第五十二話 調査開始
洞窟に入ると、俺は最短経路で例の爆砕地点を目指した。
「断聖の刃」
途中で一体のセイクリッドブルに出くわしたところで、早速「三日月刃」のアップグレードである「断聖の刃」を放ってみると……セイクリッドブルは叫び声を上げる間もなく真っ二つになった。
ま、このレベルの魔物じゃ、自分がどれほど強くなったかはよく分からないな。
なんせ従来の俺でも一刀両断できてたんだし。
強いて言えば、前倒した時は叫び声をあげられた気がするので……「断聖の刃」の麻痺効果がしっかり出てるってのが分かるくらいか。
「ストレージ」
死体を収納すると、更に奥へと進んでいった。
寄り道は一切せず、エンカウントした魔物だけ倒しながら歩き続け、洞窟の元最深部までやってくる。
「……あ」
そういえば、自身のステータスの強化に夢中すぎて、ある意味今回の依頼で一番重要なスキルの取得を忘れていたな。
「アップグレードコード1111-2 『マッピング』取得」
不意にそのことを思い出し、俺は歩いた経路を自動で地図データ化するアップグレードを、2000ポイントかけて取得した。
ちなみにこの地図データは、後で専用の魔道具を使ってプリントアウトすることもできる。
気を取り直して、探索開始だ。
かつて開けた穴を飛び降りると、そこには一体のスレイプニールが待ち構えていた。
まずは、無双ゲージを溜めておくか。
「フォースリダクション」
開幕攻撃力低下妨害を放ち、足腰に力を入れて待ち構える。
そして、スレイプニールの突進を真正面から受け止めた。
スレイプニールと激突すると、数十センチ押し込まれはしたが……それでも、吹っ飛ばされるようなことにはならなかった。
身体強化の+値が80にもなり、そこにフォースリダクションとウルトラソウルによるダメージ低減効果が乗ると、もはやこのレベルの魔物相手でも防御はいらないようだ。
無双ゲージの方はといえば、今ので六分の一弱溜まっていた。
13回も同じことを繰り返せば、無双結晶の分も含めて満タンになりそうだ。
距離を取り、再び突進を誘い、それを受け止める。
それを7回繰り返した時……無双結晶に変化が起こった。
無双結晶の輝きが、若干増したのだ。
これがこの結晶に無双ゲージが溜まっていってる合図か。
などと思いつつ、あと6回、スレイプニールの突進を受け止める。
すると……最後の突進を受け止めた際、今度は無双結晶からシャキンと音がすると共に、一瞬虹色に光った。
満タンになったらサインが出る仕様か。
分かりやすくてありがたいな。
「断聖の刃」
スレイプニールはもう用済みなので、最後に俺は斬撃を放って一刀両断した。
敢えて急所は外すように放ってみたのだが、今の俺ならそれでも瞬殺できるようだ。
これでいざという時の手段は確保できたので、もう何に出くわしても安心だな。
「ストレージ」
スレイプニールの死体を収納すると、俺は続きの探索を開始した。
◇
それからしばらくは……何の変哲もない単純な探索作業が続いた。
一応調査目的なので、「移動強化」を使いつつ全部の枝分かれをチェックして進んでいるのだが、本当にこれといって特に何もないのだ。
ポツリポツリと魔物に遭遇することはあるものの、どれもバイコーンかスレイプニールで通りざまに瞬殺できてしまうので、それすらもはや「討伐」というよりは「作業」。
ハッキリ言って、気分的にはジョギングをしているのと何ら変わりない感じだ。
「このまま最後までこの調子だったら、ちょっと萎えるな……」
などと愚痴を独り言ちつつ、それでも何か変化が現れることを期待して走り続ける。
すぐに状況が変わるわけではなかったが……しかし、その兆候は見えてきだした。
少し下のあたりに10体ほどの魔物の群れがいるのが、「サーチ」に映ったのだ。
聖属性の魔物で二桁の個体数の群れを作るとなると……魔物の種類もほぼほぼ分かったようなものだな。
などと思いつつ、俺はそこを目指した。
着いてみると……そこでは、頭に光の輪を浮かべた5歳児くらいの大きさのリスの魔物が群れを成していた。
スクアルエル——敏捷性の高さととてつもない咬合力が特徴の魔物だ。
どれくらいとてつもないかというと、直径50センチのミスリルの円柱くらいなら、一噛みで砕いてしまうくらいだ。
流石に今の俺でも、噛まれてしまうと無事では済まないだろう。
やはり、思った通りの魔物だったな。
多少は手ごたえのある戦いになりそうだ。
「国士無双」
上手く戦えばこの必要はないだろうが、無双結晶を用いた二連続発動のお試しも兼ね、俺は「国士無双」を発動した。
噛まれるとまずいとはいっても、あくまでそれは通常時の話であって、無敵状態になればそこを気にする必要もない。
「爆砕」
空中に「爆砕」を放って音を轟かせると、スクアルエルたちが俺に気づいて飛びかかってきた。
さあ、討伐開始だ。