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第五十五話 例の魔物

 セイントザウルスレックスを倒してからしばらく走り回っていると、通常種のセイントザウルスに出くわしたので、俺は適当にソイツの攻撃を受け流した後倒して無双ゲージ二回分を補充した。

 通常種のセイントザウルスのブレスは今の俺からしたら生暖かいくらいのものなので、なんというか、力を授けてもらっているかのように錯覚する戦いだったな。


 それ以降はセイントザウルスレックス並みに手ごたえのある魔物に遭遇することはほぼなく、スレイプニールやセイントザウルス、ファントエル(鼻から高エネルギーのビームを出してくるゾウ型の魔物)等を流れ作業で倒しながら進むだけの日々が続いた。

 こんな調子ならサッサと最深部に到達して欲しいと思いつつ、洞窟探索を続けること5日。

 あまりの作業ゲーに心が死にかけていたその時……強力な魔物ではないものの、久しぶりに俺は「おっ」と思える魔物に遭遇することができた。


「あの反応は……」


「サーチ」にごくうっすらと映るその反応を追い、走ること数分。

 そこにいたのは、口から風船ガムのように人参を出し入れする一匹のウサギだった。


「よっしゃ!」


 その姿を見て、思わず俺はガッツポーズを取ってしまった。

 この魔物こそが、ラッキーラビット——倒せば全スキルの+値が10上がるアイテムがドロップする、クソほど影の薄い魔物だ。


 ドロップするのは、ラッキーラビットが口から膨らませている人参、通称「古来人参」。

 古来人参は、ラッキーラビットの呼吸に合わせて周期的に大きくなったり小さくなったりしているが……ここで重要となるのは、「どのタイミングでラッキーラビットを討伐するか」だ。


 ドロップする古来人参のサイズは、ラッキーラビットを討伐した瞬間の古来人参のサイズと等しくなる。

 そして古来人参を使用して上がるスキルの+値は、古来人参の大きさに比例する。

 最大サイズの古来人参を使用するとスキルの+値が10上がる一方、最小サイズの古来人参だと1しか上がらないのだ。

 つまり古来人参の恩恵を最大限受けるためには、ラッキーラビットが人参を最大限膨らませたその瞬間に狩る必要があるのである。


 ちなみにラッキーラビットによる人参収縮の周期は、0.25秒に1回。

 最大サイズの人参を刈り取るのは地味に難しく、NSOではタイミング合わせの雑さゆえに+値が8〜9しか上がらない人参を刈ってしまい者も少なくはなかった。

 とはいえ……その点は俺の場合、全く心配ない。

 なにせ前世でラッキーラビット狩り練習用シミュレーターアプリ「ラビットリズム」をリリースしたのは俺だし、俺自身そのアプリで一時期鬼のように練習してたからな。


「断聖の刃」


 斬撃を飛ばすと、古来人参のサイズが最大となった瞬間ラッキーラビットに攻撃が命中し、兎が消えて人参だけが残った。

 うん、慣れたもんだ。


「ストレージ」


 本当だったら早速使いたいところだが……今までの探索で、現在スキルポイントは1005750も溜まってるからな。

 +値1あたりの消費スキルポイント量は+値が高いほど多いことを考えれば、上昇+値が固定のアイテムはポイント消費後に使った方が得なので、一旦は保留にしよう。


 そう決めて、俺は古来人参を収納し、先を目指すことにした。



 ◇



 30分後。

 再び俺は、開けた空間で大量のスクアルエルと出くわすこととなった。


 いや、正確には……今俺の目の前にいるのはゴールデンスクアルエルという、スクアルエルの変異種。

 通常のスクアルエルに比べ防御力は高いが、その分貰えるスキルポイントも通常のスクアルエルの1.5倍ある、ノービスにとってはおいしい獲物だ。


 数は……100匹くらいか。

 敵の強さも数も前の群れとは比較にならないわけだが、まあ問題ないな。


「ハイボルテージトルネード」


 このために取得したといっても過言ではない範囲攻撃魔法で、群れを吹き飛ばす。

 それにより、ある個体は感電死、またある個体は壁に激突するなどして……群れは一瞬で全滅することとなった。


 まあ、こうなるのも当然だ。

 どうせなら色々と応用が効く範囲攻撃魔法をと思い、スクアルエル相手だとオーバーキルになるくらいのスキル強化はしてあったんだからな。

 ゴールデンスクアルエルの耐久性が高いとはいっても、+値20のハイボルテージトルネードからすれば五十歩百歩だったというわけだ。


「ストレージ」


 収納魔法で、全てのゴールデンスクアルエルの死体を収納する。

 それから俺は、続きを行こうと進路を確認した。

 が……ここから先、道らしい道は見当たらない。


 とうとう最深部までこれたか。

 やっと依頼達成を報告できるってわけだな。

 などと思いつつ、俺は元来た道を戻ろうとした。


 しかし——その時。

 突如、ゴゴゴと音がしだしたかと思うと……開けた空間の床が割れ、「サーチ」に新しい反応が出現した。

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