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第八十七話 便利な魔道具

 ざっと船全体を見渡しつつ、俺は討伐に使うスキルを検討した。


 敵はけっこうな数いるので、一網打尽にするなら《ハイボルテージトルネード》が一番お手軽だ。

 けどこの船、結構良い船なんだよな。

 範囲攻撃でボロボロにしてしまうのは、少しもったいないような気もする。


 となると……《三日月刃》で一人一人仕留めていくのが、やはり最適か。

 数いるとはいえ、《Xの眼》と《超集中》も併用すれば、数分とかからず終わらせることはできるだろう。


「《Xの眼》《超集中》」


 まずは戦闘モードに入るための、お馴染みの二つのスキルを発動。そして、


「《三日月刃》《三日月刃》……」


 人数分《三日月刃》を放ち、とりあえず甲板の上にいる奴は全員処理した。

 《サーチ》の反応を見る限り、まだ中に数人いるようだが、そいつらも全員出てこようとしてるな。

 待ってれば、船内に入っていくまでもなく全員討伐できるか。


「な、なんだこの有様――」


「《三日月刃》」


 出てきたところを狙い撃ちし、驚く間も与えず次々と斬り飛ばしていく。

 案の定、数分と経たず、この船の中で《サーチ》に映る反応は一つとしてなくなった。

 討伐、完了。


 あとは一応中に入って、この盗賊の所持品でも確認しておくか。


 俺は船内に入り、全ての部屋を順番に見ていった。

 居室と思われる場所の他は、ほとんどが金銀財宝の山だった。


 大したものはないな。

 ジーナの参考資料になりそうな彫刻がいくつかある以外は、俺からすれば無意味な物ばかりだ。

 あとは一つ、鍵がかかってたので後回しにしてた部屋があるくらいだが、この調子じゃそこもこんなガラクタしかないのだろうか。


 いや……わざわざそこだけ警備を厳重にしてるくらいだし、一見くらいはしておこう。


「《鑑定》」


 まず俺は、開ける前に、鍵がかかっている部屋のドアを鑑定した。

 《国士無双》無しでも力づくで開けれそうなドアではあるのだが、「鍵を壊したら呪いが発動する」みたいなギミックでもあったら嫌だからな。

 念のための確認だ。


 結果は、特に変なギミックは仕掛けられてないようだった。

 じゃ、開けるとしよう。


「えい」


 両手でドアノブを握り、力いっぱい回す。

 すると「バキッ」と音がして、ドアが開いた。


 中を覗いてみると……。


「……これは!」


 意外にも、そこにあったのは一つの魔道具だった。

 それも、NSOでは見たことのない魔法陣が刻まれている魔道具だ。


 もしかしたらとは思っていたが、本当に当たりがあるとはな。


「《鑑定》」


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 ●属性変化領域


 この魔道具を発動すると、使用者の《サーチ》の範囲内にいる敵の属性が、全て使用者の得意属性に変わる。

 一度変えられた属性は、別の人がこの魔道具を用いて再度書き換えたりしない限りは永遠にそのままである。

 使い捨てタイプの魔道具なので、使用できるのは一回限り。

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 調べてみると……まさに俺にピッタリな、めちゃくちゃ便利な魔道具であることが判明した。


 え、やばくないかこれ。

 使用者の得意属性……つまり俺がこの魔道具を起動すれば、《サーチ》圏内の敵が全て聖属性になるってことだよな。

 ワンチャンこれがあれば、「ゲリラステージ」の敵を「崩壊粒子砲」無しで討伐できるまであるぞ。

 まさに俺のためにあるような魔道具じゃないか。


 一回限りの使い捨てなのが玉に瑕だが、これに刻まれてるのと同じ魔法陣を彫れば、量産することだってできるんだし。

 というかファントムコアで作れば、繰り返し使えるタイプの「属性変化領域」を作ることだって可能だろう。


 この魔道具に使われてる魔石はファントムコアよりだいぶ格上なので、今持ってるファントムコアで作るのは不可能だろうが……別にそこはなんとかする方法があるし。


「《ストレージ》」


 とりあえずこの魔道具は収納して、俺は甲板に出ることにした。

 そして《結界》を足場に船の外に出ると、船自体も収納空間にしまいこむ。


 ふと顔を上げると……一隻の小船が、一目散に遠ざかっていくのが目に入った。

 驚かせちゃったなら申し訳ないな。


 が、まあ仕方ない。

 とりあえず今は、繰り返し使える「属性変化領域」の素材を集めることに専念するとしよう。



 再び浮遊移動魔道具に乗り、ステルス機能をオンにすると……俺は移動を開始する前に、ジーナに言伝てを転送した。

 依頼内容は、「チェンジ」とその魔法陣を間違えたバージョンを一個ずつ作ってもらうことだ。


 依頼の品が納品されるのを待つ間に、俺は今いる場所より少し沖に向かう。

 数分移動していると、魔物が密集している海域を探し出すことができた。

 そこに向かうとほぼ同時に、ジーナからも頼みの品の完成が知らされた。


 じゃあ、作戦開始だ。

 まずはファントムを召喚するため、魔法陣が間違った方の「チェンジ」を発動した。


「……懐かしいな、これ」


 上空に黒い煙が噴出されるのを見ながら、思わず俺はそう呟いた。

 思えば、あの頃から見違えるほど強くなったよな、俺。


 しばらく待っていると、十何匹かの狼の形成が完了した。

 昔であれば匹数分の「チェンジ」を利用して全部討伐していたところだが、今日は違う。


「《サモンキメラ》」


 全ての狼を対象に、俺はスキルを一つ発動した。

 このスキルも、古来人参の効果最大化のために取得していたスキルの一つ。

 効果は――「周囲にいる実体を持たない魔物を、1体にまとめ上げる」というものだ。


 これにより、この場にいるファントムは1体の巨大なファントムに再合成されることになる。

 そしてソイツから取れるファントムコアは、通常のファントムコアとは別格だ。


「チェンジ」


 再合成が完了したところで、俺は魔法陣が正しい方の「チェンジ」を発動。

 俺の手元には、半径が通常のものの3倍くらいくらいある、巨大なファントムコアが出現した。


「……良いサイズだ」


 この魔石なら、「属性変化領域」の材料として申し分ないだろう。

 五月雨式に仕事を頼んで恐縮だが、さっそくこれとオリジナルの「属性変化領域」をジーナに転送して、複製を頼んでおくとしよう。


「《ストレージ》」


 紙に伝言を書き、ファントムコア、オリジナルの「属性変化領域」と共に「クラウドストレージ」に転送。

 これでここでやるべきことは全部終了だ。

 あとはギルドに戻って、依頼達成の報告をするだけだな。



 ◇



 そうして俺は、リア―スの冒険者ギルドに戻ってきた。

 ギルド内は少し騒がしかったが、構わず俺は報告のため受付に向かう。


 が……カウンターにて、受付嬢は開口一番、衝撃の一言を発した。


「申し訳ございません。どうやら先程依頼させていただいた海賊なんですが……ついさっき、自首したようでして!」


「……え?」


「Sランク冒険者さんに無駄骨を折らせてしまい、大変申し訳ございませんでした。依頼失敗扱いにしたり、違約金をいただいたりはしないので、その点はご安心ください!」


 受付嬢はかしこまった表情で、そう言って何度も頭を下げる。


 ……いやいやいや。

 何を言っているんだ。


 俺、確かに海賊を仕留めてきたぞ。

 何かの間違いなんじゃないか?

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