さして言う。
「あそこの車の給油口ねじ開けてガソリン盗みましょうか」
「躊躇いなく犯罪を示唆するなレズ」
「だ、駄目だよ。とにかく、中に入って電話を借りないと……」
美月さんはとにかく恥ずかしそうだ。どうにか守ってやらねば。
相変わらずここでも電波は入らない。携帯の電波が入らない場所で営業して大丈夫なのだろうか。或いは、客層的に携帯も繋がらないことが大事なのかも知れない。
「とりあえず美月さんはここで待っていてください。僕が電話借りてきます」
「だ、だ、大丈夫だよぉ、おばちゃんが行ってくるから」
「待ってください! 美月さんと一緒にラブホに入るという貴重な体験をしたいからパイセンだけ残しましょう! そしていっそ二人で泊まりましょう!」
わいのわいのと言い合って、結局僕らは三人でラブホに入ることになった。
受付は薄暗く、監視カメラが数台光っている。大きな自販機のような掲示板に空き部屋の案内があり、無人販売で鍵を受け取れる方式らしい。
それでも防犯上誰か居るのであろう受付にはカーテンが掛かっている。美月さんとレズはキョロキョロと落ち着かない様子だった。
僕は受付の窓ガラスをコツコツと叩く。
「はァい。どちら様でェ?」
低い女性の声がカーテンの奥から響いてきた。
「あの、山道で車のガソリンが尽きたので、ロードサービスに連絡を取るために電話をお借りしたいのですが」
「いーいですともォ……ただ、この時間だと来れるかわかりませんが……場所が場所ですので……」
スッと受付にカーテンが掛かったまま、その下から有線の電話機が差し出された。
外は既に真っ暗になっている。街灯すら無い山奥のラブホ。事件でも起こりそうなシチュエーションだった。
美月さんが暫くロードサービスと電話をしていたが、
「奥多摩の夜道は極めて危険でサービス対象外だから朝にならないと来れないって……」
「こうなれば仕方ありません。私と美月さんがラブホに泊まってパイセンは車中泊で」
「迷いなく言うな」
僕は肩をすくめながら言う。
「別にそれでもいいけど、そもそもお前寝る前に抱きつかないと死ぬぞ」
「くっ……私を人質に取ったつもりか!?」
「どういうつもりだよ」
「こ、こうなったら三人でニーヴァに泊まろうか……」
美月さんがフンスと覚悟を決めたような表情で言うので、慌てて僕とレズが止める。
「いや待ってください! 美月さんを車中泊なんてさせるわけにはいきません!」
「そうです! お体に障りますよ! あっなんかこの言葉エロい! ふひっひー美月さんのお体に触りましゅううう」
「突然興奮するなキモイ」
とにかくこのキモと僕は治療のために十二時前後まで一緒にいなくてはならないけれど、美月さんはそうではない。
ラブホとはいえ車内よりは宿泊設備が整っているだろう。
美月さんは背中を向けつつ言う。
「じゃ、じゃあ。三人で……ここに泊まる?」
「ええええ! 男とラブホに泊まるとか男根崇拝主義への屈服に……!」
「もういいだろそれは! お前何回も屈服してるし!」
「とにかく、三人で車に泊まるか、三人でホテルに泊まるかのどっちかにしよ」
し、しかし。
こういうホテルって三人で泊まってもいいものなのか? 例えば男二人でラブホに泊まると止められるという噂もあるけれど。
僕がちらりとカーテンが閉まっている受付に目をやると、
「いいよォ……三人いいよォ……」
と、地獄の底から響くような声が聞こえてきた。なんなのここの管理人。怖いんだけど。
レズ子はなにやら僕を睨みつけて威嚇するように「うー!」と唸った。
「美月さんを車に泊めるわけにはいかないから、やむを得なくホテルにするけど、絶対変な気を起こすなよ! いっそ今すぐ去勢してくれ!」
「しねえよ!? 起こさないし!」
そんなこんなで僕らはラブホテルに泊まることになってしまった。ううう、なんだろうか。変な気を起こすなとは言われたけど、美月さんと一緒にこういう施設に入るというのは気まずいようなドキドキするような。
僕は販売機の前に立って、適当に部屋を選ぶ。
「……すみませーん。これ電子マネーで払えます?」
「無理だよォ……」
受付から絶望的な声が聞こえる。
「おばちゃんが出しとくよぉ」
「美月さんにばかり払わせるわけにはいきません! 半分は私が!」
「…………」
初ラブホで女性二人に代金を払わせる男が居た。
僕だ。
日本でもっと電子マネー払いが普及することを切に願う。
*****
ホテルの部屋は広く、ベッドも大きかった。生憎とベッドは一つだったが。なんかオシャレな照明器具。ソファー。テーブル。TVモニター。ゲーム機……
「すげえ! 『ぴゅう太』だ!」
古いゲームパソコンがテレビに接続されてるのを見て僕は興奮した。
すかさず起動。ちゃんと動くよ!
