魔族はギルドを見つけたい
こんにちは、ひよこのこです。
閲覧いただきありがとうございます!
楽しくなってきて筆が止まりません!
《18禁描写、グロ描写がありますので苦手な方は閲覧注意して頂ければと思います》
「・・・・・・は?」という声がどこからともなく漏れ出す。
「リアお姉様?」
男を屠り終え、何事もなく平然とした表情で振り返ったアイリス。
その顔が何を求めているのか理解したリアは『まあ、いっか』という結論に至り、待ってくれている状態のアイリス達にGOサインを出すことにする。
「・・・ちょっと使い道考えてただけよ、気にしないで」
そう返事をしながら前方の唖然とした大柄の男に裏拳を捻じ込み、頭部が陥没する感触と同時に男は壁に激突し、またしても飛び立った体液が路地裏の地面を汚す。
「あっ、そうとは知らず私としたことが・・・・ごめんなさい、リアお姉様」
「ううん、黙ってた私も悪いわ。 ごめんね、アイリス」
頬を撫でようと手を伸ばし、空中で停止させる。
自分の手には、男の汚い血が微かに飛び散っており、こんな手で彼女に触るわけにはいかないと内心で溜息を吐く。
「なっ、・・・・きゅ、吸血鬼!? なんでこんなとこにクソ魔族が」
「魔族っ!? お、おいっ」
「くっそ、衛兵を早く呼――」
半ばパニックに陥り始めた男たちの言葉を無視しして、アイリスがまた一人害虫を減らす。
今度は素手ではなく、魔法を使っての駆除をすることにしたらしく、どうやら血で汚れることを避けてるようだ。
さっきのやりとりをばっちり記憶してるらしい。
それからは一方的な展開へと進み、レーテも加わったことで対象の5人は叫び声をあげる間もなく蹂躙されることとなったのだった。
最初の大柄な男以外は傍観して二人に任していたリア。
うっかりと触ってしまったが、男など触りたくもないリアにとって魔法や道具を使えば済む話ではあったのだがこれ以上薄汚い男に近寄りたくもなかった。
虫の駆除に満足し、大きく頷きながら出来上がった真っ赤な路地を見渡す。
アリシアやレーテにとっても準備運動にもならなかったのだろう。
息一つ切らさずに、返り血を一滴も浴びずに佇んでいる姿は、紅の背景も合わさって一瞬見惚れてしまう程に美しく感じられる。
(そういえばさっき、吸血鬼を見て酷く驚いてたわね。 いくら魔族が追い込まれてるとはいえ、そんな見ないものかしら? うっ)
血の匂いは好きだが、ここは男どもの汚い血と悪臭も相まって長居したくない場所へとなっている。
(はぁ、今はそんなことどうでもいいわ。 あとでアイリスかレーテにでも聞きましょう。それより――)
早々に済ませてしまおうと考えたリアは【鮮血魔法】を使って周囲の血をかき集めると、そこには本来の量とは明らかに異なった巨大な血塊を生成し、液状に形態変化させたそれを男たちの死体へと向かわせる。
次々に頭部や手足の欠損が見られる死体を飲み込んでいき、数秒もしないうちに全ての死体が変化ない状態で吐き出された。
リアは血海を手元に来るよう操り、両手でお椀を用意しそこへ次々と血海が募っていく。
その様子に満足したのか、用が済んだ血球を適当――死体が散乱する場所――に放り投げると、一拍子遅れて水風船が破裂するような水音が響くのだった。
「これ幾らくらいになるかしら、わかる?」
血球が消えた手元には小山がギリギリ作れるほどの金や装飾物があり、それらが今しがた殺戮した男達の所有物であることは誰の目からも明らかであったが、今重要なのはそんなことではない。
「まぁ・・・」
手元のそれに、隣で見ていたアイリスは感嘆の声を漏らし、キラキラと目を輝かせて半ば放心状態のような様子で手元に魔力を集めると男達の死体のある方へふらふらと歩いて行く。
(ん? どうし――ああ、自分もやってみたいって感じかな。 ふふっ、それじゃあ)
主人の代わりにリアの質問にはレーテが歩み寄り、近すぎない距離を保ちつつ比較的銅色の多い小山の金品に目を向ける。
レーテの見立てによると装飾はそこまでの価値はなく、お金に関してで言えば一般的な宿で2,3日は宿泊できるであろうくらいのはした金であった。
なるほど、という理解と同時にそれなりにお金になりそうな物にも見えた為、残念ではあった。
というのも男達を殺し、金品のモノが目に入って初めて自身の懐事情について思い出したのだ。
ゲームの貨幣とこの世界の貨幣は一緒なのかどうか。
