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第五話 冒険者登録へ

 冒険者ギルドにて。

 建物に入ろうとした俺は……入り口のドアのところに、こんな貼り紙がしてあるのに気がついた。


『大型素材はあちら↑』


 建物に入って、素材の換金をしてもらうつもりの俺だったが……どうやら俺が行くべきは、あちらと書かれた矢印の指す方のようだ。

 というわけで、看板の指す方向に向かって歩いていく。

 すると……そこには、解体施設と一体になった、ギルドの買取所があった。



「すみません、これ売りたいのですが」


 買取所の受付にて……俺はそう言いつつ、「ストレージ」でラッシュボアの死体とギガントホーネットの巣を取り出す。


 すると、受付嬢の目が点になった。


「あの……今いったいどこから魔物を?」


 どこからって……収納魔法以外に、何があるんだ。

 そう思いかけたが、俺はそこで、重要なことを一つ思い出した。


 そういえば「ストレージ」、ノービスのスキルポイント制でしか手に入らない、NSOではノービス固有のスキルなんだった。

 ノービスは無能という考えが主流——すなわちNSOライクな生き方をしているノービスがいないこの世界では、今のは全く馴染みのない現象だったことだろう。


 当たり前のように使ってしまったが、受付嬢には「何も無い空間から魔物を出した変な奴」と思われたに違いない。


 まあ、いいか。

 知られたからって問題になるようなスキルじゃないしな。


「収納魔法です」


 ということで、俺は端的にそれだけ答えた。


「しゅ、収納魔法……聞いたことないですね……」


 案の定、首を傾げる受付嬢。

 だが、別に俺はここに「ストレージ」の説明をしに来たのではないのだ。

 俺の目的はあくまで戦利品の売却なので、その手続きに移って欲しいのだが。


 と思っていると……受付嬢はふと我に返り、こう続けた。


「……ラッシュボアが一頭と、ギガントホーネットの巣が一つですね」


「はい」


「では、冒険者証を提示してください」


 そして……俺は、まだ持っていない冒険者証の提示を求められてしまった。


 ……まあ、そうなるよな。

 ここで魔物を売りに来る人なんて、普通冒険者登録を済ませた人しかいないはずだし。

 いつものことと思い、流れ作業でそう聞いてきたのだろう。


 だが……規定上、別に魔物の売却は、冒険者じゃない人でも問題なかったはずだ。


「持ってないです。冒険者登録をしていないので」


 というわけで、俺はそう答えた。


「持って……ない? ……ラッシュボアを討伐できるような方が?」


 すると……受付嬢は、怪訝な表情を見せる。


「……なんで登録しないんですか?」


「昨日から活動始めたばっかりだからです。あと、冒険者登録は、冒険者登録試験を突破できるくらい強くなってからにしようと思って」


 受付嬢は続けて俺に質問してきたので、俺は正直にそう答えた。


 これ自体は本心だ。

 冒険者登録試験では、ジョブ別に試される能力が違う分、試験方法がいくつか用意されているが……そのどれもが、攻撃系か防御系のスキルを持ってないと突破できない内容ばかりだからな。

 そのどれかに対応できるようなスキルを入手し、ある程度+値を上げてから、試験には臨もうと思っているのだ。


 NSOでも、そういった理由から、冒険者登録は序盤最後のイベントって位置付けだったしな。

 何も急ぐことはないはずだ。


 だが……受付嬢は、さらに困惑した表情でこう口にする。


「言ってることがあべこべすぎます。ラッシュボアを倒せるなら、試験を突破できないわけないじゃないですか……」


 ……まあ、受付嬢がこんな反応になるのも無理はないが。

「チェンジ」なんて魔道具、存在が知られてるとは思えないからな。


「この魔物は、ちょっと特殊な方法で倒したんです。だからその、純粋な戦闘力はまだないというか……」


 というわけで俺は、原理は濁しつつそう説明した。

 すると受付嬢は、諦めたような表情でこう言った。


「……分かりました。ギルド職員として深く詮索はしませんので、一応買取はします。でも、いくら特殊な方法とはいえラッシュボアを倒せるなら、登録しないのはもったいないとおもうんですがね……」


 不服そうに呟きながら、二つの戦利品に整理番号を振る受付嬢。


 そんな様子を見ていた俺だったが……ふと俺は急に、忘れかけていたことを思い出した。



 よく考えたら……今の俺でも冒険者登録試験を突破できる方法が、一つだけ存在するのだ。

 それは、「ギルド職員同伴のもと魔物を討伐する」という試験方法。

 ある程度強い魔物を倒さねばならないので、この試験内容でも今の俺には無理だと思っていたが……よく考えれば、この試験だけは「チェンジ」さえあれば突破できてしまうのだ。


 今までこれに思い至らなかったのは、NSOでは実質、この方法での試験突破は不可能だったからだ。

 というのも、NSO内で「チェンジ」が登場するのは、ゲームの中盤以降。

 その頃にはとっくに冒険者登録など済んでいるため……「チェンジ」を冒険者登録試験で使うなど、あり得ないことだったのである。


 危うくNSOの攻略順序にとらわれ、このことを失念するところだったが……今俺がいるのはNSOであると同時に、現実世界でもあるのだ。

 最初から「チェンジ」を使える以上、今すぐ冒険者登録をしない理由はない。


「やっぱり冒険者登録、やることにします」


 そこまで考えた俺は、受付嬢にそう意思を伝えた。

 コロコロ意見を変える奴と思われるかもしれないが、まあそれはこの際しょうがない。


「絶対その方がいいと思います!」


 すると受付嬢は、俺が意見を180度変えたことには特にツッコまず……明るい表情で、そう断言してくれた。


「……あ、こちらは査定終了後に提示していただく簡易整理番号札になります。もし手持ちに受験料がなくても、今回の場合査定額は確実に受験料を上回るので、そこから差し引くという形で大丈夫です! では、あちらの建物で登録手続きをしましょう!」


 そして受付嬢は、俺に二枚の札を渡しつつ、俺を最初の建物に案内してくれた。

 ……ちなみにこの受付嬢、名前はシルビアというらしい。


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