「な、なんなの成次くん、そのピコピコ」
「このピコピコは1982年に発売された『若干パソコンとして使えなくもないゲーム機』という先鋭的なマシンです。自分でプログラムを組んでゲームも作れるという優れものでして……よしDOOMのソースを無理やり組み込もう。DOOMが発売されたのはぴゅう太の十年後。十年前のマシンにDOOMを組み込むタイムスリップDOOMだ!」
若干内部のゲーム用素材が乏しいが、余計な機能をデリートしてDOOMがプレイできる余地を作る。もはや素材から作ってしまおう。
DOOMのソースコードなら公開していることもあって見ないでも打ち込める。多くのプログラマーはきっとそうに違いない。ここにDOOMができるぴゅう太という貴重なマシンを作り上げることができる。
「これだからオタクは。それより美月さん、ここに色々注文できる端末ありますよ。軽食から……あっ化粧品もある。結構いいやつ」
「頼もう頼もう。これでお風呂も入れるねぃ。ええっと……ひゃい!? 変な画面になった!?」
「美月さんそれは男根崇拝主義的な大人の玩具の注文画面です! かなまら祭りです! これに頼るのはレズ界でも軽蔑されます!」
何を見てるんだ、何を。
二人があれやこれや注文しているのを尻目に、僕はぴゅう太の古くて使いづらいキーボードを取り外して改造したipadに繋げて直接ソースコードを入力した。
「それにしても……こんな風になってるんだねぃ。ええと、この中でラブホテルに入るの初めての人!」
美月さんが部屋を見回してそう言うので、僕も片手を挙げた。
そして意外そうな声が上がる。
「え!? 汝鳥ちゃん入ったことあるの!?」
「ふっふっふこのレズ上位者の私を舐めてもらっては困ります。いえ、舐めてください。舐めさせてください!」
「何言ってんだお前……」
「これでもラブホテルにはあちこち旅行する度に入ってましたからね! 詳しいんですよ!」
「へえーどんなのがあったの?」
美月さんの疑問の声に、あいつは少し考えるように黙って、小声で言う。
「ちょ、朝食バイキングとか大浴場とか……」
「ラブホテルで!?」
他の客と顔を突き合わせてそんなことするか!?
