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姉妹百合の爆誕



 古城にたどり着いたリアは少女が怪しい白ローブの逆張りPTに襲われてる現場に居合わせた。


 数の不利、戦略の不利、相性の不利。


 可愛い後輩吸血鬼の奮闘を陰ながら見守っていたリアだったが、片腕を失い瀕死の重傷を負った少女をそれなりの歳の爺さんが厭らしい笑みを浮かべ迫っているのを見て、我慢ならず思わず制裁を下してしまった。


 その後、リアの指を咥え込み、可愛らしくもどこか色気を醸し出しつつ舐めるアイリスと名乗った可憐な少女との対面をすませたのだった。



 「私は、始祖よ」



 そうはっきりと答えたリア。

 すると単語に反応したのか、もしくは別の理由か。

 アイリスと名乗った少女の顔色が今更になってあまりにも悪いことに気づく。


 元々の種族柄、血の気が薄く白い肌であることは理解している。

 しかし、それにしたって先程まで火照ったように頬を染めていた状態からは想像もできないほど、アイリスの顔色は酷いもので今にも倒れるんじゃないかと心配になる。


 そのあり様は、体を小刻みに震わせ、瞳はまるで見たくないものを見ないよう必死に視線を地面へと逃がしているようにも見える。

 まるで、絶えず押し寄せる何かに必死に耐えるような、そんな表情。



 (どうしたのかしら、そんなに震えて・・・・。 取り合えず——《血脈眼》)



 アイリスを見つめながら対象の生命力や状態を完全看破するスキルを使用して、流れてくる状態情報に唖然としてしまう。



 『行動力低下(微)、移動速度低下(中)、STR低下、免疫耐性低下(中)、視界収縮、感覚麻痺、思考阻害』



 ナニコレ・・・・?



 (デバフめちゃくちゃかかってるんだけど、え?  ・・・・うーん、あれ? どこかで見た事あるデバフのピックアップ・・・・、あっ!)



 思い出したのは【祖なる覇気】という吸血鬼の始祖固有スキル。


 始祖に進化したことで取得した種族スキル。

 その効果は対象に『LVの開きに応じた複数のデバフを付与する』といったもので、その開きは10単位広がるごとに効果が重症化する格下狩り最凶スキル。


 (あ~、最近じゃ皆同レベルだったからすっかり忘れてた。 《紐づけ機能》だ!)


 LFOではスキルや魔法を行動や発言に紐づける機能が存在した。

 それはRPを促進するものであり、プレイの快適化を促すものでもあった。

 RPとは特定の層を除いて慣れない人には気恥ずかしいもの以外の何物でもない、そこでそんな層をお助けするのがこの機能。


 スキルや魔法の名前を直接言わなくても『それとない』言動で発動が可能。 熟練のプレイヤーであれば思うだけで発動可能ではあるのだがそれが難しい初心者や中級者は助かる機能でもあったのだ。



 つまり、リアも幾つかそういった設定をしており、【祖なる覇気】のトリガーに設定している単語は"始祖"。

 リアもまた、RPの一環で遊び半分に設定したものだった。



 原因がわかったリアは慌ててスキルの使用を解除を試みる。

 やり方を知ってるわけではないが、依然と同じであればそう難しいことではない。



 すると目に見えて目の前のアイリスの状態が変化が見られ始め、強張った表情や肩の力が抜け息は荒いままだが視線も落ち着きを見せ始めていた。

 リアのうっかりによって齎した数々のデバフ付与、不可抗力とはいえ流石に申し訳なく思った彼女は自身の犯してしまった過ちをしっかりと告げ誠心誠意謝ろうと思った。 



 「ごめんなさい、手っ取り早く教えるにはこの方法が"いいと思った"のだけど・・・・」



 リアは逃げた。



 素直に理由を述べようかギリギリまで悩んだが、仮にも熟練のプレイヤーを自称しており、それなりにプライドがあったリアは初心者プレイヤーを騙すような要領で平然と嘘をついた。


 自分は間違えてないですよ、想定通りに行動したんですよ、と。


 しかし、そんなリアの汚い心を知らぬアイリスは未だ落ち着かない息を整えながら、絶え絶えになりつつも必死に答えようとしていた。



 「・・・・っ、い、いえ、ほっ本当に、始祖様にお会い出来て光栄にございます。 それに、尊き血を数滴も頂けるなんて・・・・どおりで、その、深く深く感謝申し上げま――っ」



 (良い子だぁ・・・・少しだけ反省。 んっ?)


