第六十八話 トライコアの在り処
「おらぁ! ……とりゃあ! ……はぁぁぁあああ!」
一発、二発、三発と、敵はコンウェイタックルの連撃を重ねてくる。
前にこの技を受けた時はその度に吹き飛ばされていたが、あの時から身体強化の+値をかなり上げてきているおかげか、今では二、三歩後ずさるのみで一撃一撃を受けきれていた。
「国士無双切替」
「もう騙されんぞ! てりゃあ!」
そして四発目を打たれる直前……俺は「国士無双」を、再度「絶・国士無双」に切り替えた。
「絶・国士無双」は「国士無双」に比べ、無双ゲージの消費スピードが三割ほど早い。
そして、無双ゲージを溜めなおすには、「国士無双」が切れた状態で五発目を(正確には「ワープ」の中で空振りさせるのだが)受ける必要がある。
そのため、俺は敵が四発目を打ってきた後に「国士無双」の効果時間が終了するよう、切替のタイミングで無双ゲージの消費スピードを調整することにしたのだ。
敵はそれを、俺がまた何か不意打ちを企んでいると勘違いしたようだ。
いや勘違いというか、不意打ちを考えていること自体は間違いではないのだが……多分、お前が思っているようなのとは違うぞ。
「ワープ」
五発目のタックルが当たる直前、俺は「ワープ」で敵を異空間に送った。
直後、俺の無双ゲージは再度満タンとなった。
さて、今「ワープ」に送り込んだ敵を倒すのにまた「国士無双」を使ってしまっては、せっかくの溜めなおしが無駄になってしまう。
せっかく別の方法で奴を殺す材料は揃っていることだし……それを使って、トドメそ刺させてもらうか。
俺は「ウィンド」のコントロールを変え、噴霧された毒ガスを一か所に集中させた。
そして男が「ワープ」から帰ってきたところで……俺はその毒ガスを、男の鼻と口に送り込んだ。
「んぐ……がっ……」
僅か一瞬だけ苦しそうにし、男は首を掻こうとしたままその場に倒れ伏す。
血清だか拮抗薬だか知らないが、解毒できる量を遥かに上回る毒を投与すれば流石に効くからな。
広範囲に拡散させて大量殲滅を行うための毒を全て一人に吸収させようもんなら、こうなってしまうわけだ。
「ふぅ、片付きましたね」
軽く伸びをしながら、俺はメギルたちに話しかける。
「やっとこれで本格的に探索できます」
「まるで今の戦いが準備運動だったかのような言い方だな……」
「あの竜巻には開いた口が塞がらなかったわ。ジェイド君ってまさか、天候の神の化身か何かなの?」
「なんでそうなるんですか。ちゃんと『ハイボルテージトルネード』って詠唱したじゃないですか」
「知り合いにその技使える人いるッスけど、もっとしょぼかったッスよ。どう見ても別物にしか見えないッス」
まあ、それを言われるとな……。
「国士無双」は技の威力も50倍にするので、通常版と似たような威力だとむしろその方が「なんで?」って話なのだ。
とはいえ、ナーシャの言う「天候の神の化身」は流石に言いすぎだが。
「……とにかく、そろそろ行きますか」
「そうだな」
「ええ、のんびりはしてられないものね」
「行きましょうッス」
ただ、流石は幻諜の三人。
戦闘の余韻もほどほどに、メギルたちは即座に気持ちを切りかえ、これからの捜索に意識を向けた。
中身は残っていないようだが、一応脅し程度には使えるかもしれないので、先ほどの毒噴霧魔道具は「ストレージ」にしまっておく。
それから俺たちは、まだ探索できていない領域を目指しはじめた。
◇
それからの道中は、全く以て敵に遭遇することはなかった。
おそらく先ほどの引き寄せ作戦で、持ち場に常駐するタイプの構成員意外は全てを動員させることができていたのだろう。
未探索領域に入ると……早速俺たちは、一個目の重要設備を発見することができた。
トライコア製作所だ。
ここはここで、魔道具によるオートロック式の施錠がなされているようだ。
だが、あくまでそれは「永久不滅の高収入の中でも、特別な許可を持っている人たち」のみがアクセスできるようにするためのものだからだろう。
肝心の扉の素材はただのミスリルなので、「国士無双」など使わずとも力技で破って入るのは楽勝だ。
扉に向かって何度か「三日月刃」を放つと、衝撃に耐えられなくなった扉がバコンと外れた。
「だ……誰だお前ら!」
「この毒でも食らえ」
身構える「永久不滅の高収入」の構成員たちに向かって、俺は毒噴霧魔道具を「ストレージ」から取り出して投げつける。
「しまっ……」
「おいバカ!」
慌てたのは、うちたった一人だった。
その一人は、死角から「三日月刃」を放つことで処理することができた。
「神経毒噴射魔道具は、空になったら噴霧口が赤から青に変わるって習ったろうが。ちゃんと覚えとけよ……」
慌てた奴に対し「おいバカ!」と叫んだ奴が、恨めしそうにそう呟く。
……あの魔道具、そんなところで判断できるようになってたのか。
それじゃ脅し作戦にはあんまり使えなさそうだな。
赤い塗料なんて流石に持ってきてないし。
などと思っていると、別の敵が呪文を詠唱し始めた。
「緋の神よ、我が身体に宿りし地獄の力を限界を超えて開放せん……」
前にも似たような光景を見たことがある。
そう、古代魔法だ。
もっとも今回彼が使っているのは、前見た「紅の神化」の上位互換である「紅の鬼神化」だが。
やれやれ、五人くらいしかいないし、あわよくば「国士無双」なしで処理できればと思ったのだが、そういう横着はさせてもらえないようだ。
上位互換とはいえ、そもそも「紅の神化」自体、洞窟での+値強化以前の俺で対処できた技。
これくらいなら、サッサとケリをつけてしまおう。
★★★★★新連載開始のお知らせ★★★★★
『山に捨てられた俺、トカゲの養子になる 〜魔法を極めて親を超えたけど、親が伝説の古竜だったなんて知らない〜』という作品の連載を開始しております。
タイトル通り、古竜の英才教育を「普通」だと思い込んだまま親を超え、世界最強となった主人公の無自覚無双ものです。
興味を持ってくれた方はぜひ広告下のリンクから訪れてみてください!