怯んだようにあいつは呻いた。
「ま、まあ……正確には『法華クラブホテル』なんですけど……」
「ただのビジホじゃねーか!」
「いいだろ別に! ホスピタリティ高いんだよ! レディースルームもあるんだぞ!」
無駄に知ったかぶりをしたかっただけらしい。
何はともあれ二人は化粧品などを注文して受け取っていた。その間も僕はDOOMを作成中だった。
まあ正直なところ、美月さんとこんなホテルで一晩明かすとなると緊張してしまうので、DOOMがあれば心穏やかに過ごせる。
背中でブツブツと文句を言いつつ、夕方の抱きつきノルマを消化しているレズもDOOMを作っていて気にならなかった。
それから暫く経過し、
「成次くーん、わたし達先にお風呂入ってくるねー」
「覗くんじゃないぞ! 覗いたら死刑だからな!」
「へいへい」
そう適当に応える。二人が風呂場に入っていき、僕はipadからの自動で高速に転送されるソースコードを打ち終わった。
さてテストプレイでも……と、思ったけれど。
ふと、ラブホテルに隠しカメラがあって盗み撮りをしている、という都市伝説を思い出した。
せっかくなので本当かどうか試してみよう。
僕は簡単に電磁波の発生源を探すプログラムを起動させる。携帯とかリモコンとか部屋の中で失くしたときに使うため作ったやつだった。電池だろうがコンセントだろうが、機械が通電していれば必ず電磁波が発生して感知することが可能になる。
当然ながら部屋中の家電などに反応するので複数あり、ipadでのカメラ機能でリストアップされつつ自動的に識別されていく。
そんな中で超怪しいのがあった。ベッドの枕元にある小さなチェスト(薩摩ではなく引き出しのこと)に入っていた避妊具の箱から反応があったのだ。
調べてみると箱に組み込んであったのはまさに盗聴器。
録音しつつ無線で音声をどこかに飛ばすタイプのやつだった。製品名『既成事実ゲットくん』。
あれ? 音声か。映像じゃなくて。盗撮じゃなくて盗聴が目的なのか……
なら話は単純だ。僕の改造ipadで盗聴器の電波を受信してアクセス、設定した暗号キーを入れないと以後の操作不可能に変更。録音データを改ざん。そして電波で飛ばしている音声にもドラマCD音声をエンドレスで垂れ流しておく。これでもはや盗聴も不可能な物体になった。
ドラマCDのチョイスは、眩しすぎてため息が出るような青春恋愛系だ。盗聴なんてしている現状を省みて死にたくなるに違いない。
それにしてもこの避妊具の箱型盗撮器、邪悪な発明だけどよく出来てるというか……ん?
なにか違和感を感じて中身を取り出す。ビニールに入ったゴム製の避妊具。なんとなく天井の照明にかざしてみる。
穴空いてるわこれ。
盗聴どころかこんにちは赤ちゃんまでとは二重に邪悪だ……ちょっとこれは外道なので回収しておこう。他のお客のためにも。アクセスして親機との接続を完全に切断。ポシェットの中に箱ごと放り込んでおいた。なあに、ラブホにある避妊具を箱ごと持ち帰っても、アメニティみたいなもんだろう。
他にも怪しいものが無いか調べる必要があるかもしれない。二重三重に別種類のやつを仕掛けることなんてあんまり無いだろうけれど。
ipadのカメラで適当に部屋を撮影すると、画像処理プログラムが指示したものを検知してくれるシステムを組んでいる。金属探知機能さえ改造して付けてるし、なんだったら強制的な妨害電波で周囲の通信をすべてカットすることも可能だ。結構バッテリーを食うんだけど。
更にはカメラも警戒してレンズやガラスで登録して探す。部屋中の類似物がピックアップされた。
殆どは照明器具のようなもので、念のために拡大して確認するけど問題は無さそうだった。
っていうか、ベッド近くの壁がデカデカと反応してるんだけど?
僕は近づいて触れて確認する。
普通の白い壁に見えるけど……なんだ? モニターなのか?
近くに操作パネルみたいなのがある。ラブホテルってよくわからん設備があるんだな……パネルを適当に押してみた。
白い壁が消えて、その壁の向こう側である広い浴室がモニターに映った。
「ファッキントォォォッシュ!!」
僕は頭を抱えてのけぞり、ベッドに背中から倒れ込みつつ叫んだ(マカーは皆こう叫ぶ)。チクショウ! 罠だったのか!!
当然ながら!! 浴室には……その画面にはお裸の美月さんが!!(ついでにあいつも)
『ど、どうしたの成次くーん! なにか叫び声が聞こえたけどー』
『どうせDOOMですよ』
風呂場から反響する声が聞こえてきた。
僕は恐る恐る、顔を手で隠しつつ薄目で状況を確認する。
画面に映る美月さんは首を傾げた様子で浴室の入り口を向いていて、そして隣には画面の方を向いてボディソープで泡だらけになりつつ体を洗っているあの女もいる。
美月さ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
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くあっ!! 美月さんのッッ!!! 裸なんて見てはいけないッッ!! 脳内映像の情報を削除しつつ目を瞑った。
僕のようなゴミが見ていいものではない。僕のようなゴミはあのゴミ女の貧相な裸がお似合いだ。いや、何を言ってるんだろう。とにかく混乱してでも脳から消し去る。
あの中は敬虔で善良なるもの以外見てはいけない。……僕たちは見られない(レズ後輩も含むはずなのだが)
二人の様子から、このベッドのモニターは浴室との壁を透明にするものではなく、こちら側から一方的に見れるようにするマジックミラーのようなものらしい。
つまり僕が覗きに等しい行為をしたということは、まだ二人にバレていない!
