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始祖の試練

※文字数があまりにも多すぎたので分けました



 1LDK程の部屋。


 部屋にはキングサイズの巨大なベッドが1つ、少し離れた所にソファとテーブル、そして2つの造りの良いチェアが置かれている。


 脇にはそれなりの装飾を施された高価そうなクローゼットが2つに、簡易型のキッチンと別室にはバスルームが設置さえれており、全体を通して宿屋の一室としてはそれなりに良い部屋だ。


 部屋を照らすランプは広い壁に計8つ、中央の天井には小型のシャンデリアが設置されているが今は必要無い為、ベッド付近の2つだけに明りが灯され他は全てその明かりを消していた。



 闇ギルドのギルドマスター、グレイとの対談を終えた後。

 支部から出ると空の様子から夜明けが近いことを悟ったリア達は急遽支部に戻り、何事かと顔を強張らせたグレイに高級宿の場所を聞き出して、早朝にさしかかる時間で本来の値段の3倍を支払って急遽応対をお願い(強要)して今に至っている。



 リアは全身を固めるガチ装備のまま就寝するつもりはなかった為、インベントリから寝間着になりそうな服を時空間のような穴に手を突っ込みながら探していた。


 寝間着のようなラフな格好の装備はそれなりに持ってるリア。

 しかし、常に持ち歩いてるかと言えばそんなことはなく、使用する予定がない時は基本的に倉庫へ預けていた。


 この世界に転移してからアイテムの取り出しは行っていたが装備の入れ替えや取り外しはやってなかったことを思い至り、いざ普通に脱着しようと試みると思った以上に装備の造りが複雑で着替えに苦労することを悟った。


 悩んだリアはゲームのように普通に装備替えを行い、自動でインベントリに戻せないか考えた。

 感覚的に行ってみると結果的にそれは可能ではあった―――が、その後、すっぽんぽんになってしまった。



 その時、偶然その光景を見ていたアイリスと目が合い、目を点にした様子から急速に顔を赤らめ、焦りながらも目を逸らす様子は正直私が悶えたいほど可愛かった。



 「・・・・偶にやるのもいいかも?」



 羞恥心よりも可愛いを見たいリア。

 異性に見られれば口封じとしてチョメチョメするが、同性であり可愛いアイリスなら見られてもなんとも思わないし、なんなら見た後の反応が可愛いことから見て欲しいとすら思ってしまう。


 自分が露出狂のソレだと、気づかずにぐんぐんと考えを巡らせいくリア。



 (あ、これいいかも!)



 そんなことを考えながらインベントリを漁っていると、一つのイベント装備を見つけ出し、どんな見た目の装備だったが思い出しながら早速装備替えをしてみることにする。



 指を噛み、自身を出血状態にすると【鮮血魔法】を発動して出血量とは反比例する量の血のカーテンを作り、リアの周囲360度を覆い隠すように身を包みこむ。


 数秒後、血のカーテンは役目を終えその形態を変化させる。

 血液は床に落ちることなく、リアの指先に急速に集束していき、やがて指先には飴玉のような血球が出来上がった。



 捨てるのも勿体ないのでパクッと口に含むことにする。


 (・・・・・あまり美味しくない。 やっぱり、自分の血じゃ微妙か)



 リアの寝間着装備として選んだのは《白雪のルームウェア》という装備。


 見た目、全身白のモコモコで覆われており、胸元が開けたプルオーバーにロングカーディガン、少し緩っとしたニットパンツの3点セットで着心地は柔らかめの肌触りに暑さを感じないすっきりとした生地で個人的に満点をあげたくなるような寝間着。


 ブラはつけない、リアは寝るときはつけない派なのだ。



 「うん、あんまり着てなかったけど良いね」



 《白雪のルームウェア》

 要求LV1の完全SS(スクリーンショット)用装備である為、装備効果としては申し訳程度の【破壊無効】【隠密】【魅力値UP】【寒冷無効】が備わってる程度、防御力は皆無に等しい。