そう考えたリアはインベントリを漁り、手持ちのコインを適当に1枚取り出して手元のお金と見比べる。
大きさも光沢も色も、コインに掘られた形すら違うことから一目でこの世界では使用できない、無用なものだとわかり落胆するリア。
しかし、それはリアの早とちりだったようだ。
「どうやら、リア様にとっては端金でございますね。 それだけあれば1か月は余裕をもって生活できます」
レーテの言葉に一瞬何を言われたかわからなかったリアだったが、次第に言葉の意味を飲み込んでいき手元の1枚のコインへと目を向ける。
「これは使えるの?」
そんなリアの言葉に大して返答に困ったのか、押し黙るレーテだったが少し考える素振りを見せると腑に落ちたという様子で微かに口元を緩める。
「なるほど。 もしやそれは、リア様の居られた時代の貨幣なのですか? それは現世でも使われている大貨幣という分類にあたり、1枚で10万シルバーの価値があります。 使える場所は限られますが、格式のある店であれば問題なく使える筈です」
レーテの言葉にポカンとした様子で唖然とするリア。
どうやらここに来てまたしても貨幣なども違うようだが、これに関してで言えば僥倖。
(や、やったー! まさか手持ちのお小遣い程度がそんなに価値があるなんて! 取引所に預けてる全財産持っておけばよかったなぁ。 手持は大体1000枚くらいかしら、ということは1億? しばらくは大丈夫そうね)
誰も見てなければ軽くダンスを踊ってもいいくらいにはご機嫌なリアだったが、喜んでばかりもいられないと徐々に冷静になる。
いくらお金を所持してようが収入がなければいずれ底をつく、暫くの猶予はできたがやはり何らかの収入は必要だろうと考えるリア。
そうなってくるとどこがいいか。
それは今しがたここを去っていった人間に聞くのがいいのかもしれない。
「やっぱり・・・・稼げる口、探さないとね」
そう言ってリアは振り返り路地裏の奥の道、突き当りがT字路になっている片道を見つめ笑みを浮かべる。
奥の曲がり角、正確にはその更に先へとリアが視線を送ってることを理解しているレーテ。
「追うのですか?」
「情報を知ってる人物を探してる訳だし。 何事もまずは、聞き込みからでしょう?」
「っそのとおりですわ!」
リアの言葉に割り込む形で機嫌よく返事をするアイリス。
どうやら死体を使ってのリアの魔法を真似た練習は満足のいく結果に終わったのだろう。
蹂躙劇を始める前にリアが常時使用しているパッシブスキル【戦域の掌握】の効果範囲に屋内と自身を除いて8人の存在が感知できていた。
その存在は悠長にも蹂躙劇を眺め、全員が死に絶えた後に効果範囲から抜けていったのだ。
ある程度見てからでも逃げられる自信、もしくは単に逃げ遅れた可能性もあるがどっちにしろ気になるというもの。
ちなみに【戦域の掌握】は半径8m以内に存在するありとあらゆる存在の行動がスキル使用者本人に筒抜けになる範囲認識スキルであり、遠距離の攻撃には効果範囲に入らないと効果を得られないことから、気づいても使用者の力量では対処できないこともある使い勝手がピーキーなスキルなのだ。
幸いにしてレーテの働きによってその人間の逃げ先は簡単に追跡することができた。
吸血鬼の種族スキル【血の追跡】により、なんらかの手段でレーテが掠り傷を付けてくれたおかげで迷うことなく血の道を辿り着けた。
「傷のつけ方、・・・・流石ね」
「勿体なきお言葉です」
吸血鬼種あれば【血の追跡】は当たり前の能力であり、敵対者や獲物には必ず傷をつけるのが定石だ。
しかしその傷にも種類があり、付け方によって僅かながらに得られる情報が変わるといったもの。
例えば普通に切り傷を付けた場合、民家で料理などをしていたり、偶々傷を作ってしまった存在が近くにいるとスキルの効力を十全に発揮しづらいのだ。
故にそういった能力を持った種族プレイヤー間で検証が行われ、一番得られる情報が混濁しないやり方。
それは『切る』のではなく『削る』といった手法。 以降、そういった能力を持つプレイヤー間ではそのやり方が常識となったのだ。
そんな常識を知らないレーテの筈だが、今回の追跡対象にはしっかりと削り傷を付けていた様子だったのでさっきの賞賛である。
そんなやりとりを見ていたアイリスはリアの前に立つと目の前の扉に向かって手を翳した。
「リアお姉様、私が前にっ」