いやもう罪悪感が酷くて拳銃とか持ってたら自殺しかねないけれど、美月さんに幻滅されるのは死ぬよりつらい! 僕が眼球をえぐり出して謝ることで美月さんはこの事実に気づき、ショックを受けるだろう。僕が罪悪感を抱え続ければ彼女は傷つかない。それに自害や自傷行為をしないと血判状を作ったばかりである。
この覗いたという恥は墓まで持っていこう……
僕は見ないようにしながら手探りで操作パネルを動かして壁を元に戻した。
「くっ……駄目だ。僕は脳をやられたぜよ……」
視覚情報を削除したがこのままだとキャッシュから自動修復されかねない。
僕は一旦シャットダウンすることにした。つまり、気絶する。プログラムアップデートには今すぐの再起動が必要です。
シャットダウン。僕はベッドに倒れ込んだ。プログラマーなら皆気絶ぐらいできる。
*****
「最近ゲームで歴史上の人物とか女体化してるじゃないですか。あれだと嫁とレズってると思うと夢がありますよね」
「子供とかどうなってるんだろうねぃ」
わたしはお風呂に一緒に入り、対面に座っている汝鳥ちゃんの話に相槌を打った。
大きいお風呂は気持ちがいい。一緒に誰かと入ると、ちょっとした水遊びみたいで楽しい。まあ、その相手がやたら露骨にお胸とかちら見して来たとしても。
成次くんも一緒の三人お出かけでこんなことになるなんて思わなかったけれど……若干なにか作為的なものを感じるのが難点だなあ。ガソリンとか誰かに抜かれてたんじゃないかなあ……心当たりはあるんだけど。
「子供……フヒヒ美月すわわわん、子供は何人欲しいですか? いやこれは単なる疑問なんでゲスけどね……フヒヒ」
「そだねぃ。何人居ても可愛いと思うからなあ」
実際、お兄ちゃんとかの甥っ子姪っ子とはお盆正月で会う度に可愛がっている。いいなあ、と思う気持ちもある。他の家族から、早く結婚して子供も作ればいいのにと言われたりもする。
だけれど……なんだろうかなあ。
今は成次くんと汝鳥ちゃんを見てるだけで割と満足しちゃってるのがいけないのかなあ。
「汝鳥ちゃんは一姫レズ太郎だっけ?」
「い、いやいやいや。あの発言とかは忘れてくれれば」
「でも汝鳥ちゃんの子供可愛いだろうねぃ」
「真っ先に美月さんに抱かせますよ!!」
「子供を作るには男の人がいるけど」
「医学の進歩! 医学の進歩で女同士の子作りが! け、け、決してパイセンとなんて!」
面白い。別にわたしは成次くん相手なんて言ってないけど。
ここのところ二人の距離がグッと近づいて、変化が楽しい。
成次くんは汝鳥ちゃんのことを生意気だなんて思ってるけれど、実際の汝鳥ちゃんは気弱なのだ。
なにせ最初会ったときは電車で痴漢されて顔真っ青になってたぐらいで。わたしが助けて、その縁で雇うことになった。
その時の汝鳥ちゃんは男の人が怖くて、同じ職場に成次くんという男性が居ることすら気後れしてた。
なのでわたしが「いっそ攻撃的に接してみたら? 成次くんには悪いけれど」って助言したところ、まあ口喧嘩みたいな形にはなってもなんとか会話できるようになっていった。成次くんは子供の頃から悪口の応酬は得意で、だけど手は出さないから大丈夫だと思って。
