第二章最終話 チャレンジコインと屋敷
工房を出た俺たちが次に向かったのは、例の地図に書いてある鍛冶屋。
屋敷に行く以上、護衛のナーシャの紹介も同時にしようと思ったのだが……せっかく幻諜に会いに行くなら、ついでにコインのことも済ませておこうと思ったからだ。
鍛冶師は最初、「軍人でもない奴のチャレンジコインなど作るか!」の一点張りだったが……製作者だしいいかと思い、幻諜のチャレンジコインを見せると、態度が180度変わった。
「こ、このコインが……出回る日が来た……だと……?」
そう言ってからはすぐにコインの作成へと入った。
コインのデザインを軽く相談してから1時間ほど待つと、実物が出来上がった。
「ったくよお……今日が人生で一番驚いた日だったぜ……」
4枚作ってもらったコインの代金は、なんと無料にしてくれることになった。
幻諜のコインを倍以上の予算で請け負ったので、その分で作ってやる、とのことだそうだ。
作りたてのコインを手に、俺たちは王宮に戻り、幻諜の兵舎を訪ねた。
「おお、ジェイド君か」
長官の部屋のドアを開けると、そこにはメギルたち三人も揃っていた。
「そこの子は……昨日言っていた、屋敷に住まわせたい子かな?」
「はじめまして皆さん。ジーナと申します」
話題に出されたジーナは、丁寧に挨拶をする。
その後……俺は全員と握手し、コインを渡していった。
「お、おお……! 本当に用意してくれたのだな……!」
メギルたち三人は、なんかちょっと感動気味だ。
「あの程度の活躍しかできなかったから、正直貰えるとは思っていなかったよ……」
……そういえば、チャレンジコインってお互いを認め合う証って意味合いだったな。
もしかしてメギルたち、自分たちのことを認めてもらえない、とか思っていたのだろうか。
そもそも幻諜がいなけりゃあの地下基地を見つけることすらできなかったんだし、その場合は、水面下で完全体の最終破壊生物を作られてしまっていたかもしれない。
それを途中で阻止できたのだから……ハッキリ言って、基地の位置を教えてくれた時点でこちらとしてはだいぶありがたいんだよな。
だから、渡さないと失礼かと思っていたくらいなのだが。
などと考えていると、長官が話題を変えた。
「それで……今日来たのは、コインの件だけではないのだろう?」
一瞬、長官はジーナの方に視線を向ける。
ジーナを見て、屋敷の件だと察した感じか。
「はい。今日屋敷を案内するので……その一環で、ナーシャさんに挨拶をと思って来ました」
「やはりそうか。ナーシャ、ついて行ってやれ」
「はい、長官」
用件を話すと……長官の指示で、ナーシャさんがついて来てくれることが決まった。
「改めまして、はじめましてジーナさん。これから貴方の護衛を務めさせていただきます」
「よ……よろしくお願いします!」
世界最高級の特殊部隊だと説明してあるからか、ジーナはまだ若干緊張気味だ。
そんなジーナとナーシャを連れて、俺は長官の部屋を後にした。
◇
そして……最終的に、俺たちは屋敷に到着した。
「うわ……とんでもなく大きいですね」
外観を見ただけで、既にジーナは圧倒され気味だ。
「こんなところに住まわせてもらって、本当にいいのでしょうか……?」
「もちろんですよ。福利厚生ですから」
などと話しつつ、中に入っていく。
「わあ……何もかもが綺麗ですね!」
煌びやかな内装を見て、ジーナのテンションが一気に上がる。
やはりもともとは芸術家だっただけあって、色々と気になるんだろうな。
「へえ、これはこういう作りで……細部まで凝ってますね……」
興味津々な様子で、ジーナは次々と家具を見て回る。
そんな様子を見つつ……俺は「ストレージ」からそれなりの量の金貨を取り出した。
「ボーナスですよ。王都ならどんな材料でも手に入ると思いますし、色々買い揃えて作りたいものを作ってみてはどうですか?」
「い、いいんですか!? だ……大事に使いますね!」
ジーナはそう言うと、金貨を袋に詰めてから「クラウドストレージ」に収納した。
おい、そこに入れるのか。
確かに「クラウドストレージ」は、自分が入れたものに関しては自由に取り出し可能だし、安全性で言っても多分そこが一番安全ではあるのだが……。