「ありがとう、アイリス。 でも扉は壊さなくていいわ、騒ぎになるのも面倒だし」
せっかく自分の為に頑張ってくれようとした彼女には申し訳ない気持ちになったが、翳した手を優しく下げさせるとアイリスの耳元に顔を近づける。
「頼りにしてる、お願いね。 ちゅっ」
「ふあぁぁぁ~。 お、お任せください、ですわぁ~」
せっかく頑張ってくれようとしてるのだ、ここは甘えることにしようと考え、選別と応援の意味も含めて頬にキスを送ったが効果はそれなりにあるようだ。
(ふふっ、アイリスは可愛いなぁ。 でも・・・・いつまでも呆けてないで、ほら)
放心状態になりかけたアイリスの背中を軽く押し、先導を促す。
幸いにして扉に鍵はかかってなく、すんなりと入れた。
屋内には狭い部屋が一つあるだけで見た感じ木箱や樽、棚に雑貨物があることから倉庫の様な用途なのだろう。
一見なにもない様に見える一室だが【血の追跡】は扉から一番離れた部屋の最奥、その地下へと扉の先へと続いていた。
匂いの指し示す方へ進むと地下への扉はやや青みを帯びた濃い灰色の金属で出来ており、所々錆びついていることから長い間使われてるのだろうということがわかる。
扉全体の大きさから成人男性でも容易に持ち上げることは難しいように思えるそれをアイリスは苦も無く軽々と持ち上げ、煩わしそうにそのまま力任せに開ききった。
(アイリスがいくら後衛ビルドよりだとしても吸血鬼種であればそのくらい簡単よね。 でもリアル寄り、というより現実になったことで埃や湿り気までもがより鮮明に感じられることになったのは嫌ね)
地下扉の先は一定間隔に蝋燭が灯されており、階段を下りていくとやがて奥の方から複数の男の声が聞こえてきた。
「リアお姉様」
「ええ、行きましょう」
通路の先、木扉の隙間から僅かに漏れる光を目指し歩を進めアイリスが扉を無造作に開ける。
そこは酒場のような造りになっており、カウンター席と幾つかの丸テーブルで別れていた。
人数は10人いるかどうかと言ったところで、テーブルを囲むように談笑する男達と少し離れた位置にまばらに座る者達で別れている。
手元には酒瓶や木製のジョッキが置かれており、顔を赤らめ酔いが回ってると一目でわかる状態ではあったが、流石に見知らぬ客人が入ってきたことにより場は静まり返るのだった。
見るからに下っ端?従業員?らしさを感じたリアはアイリスに奥の部屋へ向かうようお願いし、男達の視線を無視して歩き出す。
しかし、男達がそれを許すかどうかは別問題だろう。
数人の男が怪訝な顔を浮かべながらリア達を見ていたが、自分たちを無視し目の前を通り過ぎようとするのを目前に、数人が荒々しく立ち上がった。
「おー白い嬢ちゃん達、どこから入って来やがった? ここは闇――っ、さ酒場だぞ」
「ばっ、おまっ。 ま、間違えて入ってきたのか? それとも大人になりたくて入って来ちまったのか?」
「ギャハハハッ! おいおい! 真夜中にこんなとこ来たら何されても文句言えねぇぞ、貴族の嬢ちゃん」
口々に下品で聞くに堪えない罵詈雑言を吐き散らかし、リア達を取り囲むようにして数人の男が立ちはだかる。
貴族の嬢ちゃんねぇ。
確かにアイリスはフリルをふんだんに使用した黒ドレスと日光対策の日傘を持っていて、いかにも恋愛小説などに描かれている貴族令嬢風といっても差し支えない。
加えてそんな令嬢の後ろに自分のような白軽鎧のドレスコートをした騎士風の女、そして侍女服を着た者もいればそう勘違いしてしまうのも仕方ないと言える。
(盛大に酔ってるんだろうけど・・・・いや、普段からこんな感じっぽいなぁ。
今日だけで2回・・・・、異世界も
少し憂鬱になって物思いに耽っていると視線を感じた為、目を動かすとジッと見つめてくるアイリスと目が合った。
「お、そっちの騎士様に助けを求めてんのか? てか騎士ってより吸血鬼じゃね? 可愛いねぇ」
「へへっ、吸血鬼っておまえ、一人で何ができんだよ。 最悪俺は魔族でもいいわ、こっちの方が断然好み。 えへぇ・・・・いいよなぁ」
「んじゃ、俺は後ろの侍女でいいわ」
男達は各々に勘違いを炸裂させていたが、アイリスのあの目は助けを求めているなどという可愛らしい目ではない。
あれは、あの確認は間違いなく―――
『殺してしまっても?』
百合は最高です。
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