まあ暫くしたら汝鳥ちゃんもすっかり素でテンションの高い状態になったんだけど。
そんなこんなでここ何日かは、顔真っ青状態から少し照れるような反応になってきた汝鳥ちゃんが実に可愛いのでした。
「汝鳥ちゃんって可愛いなあ……」
「ハッ……! 体をレズ的に狙う発言……! バッチコイですよ! バッチ!」
「可愛い可愛い」
「くっ……可愛いのニュアンスが子猫とかみたいな……ネコ……私はネコでもタチでもいけます!」
きっと成次くんも汝鳥ちゃんの可愛さに気づきつつ、いつも口喧嘩ばっかりしてたもんで認めたくないんだねぃ。こんなに可愛いんだから絶対に好きになるはず。
成次くんが……まあ、汝鳥ちゃんじゃなくても、誰か好きな人と一緒になれたらおばちゃんも安心なんだけど。お父さんなんかは、成次くんでいいからくっつけって言ってくるけど本人の意志が大事だと思うし。
でもそうなったら寂しいだろうなあ。いつまでも一緒にいれたらなあ。
時間は容赦なくすぎてわたしもアラサーになって。まあ、きっとまだ子供みたいな意識のままこんな年になってしまったんだろうとは思う。いつまでも変わらない関係なんてない。みんなどこかで自分の道を進んでいく。
「どうしました? 美月さんぼーっとして。湯あたりですか!? おぱ、おっぱ、心臓マッサージを!?」
「いやあ、汝鳥ちゃんが娘だったら良かったなあって」
「養子縁組しましょう!!」
うーん、そうすると……汝鳥ちゃんと成次くんがくっつけば成次くんも義理の息子に……
そんな取り留めのない話をして、お風呂から上がったわたし達は脱衣所で体を拭いた。
汝鳥ちゃんがやたら拭きたがったので任せてみるとふわふわと丁寧に肌に優しく拭いてくる。ただまあ、目がギラギラと体に向けられていたけど。
女の子大好きなのはまあ個人の趣味として、こんなアラサーのおばちゃんに惚れなくてもいいのになあって思う。
どうしてもなにかこう、エッチ? みたいなことがしたいなら、やってみてもいいんだけど……おばちゃん経験無いからさっぱりわからないのでなんとも言えないなあ。
お風呂上がりのケアをして部屋に戻った。
「成次くーん、お風呂上がって……ってあら」
「うわなんでベッドの真ん中で寝てるんだパイセン! こら! 男は天井から吊るされて寝るのが礼儀でしょ!」
「実家のお仕置きじゃないんだから」
「……やってるんですか? 天井吊るし」
よくお父さんがお母さんに怒られて吊るされてる実家はさておき。
「疲れてるのかもしれないから、そっとしておこうよ」
寝顔を確認するに、どこか苦しんでいる様子もないし呼吸も規則正しい。
急激な脳梗塞で倒れた……とかじゃないとは思うけど。とりあえずわたし達は軽食を頼んだ。成次くんが後で食べられるようにピザとレッドブルも。
テレビを見たりしながら過ごしていたけど、
「早いけどもう寝よっか。成次くんも起きないから」
「了解しました!」
「もう、成次くんポシェット付けっぱなしで眠ってるし……」
外してあげると、ぽろりとポシェットからなにか転げ落ちた。
「あれ?」
拾い上げると。
「コッコッココココンドーム……」
顔が熱を持つ。実は初めて生で見て触った!(アラサーにもなって) 成次くん何持ってるの!?
