第五十九話 新たな依頼
しばらく待っていると、ローゼンはバッグを抱えて部屋に戻ってきた。
「もしかしてもう報酬額が確定してるんですか?」
「いや、違う。報酬については、ちょっと査定の時間を取らせて欲しい。こんな精緻なマップ初めて見たし、警報機なんてものを扱うのも初めてで査定方法が確立されてないからな。とりあえず今は、売ろうとしてくれてる魔物素材を引き取りにこのバッグを持ってきた」
マジックバッグに金貨を詰め込んできたとかかと思ったが、どうやらそういうわけではなかったようだ。
にしても……「魔物素材を引き取りにこのバッグを持ってきた」ってことは、ここで素材の引き渡しができるということなのだろうか。
「倉庫行かなくていいんですか?」
「ああ。前いた街のギルドはそういうシステムだったのかもしれないが……このギルドには、大型素材持ち込みに受付で対応できるよう、専用の巨大容量マジックバッグを用意してるんだ」
それは便利だな。
設備の良さに感心しつつ、俺はマジックバッグに売り物を移す準備として、一つアップグレードを取得することにした。
「アップグレードコード1536-2『ピアツーピアストレージ共有』取得」
今回取得したのは『ピアツーピアストレージ共有』という、異なる収納用異空間同士で中身の通信を行えるアップグレードだ。
このアップグレードでは、「ストレージ」同士の他、ストレージからマジックバッグへの中身の転送なども可能となる。
……ちなみに+値を上げれば「収納用異空間同士じゃないと使えない」という制限がなくなり、例えば「『ワープ』で異次元に飛ばした敵にストレージ内の毒薬を転送する」みたいな戦法も可能になるが、戦術の高度さの割に使い勝手はそこまでよくないので今回はそこまでは取得しない。
このアップグレードを取得すると、ステータスウィンドウから「ストレージ」の中身を表示できるようになり、タッチパネル方式で何を転送するか選択できるようになる。
今回の戦利品のうち、ホーリーネクロマンサーの魔石とセイントザウルスレックスの死体及びファントエルの魔石2個以外を全て選択すると、俺は「転送」と唱え選択したアイテム全てをマジックバッグに移した。
ちなみに残したものの基準は、今後自分で使う可能性があるかどうか。
ファントエルの魔石を残したのは、ファントエルが魔石が体表に表出している魔物であり、倒した時にポロっと外れることがあるので解体の必要なく魔石が手に入るからである。
「売りたいものは全て入れました」
「……は?」
転送完了を報告すると、ローゼンはポカンと口を開けた。
「……いったいいつ? もしや時間を止めてそのうちに?」
「いえ違いますよ。俺のストレージとそのバッグを通信させて入れました」
どうやらローゼンは俺を時間停止能力者かなんかと勘違いしたようだ。
中身移し替えるためだけにそんなことするわけないだろ。
だいたい敵の動きを止める「クロノクラッシャー」こそあれ、厳密な意味での時間停止スキルなんてものはこの世に存在しないぞ。
「そのバッグの中見てみてください」
本当に移し終わったのか半信半疑な様子だったので、俺はローゼンに確認するよう促した。
「……本当だ! 色んな魔物が!」
マジックバッグの中身を確認し、愕然とするローゼン。
「通信というのがどういうものかは知らないが、とりあえずなんか凄い方法で一瞬で移したってわけだな。……これで全部だな?」
「はい。……あ、報告について最後に一個なんですけど、トリガーフィールドのゴールデンスクアルエルは殲滅しない様にお願いします」
ローゼンの漠然とした受け取り方はスルーしつつ、俺は話題を変えた。
ここだけは再三念押ししとかないと、最悪この街がセイクリッドライフルで吹き飛ぶからな。
「心配せんでも、ゴールデンスクアルエルの殲滅なんて普通誰もやろうとせんよ……。まあ一応ルール化するよう言っておくが」
……ならまあいいのだが。
「じゃあ、これは解体班に渡しておくよ」
ローゼンはそういうと、マジックバッグを肩にかけた。
これで今度こそ、話は全部終わりか。
……と思ったが、ローゼンこんなことを言い出した。
「話は変わるが、今日から何日くらい休みたい?」
……なぜそんなことを?
また調査依頼だとしたら、そもそも受けるかどうかすらちょっと考えたいところなんだが。
「……どうしてそんなことを?」
具体的な日数を言う前に、俺はどういう案件なのかを聞き出すべくそう質問した。
すると……帰ってきた答えは、思っていたよりも緊急性の高いものだった。
「実は……前地雷を解除してくれた街道からちょっと離れたところに、『永久不滅の高収入』の拠点らしきものが見つかってな。その調査にも協力して欲しいと思っているのだ。まあでも疲れてるだろうから、何日休みたいかと思ってな」
まさかの「永久不滅の高収入」絡みだった。
確かにあの量の地雷が敷かれていた以上、近くに基地があること自体は考えられなくもなかったが……実際に見つかったときたか。
「その依頼でしたら、今すぐでも大丈夫です」
もちろん、やっと大きな依頼を一個終えたばかりである以上、休みが欲しくないわけはない。
だが……奴らが絡むとなると話が変わってくる。
一日ほっとくか否かで、大量殺戮兵器が完成するかしないかが変わる恐れすらあるので、見つけ次第なる早での殲滅が必須なのだ。
というわけで、俺はそう答えた。
すると……ローゼンは頭を掻きながらこう返す。
「あーその……本当に良いならありがたいが、さすがに2日は休んでいいぞ。というのも、これは単独依頼ではなく、王都から特殊部隊を要請してるので一緒にやってほしいんだ」
……そういう事情があるのか。
となるとまあ、無視して単独で突っ込むわけにもいかないか。
「……分かりました」
気持ちの上ではすぐにでも出発したところではあるが、仕方がないのでそう返事した。
「ちなみに特殊部隊って、どんなのが派遣されるんですか?」
続けて俺は、そんな質問をする。
作戦を考えるためにも、一応どういうチームを組むことになるか知っておきたいからだ。
すると……とんでもない返事が帰ってきた。
「多分言っても聞いたことないだろうが、幻諜──幻影諜報特務庁という部隊だ。一応、法律上公式には存在しないことになっている部隊だから、口外しないようにな」
……マジか。一番アカンやつが来てしまった。
それ多分、永久不滅の高収入の内通者がいるやつだぞ。