第六十七話 対大人数集団戦
「気をつけろ! 例の黄金オーラだ!」
「国士無双」発動直後……敵側の一人が、大声でそう叫んだ。
この技、警戒されてるのか。
情報が早いな。
だが、別にだからといってやることは変わらない。
「ハイボルテージトルネード」
まず俺は、ゴールデンスクアルエルを倒すために取得した範囲攻撃魔法で、ザックリと敵の数を減らすことにした。
この魔法にいいところは、中心部が攻撃対象から外れること。
台風の目が快晴であるようにトルネードの中心部分は無風なので、メギルたちの近くで発動すれば、三人にダメージがないようにできるのだ。
一方「永久不滅の高収入」の構成員たちは、壁に打ちつけられたり感電したりして、次々と命を落としていった。
今ので即死したのは、六割くらいといったところか。
残りの四割も、うち半数ほどは満身創痍な状態なので、もう一発撃てばトドメを刺せそうだな。
「ハイボルテージトルネード」
俺は二回目のハイボルテージトルネードを発動した。
流石に同じ攻撃の繰り返しだからか、一回目の攻撃で軽傷で済んだ者は効果範囲外に逃げるなどして攻撃を逃れたようだが、一回目で満身創痍になった者たちについては、狙い通り絶命させることができた。
「くそ……歩く自然災害かよ!」
「あいつハイボルテージトルネードっつったよな……? あれ、こんな威力出る技じゃなかっただろ!」
「絶縁装備着てたのに、左腕が痺れて動かねえ!」
二発目の「ハイボルテージトルネード」の効果時間が終了するタイミングで、生き残った者たちはそれぞれ愚痴りつつも、間髪入れず斬りかかってくる。
「Xの眼、超集中」
近接戦闘における最適な組み合わせと言っても過言ではないこの二つのスキルを発動すると、俺は最適な動きで斬りかかってきた者を捌いていった。
瞬く間に、敵の残りは六人まで減った。
「え、すごい……もう残り六人!?」
一連の流れを見て、ナーシャは口を半開きにしたままそんな風に呟く。
「……チャンスだ」
他の二人も希望を取り戻しただろう。
メギルは三人にだけ聞こえるような声量で、そう呟いた。
それを聞くや否や、三人は条件反射のような素早さでそれぞれ敵に攻撃を仕掛けた。
残った六人は俺だけを警戒していたので、うちメギルたちに襲われた三人は、何が起こったのかを理解する間もなく死んだ。
「クソッタレが!」
残った三人のうち、一人はそう叫ぶと……空中に魔道具らしきものを放り投げた。
その魔道具は、俺の頭上で周囲に気体を噴霧した。
「ヘヘ……これを食らっちゃ、お前らはもう一巻の終わりよ!」
魔道具を鑑定すると、それは揮発性の神経毒をまき散らすものであることが分かった。
毒に名前はつけられていないようだが、半数致死量は1μg/kgとされており、前世の化学兵器など目じゃないほど強力なものであることが分かる。
ここまで強力だと、空気中に漂う分をほんの少し吸い込むだけで死に至ってしまう。
噴霧時は霧状だったので、蒸発と共に一気に体積を膨張させ、敵のいる位置にまで毒が回り込んでしまうはずだ。
おそらく敵側も、相打ち覚悟で放ってきたのだろう。
「国士無双」発動中の俺は問題ないが、メギルたちはごく微量でも吸い込んでしまうと危ない。
「ウィンド」
俺は風魔法で空気の流れを操り、メギルたちが毒を吸い込まないよう調整することにした。
さて、残り三人はどうやって倒すとしようか。
「……国士無双切替」
少し考え、俺は不意打ちを行うことにした。
実は「国士無双」は、「絶・国士無双」も覚えている場合、こう唱えることで途中で切り替えることができる。
全身から黄金のオーラが出なくなると、俺はその場に倒れ伏して見せた。
「いぉし、てぇあおすぃてぇあすぉ……」
おそらく「よし、倒したぞ」と言いたかったのだろう。
毒の効果で早速呂律が回らなくなりかける中、敵の一人はそう言ってガッツポーズをした。
うん、完全に俺が死んだと確信してるようだな。
「三日月刃、国士無双切替」
俺は「三日月刃」を三回放った後、「絶・国士無双」から「国士無双」に再度切り替えた。
呂律が回らなかった奴含め二人は、自分が攻撃されたことにも気づかないまま首を飛ばされた。
が、今の不意打ちを以てしても……残りの一人には、間一髪避けられた。
おそらく奴が、この中では最も実力が高いな。
コイツだけ俺が死んでない可能性を少しは考えていたのか、俺の方への警戒を怠っていなかったし。
しかも血清でも打っているのか、神経毒も全く効いていない様子だ。
などと思っていると……その生き残った奴が、懐かしい技を発動した。
「くそう……慣れていないが賭けるしかねえ!」
そう言って彼が発動したのは、コンウェイタックル。
ありがたい。せっかくなので、またあの時みたいに無双ゲージを補充させていただくとしよう。