「うわあああ! 美月さんそれに触っちゃ駄目です! 因果逆転で男根に触れるも同然です!!」
「せ、せせ、成次くんも男の子なんだねぃ……こういうの持ってるんだ……」
「ふぎゃあああ! 馬鹿! 犯罪者! なに考えてるんだジャップオス!」
汝鳥ちゃんがバシバシと寝ている成次くんを叩くけど、全然起きずに寝たままだった。
「や、やっぱり男と寝るとか危険極まりないですよ! これをお風呂場に閉じ込めて寝ましょう!」
「風邪引いちゃうよ。大丈夫。もし何かあったら、おばちゃんが助けるから」
「うううう……」
何はともかく、寝る前の抱きつきは汝鳥ちゃんに必要だ。早めだから夜中に起きないように抱きつきつつ寝るのがいい。
添い寝するように汝鳥ちゃんが仰向けになっている成次くんの隣に寝転がって抱きついた。
「じゃあおばちゃんはこっち側で……」
「こっこの野郎……美月さんが添い寝とか羨まけしからんことを……美月さんが襲われないように、私が掴んでおかないと……」
と、成次くんを挟んで川の字になって、わたしはベッドの枕元にあるスイッチで部屋の電気を消した。
すぐ触れ合う隣に成次くんが寝ている。
なんとなくわたしも、汝鳥ちゃんみたいに成次くんの腕に抱きついてみた。手の指を絡めてつなぐと、なにか安心する。
もし何かあったら。
そう思うけど、もしもわたしが成次くんになにかされたら……
どう対処するべきかな?
汝鳥ちゃんもわかってると思うんだけど。ラブホテルに一緒に入って同じベッドで寝るってだけで、もう相当に許してるってこと。
それにしても……はあ、成次くん好きだなあ。
ずっとこのままどこかに行かないでくれたらいいのに。
****
真夜中にアップデートが完了して僕の意識が復活したのだけれど、どういうわけかラブホのベッドで二人に挟まれて寝ていた。
なんで!?
僕を蹴落として二人で寝ればいいじゃない!
っていうかなんなの。お風呂上がりのいい感じな匂いが左右から襲ってくる上に、二人共僕の腕に抱きついたまま寝てるんだけど!
なんなの!
特に美月さん!
そんなしてたら男を勘違いさせるやろがい!
反対側のレズも男嫌いなら離れて眠りなさいよ! 寝顔結構可愛いだろ!(混乱中)
くっ……脳内のヤバイ映像を消すために意識をシャットダウンしたというのに。
君たち女性二人は身の危険とか男に対する常識を持って欲しい。僕は決して手を出さないけど! 僕は決して手を出さないけれど、ラブホテルで男と抱きついて寝るとか合意してるようなものだからね! 僕はそんな勘違いしないけど!
覚えておいて欲しい。プログラマーは勘違いをしない。だって致命的だから。
美月さんは本当に優しく、そしてガードが甘い。僕が守護らねば……美月さんがいずれ彼女を守り信頼しあう伴侶を得るまでは。
しかしながらそんな誰もが納得する素晴らしい相手がいるのだろうか?
本人の意思を尊重したいとはいえもし美月さんが、彼女自身の好みだということでどこぞの馬の骨的な、金をせびっては軽めのDVとかを振るうような男を選んだとしたら……きっと根津パパさんだけではなく僕も、そして隣に寝るレズも許さないだろう。満場一致で相手を消滅させる。
それはともかく。
今この状況だ。仰向けで寝ていて左に美月さん。しかもなんか腕とか手とか絡めてる。ヤバイ。
このままだと僕はなんというか、許されざる感情を得かねない。命が掛かっているというのに! 自重しろ!
こうなれば……
・美月さんに背中を向けて、レズ子ちゃんの方を向いて眠ろう! 安全!
・いっそ美月さんの方を向いて眠ろう。いい夢見れるで!
・現状維持。真上を向いて意識を再び強制シャットダウンしよう。
どうするべきか……!
・汝鳥の方を向いて寝る(汝鳥の警戒心↑・美月の応援度↑好感度↑)
・美月の方を向いて寝る(汝鳥の好感度↓警戒心↑・美月の好感度↑↑↑)
・天井を向いて寝る(汝鳥の警戒心↓・美月の好感度↑)
美月さんガバガバに好感度上がりすぎる
汝鳥は警戒心が下がると駄犬みたいな懐き方をする
瀬尾クゥンはどれを選ぶべきかみんなで考えてみよう!
ちなみにこの店員は根津パパじゃないです
次回は一週間後ぐらいに更新します
なぜかって書き溜めが切れて(ry
地味に今回までで本一冊分ぐらいの文量になってるからね!
・屋根裏から鮫島さんが!(成次重傷→死亡 美月キッチンで調理ミスをし焼死 汝鳥入水自殺バッドエンド)
・そんなことよりDOOMだ!(伝説のDOOMルートへ)