 被害を被ったのはアイリスでありながら、他者を思いやりつつ話すその姿勢に感動していると、唐突に自身の喉を絞めるように抑えはじめ、抑えきれない苦痛を体現するかのようにじたばたとその場でもがき出す。



 (え、えっなに!? 今度はなに!!? また私なにかやっちゃった・・・・?)



 態度には出さないよう務めつつも冷や汗をかき、内心大慌てで様子を観察し思考を巡らせるリア。


 アイリスは苦しそうに口を開くと、何度もえずいては整えた息をまた荒げ出す。

 胸がはち切れんばかりに逸らし、痙攣したように体をビクビクと震わせながらも口を大きく開いて酸素を取り込もうと荒い呼吸を繰り返した。

 永遠に続くように思われたそれは数分ほど経つとあっさりと終わりを迎えた。


 リアはただ見てることしかできなかった。



 「はぁ・・・・はぁ、っ、・・・はぁ」



 息を荒げながらぐったりとした体を噴水の縁に預けるアイリス。

 その様子を申し訳なさそうに視線を彷徨せながら、ちらちらと窺うリア。


 2分が経過した辺りで漸く息が整いつつある彼女にリアはなんとか平然とした表情を作ると落ち着いた声音で語り掛ける。



 「落ち着いたようね。 ・・・・・・・・・くっ苦しめるつもりはなかったんだけど、その」


 「はぁはぁ・・・・、どういう・・・、ことっ」


 「始祖の血が、濃すぎたんだと思う。 再生を優先させるつもりだったんだけど・・・・上位吸血鬼では体が受け付けなかったのね。 そうみたい・・・うん」



 その言葉に納得したのか、しばし黙りこむアイリス。


 流石のリアもここで平然となあなあで済ませるメンタルは持ち合わせていなかった。


 今回のこともうっかりとしていたリアが全面的に悪く、勢いと堂々とした姿勢で潜り抜けようと考えていたが、目の前でああも苦しみもがかれては毛玉の様な良心にも多大な負荷を与えるというもの。 



 一言でいうなら、(可愛い子が自分の責任で苦しむのが)"耐えられなくなったのだ"。




 「あ、あのね、 その――「しっ始祖だとぉぉぉお!」」



 何とか謝ろうと口を開いたところで、いまのいままで存在を忘れていたケイなんちゃらが声を荒げ言葉を遮った。


 リアは必死の覚悟を踏みにじられ、なにより可愛いアイリスとの会話に無粋にも割り込んできたことに苛立ちを覚え鬼の形相で振り返る。


 そこには四肢を張り付けるように突き刺していた血剣が地面に散乱しており、拘束を抜け出したケイなんちゃらは血走らせた目でリアを凝視していたのだ。



 「あ、ありえん! ・・・・・ありえんありえんありえんっ!! だ、だがもし・・・・もしもそれが本当だったとしても、もっ、もう遅い! 貴様が、い、いくら始祖であろうと! この"世界戦争"は既に、我々人類種の勝ちなのだぁぁぁ!!」



 ケイなんちゃらの地面にはいつの間にか魔法陣が描かれており、言い終えると同時に青白い光を漏らし始めるのだった。


 (あれは・・・・)



 「転移ですわっ」



 疲労が残っているであろうアイリスはよろよろと立ち上がり、両腕を翳して魔法の構築に入りだす。


 だが、ケイリッドは既に魔法陣をほとんど完成させており、魔法が放たれるより先に転移にて逃亡を成功させているだろう。


 それは勝ち誇ったケイリッドの顔と悔しそうに唇を噛みしめるアイリスの表情を見れば明白だ。


 しかし、その未来はこの場に常識を覆す存在がいなければの話。



 (【瞬間加速】【縮地】【鮮血魔法】——血剣・居合い)



