<< 前へ次へ >>  更新
44/59

第四十四話 下は魔素溜まりだったようだ

「爆砕」


 地面に手を当て、そう唱える。

 すると、手と地面が接触しているところから半径1メートルほどの地面が、半球状に抉れた。


 あと数回これを繰り返せば、穴が貫通しそうだな。


「爆砕、爆砕」


 更に二回縦に穴を掘り進めると、穴が貫通し、僅かばかり下の空間の様子が見えるようになった。

 ここまで来れば──。


「えいっ!」


 俺は彫り進めた穴の周囲を思いっきり踏み抜き、穴を拡大した。

 それにより、穴は人が下に行ける程度の直径になる。

 その穴から、俺は下の空間へと飛び降りた。


 着地してから周囲を見渡すと、そこには一体の魔物は鎮座していた。


「……げっ。あれは……」


 その魔物を見て——思わず俺は、そんな声を出してしまった。

 というのも、そこにいたのは俺が全く想定していなかった種類の魔物だったのだ。

 上部に光の輪を乗せた、綺麗な白銀の正八面体を乗せた魔物。

 ──大天使アルムだ。


 この魔物の特徴は、とにかくすさまじい攻撃力を誇ること。

 特に得意技である「セイクリッドライフル」は、街一つを焦土に変えるほどの威力を持つ。

 たとえ「国士無双」の無敵状態でガードすれば俺自身は事なきを得られたとしても、放たれてしまえばエルシュタットは一巻の終わりだろう。


 ちなみに「ワープ」も使う意味が無い。

「セイクリッドライフル」は次元貫通効果を持つ技なので、どっちみちこの世界に攻撃が降り注いでしまうからだ。


「……魔素溜まりになってた、か……」


 再度空間全体を見渡しつつ、俺はそう呟いた。

 この魔物の生成条件は、「長期間における過密な魔素だまりができていること」。

 大天使アルムは、いわば聖なる魔素が結晶化したものなのだ。

 それを顕著に表しているのが、この正八面体のフォルムだ。


「さて、どうするかな……」


 危険な魔物だが──コイツには一つ、大きな弱点がある。

 それは、「チェンジ」が有効なことだ。

 とはいえ今まで使っていたような、スライムの魔石で作った「チェンジ」が効くわけではない。


 コイツの中の魔石──通称「アルムコア」との交換に使えるのは、そこそこ強力な聖属性の魔物からとれた魔石だけだ。

 そして「そこそこ強力」の基準はというと、先ほど倒したバイコーンの倍以上強い魔物である必要がある。


 もちろん、今までにそんな魔物は倒していない。

 コイツを倒すにはまず、そこそこ強力な聖属性の魔物を見つけて討伐し、その魔石を手に入れる必要があるわけだ。


 幸いにも──基本的に大天使アルムは、攻撃を受けるまでは眠った状態になっている。

 別に手出しさえしなければ、コイツをスルーして別の場所に探索に行くことも可能なのだ。

 とはいえ別の冒険者が見つけて興味本位で攻撃したりしたらその時点でもうアウトなので、どっちみち早めに処理する必要はあるのだが。


 となると──俺がやるべきなのは、ここから更に奥へと繋がっている場所を探索して手頃な魔石を得て、さっさとコイツに「チェンジ」をかけることだな。

 魔石がアルムコアでさえなくなってしまえば「セイクリッドライフル」は撃てなくなるので、そうなれば比較的安全に処理は可能だ。


 というわけで、俺は一旦大天使アルムを放置し、別の魔物を倒しに向かった。

 魔石獲得に行って戻ってる間に、別の冒険者にこの場所が発見されないのを願うまでだな。



 ほどなくして、俺は手頃な魔物を発見できた。

 八本の足を持つ馬型の魔物──スレイプニールだ。

 戦闘能力は、単純な魔力や体力で比較するならバイコーンの約三倍。

 コイツの魔石は、大天使アルムのチェンジに使える条件を満たしている。


「チェンジ」発動後魔物がどれほど弱体化するかは「チェンジ」に使用した魔石の質で決まるので、できればもう少し弱い魔物を狩りたいところだったが……急いでいる以上、あまり贅沢は言わない方がいいだろう。

 というかバイコーンの二倍も三倍も、大天使アルムと比べれば誤差みたいな弱さなんだし、その意味でもわざわざ他の魔物を探すなんてするべきではないな。


 単純な魔力や体力が三倍とはいえ、実はコイツには簡単に倒すコツがあるので、それを踏まえて戦えば討伐難易度はバイコーンとさして変わらない。


「三日月刃」


 とりあえず相手からの動きがないので、俺は斬撃の刃を放って先制攻撃をしかけた。


 スレイプニールはそれに反応して回避の動作を取り……自身へのダメージをかすり傷程度で済ませる。

 そして、俺に向かって猛突進してきた。


「よっと。……三日月刃」


 俺はそれを軽くかわすと、さらに斬撃の刃を飛ばす。

 この魔物の弱点一つ目──それは、動きが直線的なことだ。

 この魔物は八本も足があるのが仇となって、逆に複雑な動きができない。

 なので、軌道と速度を予測しつつ、それに合わせて回避・カウンターを行えば、ほぼ一方的に攻撃できるのである。


「ギャアァァァァ!」


「三日月刃」が直撃すると──スレイプニールは断末魔の叫び声を洞窟中に響かせた。

 かと思うと、そのまま倒れて動かなくなる。

 近づいて見てみると、スレイプニールのたてがみの付け根に、パックリと傷ができていた。

 この魔物の弱点二つ目──それは、たてがみの付け根あたりに中枢神経が表出している場所があることだ。

 ここに攻撃が直撃すれば、この魔物は簡単に全身不随になってしまう。


 もちろん、そうなるよう狙って「三日月刃」を放ったのだ。

 あと数分もすれば、このスレイプニールは絶命することだろう。


 どうせここに傷が入れば痛覚不能になるんだし……もう今のうちから解体して、魔石を取り出すか。

 ギルドの解体師ほど器用ではないが、俺だって魔石を取り出すくらいのことはできる。


 血の匂いに他の魔物がつられてこないかだけ「サーチ」で注意しつつ、俺は解体を始めた。

<< 前へ次へ >>目次  更新