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第四十二話 エルシュタットに着いた

 そしてまた、異空間から戻ってくると……。


「……何も見えないな」


 辺り一面、五里霧中となっていた。


 煙は上に昇るとはいえ……結界を足場に上空に移動する方法でなら煙を追い越して更に上に行けるので、とりあえず俺は視界確保のため上空を目指す。


 上空1キロほどまで来てみると……地上がどんな風になったかが一望できた。



 地上には……何百、いやヘタしたら千数百もの爆発の痕が残っていた。

 それだけの数の地雷が、たった今、爆発したというわけだ。


 もちろんこれは今、俺が意図的に起こしたものだ。

「魔力補充」と「エリアナイザー」によるその範囲化、そして適当に選んだ一つの地雷の起爆。

 俺はこれらを用いて、ここいら一帯の地雷を、全て誘爆させていったのである。


 なぜこんなことが起こせたかというと……それは、「魔力補充」というスキルの特性が原因だ。

 このスキルはさっきも言った通り、基本的にはファントムコアを使った魔道具のような、魔力の再充填が可能な魔道具に対して使うものなのだが……一応、そうでない魔道具にも多少の効果を及ぼす。


 どんな効果かというと、それは「対象の魔道具の威力を、一瞬だけ数割上昇させる」という効果だ。

 発光の魔道具だと一瞬だけ光量が1.5倍くらいになるし、給水の魔道具なら一瞬だけ時間当たりの水量が二割増しくらいに増加するのだ。


 とはいえ、「魔力補充」がこういった目的で使われることは稀だ。

 なぜなら一瞬だけ魔道具の威力が上がっても、普段以上に役に立つケースは少ないからな。


 だが……一瞬だけでも上昇すればそれでいいというケースも、皆無ではない。

 そして今回も、そんな数少ないケースの一つだ。


 今回の場合……一瞬でも地雷の魔道具の威力が上がり、誘爆可能半径が広がれば、その瞬間に地雷を一つ起爆することで範囲内の地雷を誘爆することができるからな。

 更に、そんな状態の地雷を「エリアナイザー」で全域に用意してやれば、連鎖的に全ての地雷を誘爆することができたのだ。


 まあこんなことができたのも、普通であれば誘爆しないギリギリの配置で地雷が並べられていたおかげなのだが。

「永久不滅の高収入」のやり方を知っていたからこそ、それを逆手に取れたというわけだ。


 いきなり目の前で連鎖的な大爆発が起こってビックリしてるだろうし……早いとこクレオさん達の所に戻って、安心させた方が良さそうだな。


 俺は360度グルっと見渡して馬車のある方角を見つけると、そちらに向かって走っていった。



「い……一体何が起こったのじゃ……」


 馬車に戻ると……クレオさんは口をあんぐりと開けたまま、立ち昇る煙に釘付けになっていた。


「ここらへんにある地雷を全部爆発させたんですよ。これでもう、安心して通れます」


「じ……地雷を全部爆発!? なんと無茶な……」


 まあ傍からは、爆心地に突っ立ってた俺が爆発に巻き込まれたように見えただろうからな。

 無茶だと思われるのも、無理はないか。

 ……実際はやり方さえ気をつけていれば、どうということはないのだが。


「安全には気をつけましたから。……煙が晴れたら、進みましょうか」


「そ、そうじゃな……。全く……こんなのを見せられては、受付のお嬢ちゃんが『突如現れた神話級の冒険者』とかいうのも納得じゃわい……」


 いや、その台詞には納得しないでくれよ。

 確かに、こればかりは「永久不滅の高収入」に関する知識が無い者には、的確な対処は難しいだろうけど。


「……とりあえず、これでも食べます? ……ジーナさんも是非」


 煙が晴れるまでの間暇なので、俺は街で買いためていた名物のお菓子を「ストレージ」から取り出し、みんなで食べながら待つことにした。


「おお、すまんのう」

「これ……美味しいですね!」


 そして視界が確保できる程度に煙が晴れると、俺たちは残りの旅路を進んでいった。



 ◇



 地雷原を抜けてからは、特に何事もなく……俺たちは無事、エルシュタットに到着した。


 まずは依頼達成報告のため、エルシュタットのギルドに寄る。

 基本的に、護衛依頼の達成報告の手続きは依頼者が進めるものなので、最初俺はクレオさんの側で話を聞いているだけだったが……その途中、受付嬢の声がギルド中に響き渡った。