 ケイリッドの懐には既に血剣を振り切ったリアが何でもない様な表情で背を向けており、手に持った血剣はドロドロとその姿を元の血の姿へと変えていた。


 起きたことに理解が追い付かず、魔法の詠唱が中途半端になりながらも唖然とするアイリス。

 その視界にはリアの背後で勝ち誇りながらも生気の感じない表情で、ケイリッドがその頭を地面に落とす様子が映し出されていた。



 「ただの転移が通じるわけないでしょう?」



 既に息耐えた爺に対し、振り返りながら口ずさむ。

 リアからすれば舐め腐った動きに一言添えてやり、怒りが収まらないので死体蹴りでもして、その辺の木の枝で煽るかのようにツンツンしてやろうか悩むがアイリスの手前燃やすだけに留めた。



 (【炎熱魔法】 汚物は消毒、ってね♪)



 紅い炎がゴオゴオと燃え盛り、数秒もせずに影も形もなく焦げ後だけを大地に残して焼却を終えると、いつのまに近くまで来たのかアイリスが胸元で両手をもじもじさせながらもリアを見つめていた。


 「ぉ、」


 「お?」


 「おっ、お見事でございますわ!!」



 それはまるで我慢していたものが爆発したかのような、紅い瞳をこれでもかと見開かれながらキラキラと煌めかせた視線で前のめりに称賛の言葉を捲し立てるアイリス。



 「・・・・・・ぷっ」



 その有り様に既視感を覚え、思わず吹き出してしまうリア。


 それは去年だったか一昨年か、初心者プレイヤーが向けてきた瞳と全く同じものだと気づいた時、何故だか思わず吹き出してしまった。


 そんなリアの様子にきょとんとして不思議そうな表情をつくるアイリス。


 確信はしていた、自分でもそうだと。

 けれども、まだどこかゲームの様に考えてしまい絶対的な実感が持てずにいた。

 だがここはゲームでもましてやゲームの中の世界でもない。

 生きた存在が居る、LFOの世界に似ていたながら完全に違う異世界。


 それをはっきりとリアの中で認識した瞬間となったのだった。









 その後、話を変えないといつまでも絶賛される勢いだった為、リアは場所を移し早速認識したこの世界について情報を得ようと考えた。


 幸い相手は自身に好意的な態度を持ってくれている、質問すれば素直に教えてくれるかもしれない。



 半壊した古城に入り、通されたのは被害を受けていない入口から離れた一室。



 部屋に入れば数々の調度品が目に入り、埃の匂いが微かに鼻に届く。

 あまり使われていない部屋なのだろうか。


 中央には長方形の控え目な装飾が施されたどこか品を感じるテーブルが置かれており、それを挟むように2つのソファと1つの椅子が配置されている。


 部屋の隅には黒一色の落ち着いた印象を受けるクローゼット、入口付近には濃い木の色に金の装飾が目立つ棚が数個並べられている。

 それらの棚の上には様々な小物が無造作に置かれており、素人目ながらどれも価値がそれなりにありそうに感じられた


 リアは入口から離れたソファに座らせられ、向かいにアイリスが座った。



 「コホンッ、改めて・・・・私はアイリス・グラキエス・ノーラと申します。 先程はありがとうございました。 始祖様には何度もお見苦しい姿をお見せしましたわ」


 「私はそうは思わないわ。 相性があまりにも悪すぎたし、その中でも貴方の戦闘は称賛されるべきものだもの。 同族として誇らしいわ」



 開口一番に深く頭を下げ、どこか悲壮感を漂わせながら俯くアイリスにリアは励ましと称賛の言葉をかけずにはいられなかった。



 (あれは仕方ない、『何度も』の半分は私のせいだし・・・・。戦闘においても私はともかく真祖とかでもなくちゃ『日光ダメージ増加(中)』の特性は除けない。 吸血鬼プレイヤーの最優先にやるべきことは耐性を付けること。 回復手段がリジェネしかない種族なのに基礎魔法の【血統魔法】や数々の弱点がただでさえ低いHPをガリガリと削ってしまうから。 『日光ダメージ増加(中)』の倍率は1.4倍、一回受ければ致命傷であることから【氷系統の魔法】で対処したのは正解というほかない)



 徐々に上げられるアイリスの頭、やがて目と目が交差して一言一句間違えずに届いて欲しいという思いで"誇らしい"と告げる。


 すると不意をつかれたようにぽかんとした表情を見せたアリシアだったが、次の瞬間には目に見えて狼狽しはじめた。


 その慌てふためく様は見てて微笑ましく、目が合わせられないのか真紅の瞳を部屋のあちこちに向け、赤らめた頬をパタパタと恥かしそうに手で仰いでいた。



 (可愛いー!! 初心者吸血鬼プレイヤーでもここまでの反応はしないのに! なんだか小動物みたいに見えてきたわ)