 「まぁ! まぁまぁまぁっ! なんてお美しい・・・・。それもリアお姉様が居られた時代の、衣服なのですか?」



 何気なく呟いた言葉、それにアイリスが反応し目を輝かせながらリアのつま先から頭の天辺まで何度も往復すると、しきりに感嘆の声を上げた。



 「ふふっ、ありがとう。 そんなとこよ」



 リアの居た時代・・・・どう答えるか悩んだが、前世(ゲームの世界)をリアの居た時代というのであれば間違ってはいない。


 ただ、アイリスやレーテが指し示す時代というのとは大きく異なっていて、彼女らが想像するものとは違うだけだけどまあいいや。


 ベッドに腰かけながら結論付けるリア。


 そんなリアの元に嬉々とした様子で隣に座ったアイリス、遠慮がちではあるものの徐々に座る位置をずらし肩を寄せてくるいじらしい様子に気が付けば彼女の小さな頭を撫でいた。



 「っ、んん~♪」



 アイリスに嫌がる素振りはなく、気持ちよさそうに目を細めると今度は堂々とその体を寄せてくる。


 会話のない空間にまったりとした時間が流れ、居心地良さにリラックスしながらアイリスを撫で、闇ギルドでの出来事について思い出す。


 





 『闇ギルドに入りませんか?』



 突然の勧誘に眉を顰め、グレイの意図を探ろうと入室して初めてまともに彼と目を逸らさず視線を合わせる。


 表情だけ見てもその意図はわからないが、脈絡からギルド内での地位を上り詰めろという意味だろうか?

 見る目はありそうだし、それを可能とも思っているのかもしれないがまだ別の意味があるように思える。



 (十中八九欲しいのは吸血鬼、それも上位と思われる者達の戦力よね。 得られるものとしては膨大な情報網、代わりに傘下に加わり依頼を手伝って欲しいといったところ?)



 思考しながらもグレイの様子を観察し、明らかに警戒した様子でありながら、目を逸らさないその態度にリアは関心と共にわざとらしく聞こえるように声を漏らす。


 「ふぅん」


 「信用できませんか? ですが悪い話ではありません。 闇ギルドでの依頼は危険やリスクが表の依頼とは比べ物にならない程存在しますが、その分普段知りえないことや世に出回らない話など、此処では絶えず囁かれるのです。 つまり、闇ギルドそのものが情報の宝庫といっても差し支えません」


 「・・・・・」


 「いま話した内容に偽りは――「お姉さま、痛みを与えて言う事を聞かせるのはどうでしょう? わざわざお姉さまが面倒ごとをしなくても、時と共に情報は入ってくると思いますわ」」



 グレイの説明からアイリスの言葉を聞いてリア自身、似たようなことを考えていた。

 痛み、というよりは眷族にしてしまっていうことを聞かせようか、という違いではあるが大して変わらないだろう。



 「・・・・そうね」



 吸血鬼の眷属を一切持たないリアですら、いっそそうしてしまおうかと相槌をうつ。



 「それはおすすめしません」


 「なぜ? 私にはそっちの方がよっぽど手間がないように思えるけど」



 ゲームでの眷属化は生きとし生ける者に使用が可能な吸血鬼種の固有能力(アーツ)であり、成功確率はまちまちではあるが主にLV差によって成功率が変動する。


 成功すると実力に伴った吸血鬼の階位へと変化し、基礎ステータスもリセットされ適正なビルドへと変動する仕様だった。

 主人が命令コマンドを使用すれば絶対服従で逆らうことはなく、自身の手足のように扱うことも可能だった。


 こちらの世界ではどうなるかわからないが、恐らくゲームの時よりリアルに忠実なのではないだろうか?



 「私自身、ボスのついては僅かな情報しか持ち合わせていないのです。 ですから仮にそうされるとしても、得られるものとしては私が持ち合わせている浅薄な情報だけです」


 (嘘は――言ってなさそう。 所属する分にはいい、膨大な情報網を掴みつつ片手間に依頼を終わらせながら別で探し続ければいずれ得られる情報も増え、グランドマスターとやらにもいずれ会える。 問題は嘘を言ってた場合、それと密告かしら? まあ、そうなれば全員殺せばいいだけか)


