始祖の妹は頼もしい
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
濃厚な百合まで微百合をお楽しみいただければと思います。 m(_ _)m
ガラの悪い男達に囲まれ、害虫だらけになった場所でアイリスという一輪の花を見つけた。
向けてくる顔は素っ気なくも可愛らしく、それの意味することは殺戮許可だと百パーセントの確信を持って理解できたリア。
恐らく先程の屋外で絡まれた際、リア自身が話した『使い道を考えていた』という発言に起因して、彼女なりに考えて許可を求めてきたのだろう。
(もう、アイリス。 そんな可愛い目で見つめないで欲しい、今すぐハグして吸血とキスを心行くまでしたくなっちゃうわ。 ――でもまぁ、これらは片づけちゃってもいいかな。 使い道なさそうだし)
そうして、もう少し見つあってたい気持ちのあったリアだったが、まずは目の前の汚らしい男達を処理することを考える。
だが、リアがGoサインを出そうとすると、せっかちなのか、我慢できなかった男達の一人は強硬手段を取り始めていた。
「んじゃまぁ、いただき――」
(あの男、汚い手でアイリスに! っ―――)
手を伸ばしていた男がアイリスに触る前に駆除をするのはリアにとって造作もないこと、故に瞬時にその存在ごと抹消しようと動き出そうとした瞬間、視界に入ったものを見てその動きを止める。
両手でアイリスに肩を掴もうと手を伸ばした男の腕が次の瞬間、ボキボキッとくぐもった音が鳴り響き両腕があらぬ方向へと不自然に折り曲がる。
男は何をされたのか理解できないと「はっ・・・・」と声を漏らし唖然とすると、喧騒で満ちていた酒場に静寂が広がる。
次第に状況を理解できたのか奇声をあげながら膝をつき、囲んでいた男達は状況の異常さにすぐさま後ずさる。
周囲の男達は瞬時に各々の武器を構え、警戒の色を強めた顔つきで対峙する。
そんな一発触発の空気の中、特に気にした様子もなく、申し訳なさそうにアイリスが振り返った。
「あ、あっ・・・・ち、違うんですの。 触れられそうになって、その・・・・つい」
本当に申し訳なさそうに伏目で謝るアイリスにリアは否定するように首を振るう。
「可愛い貴方に触れようとしたんだもん、当然でしょう」
「っ!・・・・ではっ?」
沈んだ顔がみるみるうちに眩しい笑顔へと変化し、その後は一方的な虐殺の現場へと酒場は姿を変えた。
男達のレベルはその対応能力の低さから20~30といったところ、70を超えているアイリスからすれば雑兵に等しく。
それでも素手を使ったのは最初だけで以降は魔法での蹂躙となった。
無詠唱で【氷結魔法】を扱い、周囲の床から無数の氷柱を造りだし男達を串刺しにすると、それで負傷した傷から漏れ出る血によって殺し損ねた者達を【鮮血魔法】にて数十本の短剣を宙に造り、狼狽えた男達に投擲し確実に絶命させていく。
(うぇ、血臭っ。 ・・・・・同じ血でもアイリスとは大違い、早くここから離れたい。 ていうか男達の反応、大半が無詠唱にまるで反応できていなかったけど、無詠唱は珍しい部類のものなの? それとも単にこれらがmobに等しかっただけ? う~ん、・・・・うぇぇ)
2手、最初の骨折も含めれば僅か3手によって、酒場に居た10人近い男達を串刺しにし、ただの臭い死体へと変貌させる。
鼻腔をつつくような嗅ぐに堪えない匂いを我慢し、周囲に目を向けると酒場の一帯が血の海に変わる中、酒場内には愚かな行為をしなかった者達が4人だけいた。
椅子に片尻だけ座りいつでも動ける体勢の者、立ち上がり得物を手にはするが動かずただジッと此方を見つめる者、そして相席してたのか二人で身を寄せ合いながらも構えを怠らない者。
【戦域の掌握】で動かないのはわかってはいたが、動かず様子見をする者がいるということは、これらが愚かなmobだったということなのだろう。
そう結論付けたリアの聴覚に新たな足音が加わり、その音は徐々にを大きくさせていく。
「リア様」
同時か少し前には気づいていた様子のレーテがリアに耳打ちをすると、後からふわりと風に乗った薔薇のような香りが漂ってくる。
「うん、話が通じるといいのだけど」
男達の汚臭に気分悪くなっていたリアはレーテの香りによって多少、気を取り戻しそれどころか若干機嫌が良くなり返すと扉へと視線を向ける。
すると、扉が壊れるのではないかと思えるくらいに、バタンッと乱暴な勢いで開かれる。
そこには、リアが想像していた身なりの者とは随分かけ離れた人物が姿を現した。
人物は二人、堂々と登場してきた男は白シャツに紺色のベストとぴっちりとした服を身に纏い、しっかりと整えれた髪型に細いフレームの眼鏡。
その内に見える切れ長な青い瞳からは、それなりの知性を感じさせられた。
入室してすぐさま部屋のあり様を見渡し、観察する様子からあれならこれまでの男共よりは会話になりそうだ、と判断する。