 ただ、ふと思い返してみれば出会ってから短い時間でかなりアイリスを驚かせているような気がしたため、少々申し訳なくなってくる。

 少しだけ自重することを心掛けようと必死に深呼吸を繰り返す彼女を見て改めて思うリア。


 努めて冷静でいようとするアイリスを眺め、そろそろ大丈夫だろうと本題を切り出す。



 「私の名前はリア、さっきも言った通り始祖の吸血鬼よ。 この世界にはまだ慣れてなくてね、貴方に色々聞きたいの」

 (【祖なる覇気】は・・・・発動してない。大丈夫そうね)


 「この世界・・・・、最近お目覚めになったということですわね。 私にわかる事であれば何なりとお申し付けください、始祖様」



 激しい戦闘により糸が解れ、袖や襟、裾などあちこちが破れボロボロになったドレス姿のアイリス。


 そんな彼女が胸に手を当て、毅然とした態度で振舞うその姿に思わず見惚れそうになる。


 (何か勝手な解釈が入ったような気がしたけど、まあいいか)



 前世(リアル)のことを話すのも理解できるかわからないし、私自身未だよくわかってないから説明のしようがない。


 だからその解釈はこちらとしても都合がいいし、態度もまぁ・・・いや、むしろイイ。


 (・・・・あれ、ん??)


 "前世"という言葉。

 自然に口から出た言葉ではあるが、以前の自分に対して何か欠けたような違和感を覚える。


 それは喉に刺さった小骨のように心に引っかかって思い出せそうにない、というより本人の中では既にどうでもよくなっており、まるで何かに阻まれるようにして自然と"違和感"は忘却の海へと流れていってしまった。



 今のリアの中には違和感を覚えたことすら記憶にない、というより気にするようなことではないと結論づいており、結果的になかったことなったのだった。


 だが一つだけ、どうしても気になってしまうことがある。



 「その『始祖様』って呼び方、距離を感じるわぁ」


 「あ、え、・・・・で、ではリア様と」


 「リアでいい」


 「・・・・リア様」


 「リア」


 「・・・・・・・・・・リア、様」



 数分前に自重しようと決めたリアだったが、そんな事は既に頭から抜け落ちており何がなんでも呼び方を変えてみせると既に躍起になっていた。


 一向に敬称が取れないアイリスに譲歩することもなく笑顔を作り、ひたすらに問答という名の詰め寄りを繰り返す。


 数度繰り返す毎に声音がか細くなっていき、アイリスの瞳に涙が浮かんでることに気づき漸く自分がまたやりすぎてしまったと理解することになった。


 泣かせるつもりはなかったが半ば意地になってしまい自分の悪い癖が出たと理解するリア。

 なんとか妥協案を考えると欲望駄々洩れな案を口に出す。


 ちなみに呼び方を変えさせないという選択肢は彼女の中には存在しない。



 「そっそれじゃあ———お姉ちゃんっ、なんてどうかしら!」


 「リア、・・・・お姉さま?」


 「ぐふっ」



 涙目に潤いが満ちた瞳で――若干の怯えを感じなくもないが、――躊躇い勝ちに首をこてんっと傾げるように見つめてくるアイリスに絶大な精神ダメージを受けるリア。


 (え、可愛い。 なにこの生き物・・・・吸血鬼? 奇遇ね私と一緒だわ。 紅い目も銀の髪も私と一緒。 これ実質姉妹じゃないかしら? お姉様・・・・お姉様? 私がお姉様・・・・、うん、アリ!!)



 落としどころが見つかり、答えとしても満足をしたリアは漸く胸のつかえがとれたと清々しい気分を味わえていた。


 しかし、元はといえば彼女が駄々をこね、慕う後輩をひたすらに困らせていただけというなんとも言えない始末だったのだが、彼女がそれに気づくことは誰かに指摘されるまで恐らくこの先ないだろう。


 もし、この場に彼女のクランメンバーがいれば3人の内2人は、確実に迷惑をかけたリアを問い詰め説教という名のスキンシップへ移行していたかもしれないが、今はこの場に誰も居ないのだった。

姉妹百合は最高です


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