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第七十話 別行動

 基地を出た俺たちは、今度の動きについて話し合うことにした。


「一つ提案があるんだが」


 そう切り出したのはメギル。

 彼は俺が思ってもみないようなことを提案しだした。


「思ったんだが……ここで一旦誰かが王宮に戻って、途中経過を報告するというのはどうだ?」


 ……ん?

 一体何の意図があってそんな考えに至ったのだろう。


「どういうことですか?」


「ジェイド君の『無双ゲージ』とやらが復活するまでの間、何もしないのも時間も無駄かと思ってね。さっきの変な形をした乗り物、高速飛行ができる移動手段なんだろう? 乗り方を教えてくれれば、『無双ゲージ』の復活を待つ間に王宮へ経過報告を入れて来れるんじゃないかと思ったんだ」


 聞き返すと、メギルはそう考えの裏を説明してくれた。


 それを聞いて、ようやく俺は合点がいった。

 無双ゲージの性質を勘違いしてるから、そんな考えに至ったんだな。


「あの……無双ゲージってそんなに時間経たなくても復活しますよ?」


「ん? どういうことだ?」


「無双ゲージは、敵にダメージを与えたり、敵の攻撃を受けたり防御したりするたびにちょっとずつ溜まるものなんです。ほら、ここに来る時、シャイニング・グリムリーパーを倒さずに放ってきたじゃないですか。アイツの放射線を対放射線結界で防いでたら……五分くらいで、ゲージは満タンになります」


 誤解を解くべく、俺は無双ゲージの性質についてそう説明した。

 そもそも無双ゲージのことを黙ってたの、別に隠したかったからじゃなくて、単に「国士無双」が実物を見せてない段階だと説明が難しいからってだけだったしな。


「あっ、へえ……そういうものだったんだ」


 説明を聞くと、メギルは頭を掻きながらそう呟いた。


「なんかすごい珍しい性質のパワーなんだね……」


 ……厳密には無双ゲージそのものは、魔力とかとは違いパワーって性質のものでもない気がするが。

 説明が難しいし、まあ敢えてその辺訂正する必要もないだろう。


「じゃあ、さっさとシャイニング・グリムリーパーのところへ行って無双ゲージを溜めなおして、それから直で基地に再突入すればいいのか……」


 メギルはそういう考えに変わったようだ。

 が、そこへ来て……今度はザクロスが、別の案を入れてきた。


「確かに、再突入に時間がかからないってのは分かったッス。でも……途中経過報告自体は、誰かが別行動で行っても良いんじゃないッスか?」


「どういうことだ?」


「そもそもさっきの戦いを振り返る限り、俺たちはほぼほぼ戦力外だったッス。ということは一人くらい国王への報告に別行動に走ったって、別に戦力的には特に問題ないってことッス。再突入時に万が一があるかもしれないことを考えたら……別行動するのが、合理的じゃないッスか?」


 これもまた、数々の死地を潜り抜けてきた極秘部隊の人間だからか、非常にシビアな意見だ。

 自分で自分を戦力外扱いしていることの是非は一旦置いておくとして、今後の探索で何があるか分からないことを考えれば、自然な考え方だとは言えるだろう。


「そうね、それがいいと思うわ。何なら私たち全員が報告に向かって、ジェイド君一人で再突入してもらうのでもいいかも」


「言われてみればそれもそうかな……? もっと強い敵が出てきたとして、仮にボクたちがいても足手まといにしかならない気がするし……」


 っておい。それは極端すぎるだろ。


「いや、流石に報告に行くのは一人でいいのでは……」


「ジェイド君、キミがボクたちのことをどう評価しているかは分からないが、ボクたちなど三人いても全く戦力の足しにならないのは事実だ。現にキミは、100対3の戦いの時、ボクたちを毒から庇っていたのだろう?」


 それを言われると……。


「それともまさか、その強さで一人だと寂しいなんて言わないよね?」


「いや、そういうわけでは」


「じゃあ決まりだね」


 というわけで、三人は国王に報告しに王宮へ、俺は一人で基地に再突入することが決まった。

 どうしてこうなった。


 シャイニング・グリムリーパーがいるところに移動して、対放射線結界を張ると……話し合いの続きを再開する。


「じゃあ、浮遊移動魔道具を一個出しますね。資料は……とりあえずこれとこれでいいでしょうか」


 俺はUFO型の移動魔道具及び、トライコアの設計図と整形手術に関する資料を手渡した。

 流石にトライコア本体は、デカすぎて移動魔道具の中に入らないから今は出さない。


「ああ、とりあえずはそれで十分だ。ちなみにこれ、どうやって乗るんだ?」


「ここのミスリル板に魔力を流したらドアが開きます」


 中に入ると、早速操縦の説明に入ることとなった。


「まずこれが起動ボタンで、この計器で方角が確認できて、速度や方向はこの二つのレバーで調整できて……」


 説明の後は何度か実際に百メートルほど浮き上がって離着陸などの練習をさせて、操縦に慣れてもらった。


「ありがとう。これでもうボクたちだけで操縦できるよ」


「分かりました。じゃあ僕は再突入に戻ります」


「武運を祈るわ」


 移動用魔道具から降りた頃には、結界が受けた放射線量の累積により、無双ゲージも無双結晶も満タンとなっていた。

 さあ、じゃあ調査の続きといくか。


 やはりシャイニング・グリムリーパーは倒さず放置したまま、俺は基地へと向かっていった。

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