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第八十六話 下調べ

「じゃあ、明日までにこの魔道具作っておきますね」


 話がまとまったところで……ジーナはそう言って、ファントムコアと魔法陣の絵を「クラウドストレージ」にしまった。


 あ、でも別にそこまで急いでもらう必要はないんだよな。


「明後日まででいいですよ。明日は別件があるんで」


 せっかく言ったことのない街に行く以上は、リア―スでも軽く「永久不滅の高収入」の痕跡がないか調べておきたいからな。

 それに一日割くと仮定して、俺は期日を一日延長した。


「分かりました。まあでも、可及的速やかに作りますね!」


 ジーナはそう返事して、ニコッと笑顔を見せた。


 確かにジーナ、今まで見てる限り夏休みの宿直を最初に済ませてしまうタイプの人間だもんな。

 納期に関係なくそうなるか。


「ごちそうさまでした」


 などと話しているうちにも、ご飯を完食した。

 ……あ、そうだ。そういえば、古来人参の効果最大化のためにいろんなスキル取りまくった中にアレ(・・)があったな。


「《クリーン》」


「わあ……食器が一瞬で綺麗に!」


 食器洗いの手間が省けて便利だな。



 ◇



 次の日。

 俺は浮遊移動魔道具でリア―スにやってきた。


 行き先はもちろん、冒険者ギルド。

 ギルド近くの人目につかない空き地に着陸し、浮遊移動魔道具を「ストレージ」にしまってから、ギルドの建物に向かった。


 まず確認するのは、依頼掲示板。

 最も注意すべきは、目的が読めない上にやけに高単価な依頼だ。

 例えば「道端に一定間隔で手袋を落とすだけで20万パース!」みたいな依頼があれば、まず間違いなく裏があると思ったほうがいい。

 高額報酬をちらつかせつつ、犯罪に加担させる……そんな実態である可能性がかなり高いだろう。

 そしてそんな依頼の場合、結構な確率で「永久不滅の高収入」も絡んでいると見ていいはずだ。


 もちろん俺の場合は、もしそんな依頼があれば、全てを暴くためにあえて受注するわけだが。

 などと考えつつ、俺はGランクからAランクまで(Sランクの依頼は一個もなかった)、全ての依頼を確認していった。

 が、とりあえず、そのレベルで怪しい依頼は一つも見つからなかった。


 となると次に確認すべきは、盗賊の討伐系の依頼だ。

 ジーナを攫おうとしていた盗賊のように、たとえ正式構成員でなくとも、「永久不滅の高収入」の息がかかった非正規の下っ端である可能性は無きにしもあらずだからな。

 とっ捕まえに行けば、「永久不滅の高収入」の尻尾くらいはつかめるかもしれないわけだ。


 これに関しては、Bランクの依頼が一個出ていた。

 港町というだけあって、盗賊ではなく海賊の討伐依頼だったが。


 一応受注するか。

 俺はその依頼を手に取り、受付に向かった。


「いらっしゃいませ」


「この依頼を受注します」


「かしこまりました。ギルド証をお願いします」


 受付嬢に言われ、依頼書とギルド証を見せる。


「あ、Sランクの方だったんですね! Aランクの依頼もございますが、こちらでよろしかったですか?」


「はい」


「かしこまりました」


 受付嬢は受注の手続きを進めていった。


「ありがとうございます。この依頼、ランクを満たす冒険者さんもなかなか受注してくれなくて、困ってたんです……。助かります」


「そうだったんですね」


 この依頼、不人気だったのか。

 まあ確かに、上空から海を一望できる俺ならともかく、海で海賊船を探すのって結構手間だろうしな……。


 ……そうだ。

 せっかくだし、受付嬢にも聞いておこう。


「最近このあたりで、『永久不滅の高収入』が関わってそうな、何か噂とか耳にしてますか?」


 エルシュタットの時はまだ伝わってなかったが……そろそろ国内全体のギルドで「永久不滅の高収入」の情報が共有されてるだろうし。

 そう思い、俺はその質問を口にした。


「ああ、あの奴隷商だと思われていたけど実はもっと凶悪な犯罪集団だった例の集団ですよね。今のところ特に何も無さそうですが……」


 情報は伝わっていたものの、こちらで新たな動きがあるわけではないようだった。


「じゃあ、とりあえずこの海賊だけ倒してきます」


「ええ、お気をつけて」


 依頼の手続きが終了し、俺はギルドを後にする。

 そして再び浮遊移動魔道具に乗り、海に出た。



 船が米粒サイズに見えるくらいの高度でしばらく飛んでいると……何隻かの船を確認できた。

 その中から海賊船を探していかなければならないわけだが……別にそれは、対して難しいことではない。


 ただ手当たり次第近づいて、鑑定すればいいだけの話だ。

 意識的に+値を割り振ってはいないが、古来人参の影響で+10まで強化されているので、鑑定不能にはまずならないはずだ。


 とりあえず、一番豪華っぽい船に目星をつけ、近づいてみる。


「《鑑定》」


 すると……なんとドンピシャでそれが海賊船だった。

 悪趣味にギラギラしたやつがそれだろう、程度の根拠しかなかったが、当たっててラッキーだ。


 あとはこの船をどうするかだが……そうだな。

 とりあえず、浮遊移動魔道具のステルス機能をオフにして、しばらくこの船の近くでホバリングしてみるか。


 そう思い、俺はこの魔道具のステルス機能のスイッチを切った。

 普段この魔道具は、《ステルスサーチ》の+値3相当の探知能力がなければ外から視認はできないのだが、この機能を切れば誰でも肉眼で見れるようになる。


 しばらくホバリングするのは、この海賊が「永久不滅の高収入」と繋がっているかどうかを調べるためだ。

 この浮遊移動魔道具は、俺と幻蝶を除けば「永久不滅の高収入」の正式構成員しか使わない乗り物だからな。

 もし繋がりがあれば、気づいた船員が俺に向かって敬礼なり何なりしてくるだろう。


 待っていると、早速甲板にいた何人かの船員がこちらに気づいた。

 彼らは慌てたように中の部屋に行き、ガタイのいい男を一人連れてきた。


 あのガタイのいい男が船長……ってところか。

 奴が恭しい態度を取ればほぼ黒となるわけだが、果たしてどうか。


 と思っていると……その男は一瞬眉を潜め、それから船員たちに合図を出した。

 それに従い、船員たちは警戒した面持ちで武器を構える。


「……ハズレか」


 どうやら「永久不滅の高収入」とは全くの無関係のようだ。

 となれば俺的には完全に用済みなので、一応船長だけ生け捕りにして、残りは全滅させよう。


「《クロロホルム》」


 扉を開けざま、麻酔ガスを放ってガタイのいい男を気絶させる。


「《ストレージ》」


 船に飛び降りるついでに、その男を収納した。


「な……なんだコイツ!」

「せ、船長が! 船長が消えた!」


 無関係というだけあって、《国士無双》が必要そうな敵は皆無のようだ。

 一応一人は捕獲したんだし、あとは殲滅あるのみだな。

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