遅れて、眼鏡の男の後ろから半身を隠した状態で現れた男を見て、その漂わせる血臭からあれが自分たちの追ってきた人物。
つまり、路地裏で一部始終を見て逃げおおせた相手なのだと、微かに残った【血の追跡】の残痕を見て理解する。
「何故、吸血鬼がここに―――いえ、この街にいるのですか? 目立つことを気にしてない様子から実力には自信がおありなのでしょう」
死体が散乱し血の池を作った一部に視線を向け、遅れて届いた血の匂いに顔をしかめながらリア達を見つめる。
「情報が欲しいんですの。 情報屋、もしくはそれらが集まる場所を教えてくれないかしら」
男の言葉にアイリスが淡々と答えると眼鏡の男は訝しげな表情を作り、睨むような視線でアイリスを見つめていると、レーテ、リアの順番で視線を移していく。
アイリスには酒場に来る前に『頼りにしてる』と言った手前、ある程度お願いすることにしたリア。
酒場の吸血鬼達の観察を終えたのか、視線をアイリスへと戻し警戒した様子で口を開いた。
「情報・・・・、それはどういった内容で?」
「・・・・・・・・・。 えっと、あれよ」
毅然とした態度で話すアイリスだったが、その様子はどこかおかしい。
幸い、ある程度彼女を知っている私達だから気づく程度の小さな変化。
そんな変化に気づく様子が見られない眼鏡の男は、質問を繰り返す。
「あれ? あれとは、どのことを指しているのでしょうか?」
「だ、だからっ、あれよ。 た、例えば――」
(アイリスの様子がおかしい気がする、どうしたのかしr―――あっ。 私、あの子に『探し物を探しに』としか、教えてなかった気がするわ。 ・・・・あちゃぁ、今から私が聞いちゃう? でも一度任せるって言った以上、任せたい気持ちもあるし。 でも知らないものを聞くって普通に無茶振りよね。んー、よしっ)
要件を話そうと二人に向けて口を開きかけ、アイリスの様子が余裕を取り戻したような雰囲気に戻っていたことで、足を止めた。
アイリスは勿体ぶるように腕を組み変えて盛大な溜息を吐くと「ここで言ってしまって良いのね?」と前置きを言い、見下すような視線で口を開いた。
「強者、もしくは珍しい存在の話。 例えば、――ユースティティア共和国の六大賢者を容易に殺せる程の存在、とか?」
アイリスの美しい声で淡々と語られ、それが言い切られると酒場に静寂が広まった。
誰もが動かない、言葉の1つ1つを理解するのに時間をかけているのか、もしくは思わぬ情報に唖然としてしまったのだろうか。
ちなみに私は、そのうちの一人だ。
(え、えぇぇ!? なんでアイリスがその事知ってるの? 私言ってないよ? せいぜい話したことと言えば、この世界の強者のこと、強者の実力、世界の情勢、そして『探し物』。 っ、まさか、この少ない情報でそこまで導きだしたの? 可愛くて機転が利いて、いい匂いがするとか反則じゃないかしら。 後でたっぷり、
アイリスのいう通り、リアは情報が欲しい、色々なものの情報が。
その中でも優先度をつけるなら、真っ先にクランメンバーの彼女達の情報がくる。
次に、再会したときの為の、準備に必要な情報などだ。
質問の内容も的確であり、実は彼女は知ってるんじゃないか?と疑いすらかけたくなるほどに完璧な内容。
そして、そんな完璧な質問に明らかな動揺を見せた眼鏡の男に、期待の目を向けてしまうのは仕方ないだろう。
(もしかしたら、当たりを引いたのかもしれない?)
リアがそんなことを思ってる間、眼鏡の男は明らかに絶句し、努めて平然を装っていたが何かを思考しだす。
そして、黙りこくっていた眼鏡の男が再び顔を上げると、その顔を強張らせ緊張した面持ちで重々しく開くのだった。
「場所を変えましょう。 もし、よろしければこちらへ」
誰の目から見ても、場を支配しているのはアイリスだとわかる。
それでも、自分より実力のかけ離れた存在、現場の状況証拠と間近で肌で感じているのなら、恐らく理解しているであろう眼鏡の男はアイリスから視線を逸らさない。
アイリスは誰もが気づかないレベルでリアに一瞬だけ視線を送り、そして眼鏡の男に頷く。
「では、ついてきてください」と男は背を向け、来た扉を開けたまま酒場を出ていった。
(あの様子からして、思った以上に当たりを引いたかな? 罠はないと思うけど、何もないはそれはそれで嫌ね。 期待を裏切って欲しくないけど、どうだろうなぁ)
眼鏡の男が先頭を歩き、続いてアイリス、リア、レーテの順で殺風景な通路を進んで行く。
何度目かの角を曲がった所で、漸く男の目指していた部屋へとたどり着いたようだった。
どうか、無駄骨を折りませんように。
そう思いながら
リアの胸の内に湧き上がる期待の衝動は、益々と昂っていくのだった。
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