 グレイの言葉の真偽を探ろうと視線は動かさず、その間にも思考を繰り返していたリアだったが結論はでた。


 だが、仮にも自分と自分の大切な仲間を駒にしようと上に立つというのだ。

 それ相応の覚悟、そして裏切った場合の行く末として、警告の意味も含めて釘を刺しておいたほうがいいだろう。



 「ふむ。 ・・・・貴方にその価値があるのか、見せて頂戴」



 リアは一度視線を逸らし、組んでいる足の膝に両手を置くと意識的に【祖なる覇気】を解放する。



 「・・・・っ!?」



 一見部屋の中に変化はなかったが、それを向けられているグレイに関してだけで言えば、休まるはずの執務室は下手な拷問部屋よりも厳しい場所へと変わり果てた。


 グレイは肌ごしにとてつもない悪寒が駆け抜け、部屋の空気が数十倍にも重くなった錯覚を起こす。

 立つ所か上体を起こす事すら不可能なほどの超重力がのしかかり、様々な状態異常がグレイに襲い掛かったのだ。


 リアの眼、対象の状態を看破する《血脈眼》で確認できたデバフ量。

 それはこれまで類を見ない程に膨大な量へとなっており、その量こそが彼と自身の圧倒的なレベルの開きだと認識する。



 (わっ、えっぐぅぅぅぅ! ゲームでもこんなの見たことない。 え、・・・・ナニコレ)



 『行動力低下(中)、移動速度低下(大)、STR低下、DEF低下、免疫耐性低下(大)、MP減少(小)、自然治癒力低下(中)、行動不可(微)、視界大収縮、感覚麻痺、神経麻痺、思考阻害、悪寒、目眩、恐慌』



 出会いからこれまでの会話中、一度として姿勢を乱さず、意地でも耐え抜き、強い意志を見せていた男。

 そんな男が【祖なる覇気】の発動によって、座りながら背中を小さく丸め、嗚咽を漏らしえずいている様子に僅かに同情してしまう。



 「っ!・・・・うぇっ、うっ、・・・・ふぅ、ふぅ」



 デバフ内容がゲームと多少違ったこともあり、このままスキルの検証を少しだけしたいという欲求がほんのちょっとだけあったリアだが、スキルの発動を解除する。


 時間にして僅か10秒。


 スキルを解除したことにより僅かに部屋の空気が変わり、目の前の男からもほんの少し肩の力が抜けたように見える。

 それ以上の容態の変化を見せなかったが、傍から見ても一目でわかる程に精神的にも肉体的にも疲弊しきっていたグレイ。



 その目は虚ろな瞳をしており、肩で激しく呼吸を繰り返しては無心で空気を貪っていた。


 彼の状態から会話するのは難しいだろう、と日を改めることにして席を立とうとする。



 「なる、・・・・ほど。 これ・・・・程の、存在。 ふふふっ、・・・・世界戦争に参戦しなかったのは、っふぅ、人類を絶望の淵に叩き落とすおつもりですか?」



 たどたどしい言葉を吐きつつも、その目はしっかりとリアを捉えていることに、流石のリアも動揺を覚えた。


 (あれ程のデバフ、かけられた方は前世(ゲーム)ですら2度と見たくないのに・・・・現実でありながら変わらず私と目を合わせられるなんて。 この男)



 「あはっ、あはははっ、・・・・合格よ。 グレイ」



 目の前でまざまざとその価値を見せられたリアは彼を認めざるを得なかった。

 腐っても闇ギルドのマスターということだろうか。


 グレイは虚ろだった瞳に徐々に生気を取り戻しており、リアが突然笑いだしたこともそうだが、その目から微かに見下すような気がなくなったことに気づき呆けた表情を見せた。



 「光栄です。・・・・本当に、光栄ですよ。 貴方ほどの存在に、認めてもらえるとは。 ・・・・今になって何故」


 その言葉は彼が見せていた中身のないような形式上の言葉とは違い、何度も口ずさむ様子は彼の心境を表してるように思えた。



 「闇ギルドに入らせてもらうわ。 その体調じゃ話にならないだろうし、明日、また夜に来るとしましょう」


 「・・・・ええ、・・・・お待ちしております」



 言葉を残して部屋を出る時、扉を閉める直前に脱力しきったグレイのか細い言葉。

 流石のリアもやり過ぎてしまったと、多少の申し訳なさを感じたような気がしたり、しなかったりしたのであった。


閲覧ありがとうございました。


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