第九十四話 リベンジと7桁級殲滅
「《国士無双》」
そう唱えてから、再度「ゲリラステージ」を起動。
すると……目の前には、懐かしい魔物の姿があった。
「……随分と早い再会だったな」
なんと、ホルスがそこにいたのだ。
7桁級が現れて欲しいとは思っていたが、まさかこうも対照実験にピッタリの相手が出現するとは。
せっかくなので、さっきの強化で俺がどこまで強くなったか、試させてもらおう。
「《断聖の刃》」
先ほどの「属性変化領域」の影響で既に聖属性と化しているため、何の事前準備も無しに早速攻撃に入る。
すると……とんでもないことが起こった。
「って、嘘だろ」
なんと……今の一撃で、ホルスは真っ二つになったのだ。
いくらガッツリ強化したとはいえ、さっきまでかすり傷しか入らなかった相手がここまで!?
まあ、ありがたいことだからいいんだが。
「《ストレージ》」
あまり実感が湧かないながらも、貴重な素材なのできっちり回収する。
それから俺は、「ゲリラステージ」の効果範囲内に湧いた他の雑魚も倒しておくことにした。
ホルスの他にいたのは、6桁級の魔物数匹だったので、これらも問題なく全員《断聖の刃》一撃で倒せた。
ホルスを瞬殺できたことで心が浮ついていたからか、「属性変化領域」の使用を忘れてしまっていたが、6桁級程度が相手なら関係ないようだ。
それらの死体も回収し、「ゲリラステージ」を切ってしばらく時間が経ったところで、《国士無双》の効果時間が終了した。
「……っし、作戦変更だ」
この調子ならもう、敵がどんな強さだろうと、「崩壊粒子砲」を使う必要はない。
今後はただひたすら、どんな敵が現れようとも、「属性変化領域」と《断聖の刃》で倒すのみだ。
そう決めて、俺は別の獲物を探しに移動を開始した。
今日は日が暮れるまでひたすら狩るぞ。
◇
それから数時間後。
「ふぅ……結構倒せたな」
本日十数回目の《国士無双》を発動し終えたところで、俺はそう呟いた。
結局、二度目のホルス戦以降は、一度として「崩壊粒子砲」無しに倒せない敵に遭遇することはなかった。
一番敵が強かったのは、1体あたりの獲得スキルポイントが2000000もある、「マーシャルヨトゥン」という拳法に精通した巨人が7体いた回だったが……その時でさえ、《国士無双》の時間内に余裕で全員討伐することができた。
「ステータスオープン」
現在のスキルポイントを確認すると、37538260になっていた。
うん。やっぱ「ゲリラステージ」を主戦場にしだすと、今までの狩りが誤差みたいな数値になってくるな。
もちろんこんなことが可能なのは、これまでの下積みあってこそだが。
「《ストレージ》」
「クラウドストレージ」越しにジーナに連絡して、迎えに来てもらう。
数分後、浮遊移動魔道具の姿が視界に入ってきた。
「お疲れ様です、ジェイドさん!」
浮遊移動魔道具を俺の隣で静止させると、ジーナがハッチを開け、そう言って出迎えてくれた。
「別行動を始めて以来、一回も「崩壊粒子砲」を使った様子が無かったのだけれど……いったい何をしていたの?」
ナーシャはといえば、そんな質問を投げかけてくる。
「途中から、使わなくってもどうにかなるくらい強くなれたので、それ以来使ってませんでした」
「強く……なれた? ……え? たった数時間の話……よね?」
ナーシャは困惑してしまったが、まあ無理もないか。
ノービスのスキルポイント消費って、傍から見たら突発的に強くなった風にしか見えないだろうからな。
「というか……それって、あの砲撃と同レベルの攻撃を、素で繰り出せるようになったってことよね? 一体どうなってるの……」
「流石にそこまでじゃないですよ。その証拠に、魔石だけでなく魔物がちゃんと原型を留めてます。ですから、素材も手に入って一石二鳥ですね」
「そ、素材集め……ジェイド君にかかれば、天災としか思えないような魔物さえそんな感覚でしかないのね……」
まあ、集めてるだけで何に使うとかは全く考えてないんだがな。
などと思っていると、次の瞬間、ナーシャは思ってもみないことを口にした。
「私ときたら、テトロードを倒すのもそこそこ大変だったのに……」
……え? テトロード、倒したのか?
「そ、そうなんですか。でもまたなんで?」
そんな俺の問いに答えたのは……ジーナの方だった。
「私がお願いしたんです」
そう言うとジーナは、「クラウドストレージ」を開いてあるものを取り出す。
「私の郷土料理です。良かったら、食べてください!」
取り出されたのは……大皿に綺麗に盛り付けられたてっさだった。
――それを見て、俺は思い出した。
「その点、テトロードはいいですよ。魔物だからか知りませんけど、普通のフグと違って、死んだ瞬間から毒がなくなるんです」
他ならない、テトロードを使って無双ゲージ溜めをしていた時の、俺の発言だ。
安全にフグを食べれる、絶好の機会だと思ったってわけか。
郷土では毎年一定数の死人が出て大変、とか言ってたもんな……。
正直ありがたい。
ずっと戦いっぱなしで、お腹が減っていたところだ。
「ありがとう、いただきます!」
浮遊移動魔道具の進路を設定して、帰路につきつつ。
俺たちは、有り余る量のフグの刺身を堪能したのだった。