「え……あの街道を抜けて来たんですか!? 言い方ちょっと失礼かもですけど、なぜご無事で……」


 受付嬢はそう言いつつ、カウンターに備え付けのボタン(NSOでもそうだったが、そこそこ規模の大きいギルドには有事にお偉いさんを呼ぶボタンの魔道具がある)を押す。


 クレオさんはその問いに、困ったような顔をしながらこう答えた。


「それがじゃのう……こちらの護衛さんが、あの道に埋まっておった地雷を全て破壊し尽してくれたのじゃ。……信じられんと思うが、儂からはそうとしか説明できん」


「ええ……」


 クレオさんの発言は、受付嬢をも困惑させた。


 ……この説明に関しては、俺がしないとどうしようもなさそうだな。

 どうせここに来たら例のサンプルも渡すつもりだったし、それも含めて全部話すとしよう。


「地雷ですが、このようなものが30メートルおきに、数平方キロメートルにわたって設置されてました。おそらくここ最近の行方不明者というのは、全てこれが原因で発生していたのでしょう」


 俺は「ストレージ」から地雷を出しつつ、まずそう話した。


「ひぇっ!」


「……あ、この地雷は起爆装置を無効化しているので、触っても安全ですよ」


 地雷をカウンターに置くと受付嬢が怯えてしまったので、慌てて補足する。


「で、クレオさんの仰る地雷の爆破についてですが、幸いにも誘爆半径ギリギリで並べられておりましたので、広範囲に魔道具威力強化をかけつつ一個爆発させ、全部誘爆させました。ですので現在は、例の街道は安全です」


 更に俺は、あの場でやった地雷処理の内容を、そう纏めて説明した。


「なるほ……どって言っていいんでしょうか。なんか凄い荒技に聞こえるんですけど……ほんとよくご無事でしたね」


「儂もこの護衛さんが地雷原のど真ん中で踏み抜いた時は、もう一巻の終わりかと思ったわい……」


「やり方を知っていれば、安全に踏み抜くことは可能なんですがね」


「……いや、分かってても常人には真似できないと思いますが……」


 この世界では「ワープ」が普及していないからだろうか。

 地雷の安全な踏み方を説明すると、受付嬢に更に引かれてしまった。


 そんな中……さっきの呼び出し魔道具に応じて、一人の中年の男が奥の事務室から出てくる。


「一体何があったんだ?」


「この人たちが、例の街道を安全化したというのです。こちらは安全化したサンプルで、例の街道にはこれと同じものが沢山埋まっていたらしいのですが……彼がそれらを全て誘爆させたとのことで」


「こ、これは……!」


 男は地雷を目にすると、息を呑んだ。


「まさかこれまでの行方不明が全て、こんなもののせいとはな……。酷い話だ。しかし……こんな大規模犯罪、一体誰が?」


「おそらく、永久不滅の高収入かと」


 男がの関心が犯人に向いたので、俺はそう口にした。

 NSOでの出来事を考えれば犯人はそれしかないのだが、断定しても変に思われると思い、一応「おそらく」と前置きしつつだが。


「え……永久不滅の高収入? 奴隷商なんかが、一体何の用でこんな無差別大量殺人を?」


「実はあれ、ただの奴隷商ではないんですよ。……その話はまた後日、前の街のギルドから報告が来ると思います」


 ギルド同士で情報共有なんてするのかは分からないが……まあ、俺の昇格の話に付随してこの件だけは間違いなく伝わると思ったので、俺はそう答えた。


「何だか色々と雲行きが怪しくなってきたな。……ともかく、ありがとう。例の街道に関しては、念のための調査依頼が済んだら、別途報酬を用意するとしよう。とりあえず今は……護衛依頼の達成報酬だな」


 男がそう言うと、受付嬢が金貨の山を取り出す。


「こちら、50万パースになります。これだけだと、してくださった事と報酬額が釣り合っていないと思われるでしょうが……まあ間違いなく街道安全化に関する追加報酬の方が大きくなるはずですので、本命はそちらと思って頂くということで」


「分かりました」


 金貨の山を受け取ると、俺はギルドを後にした。



 なんだかんだ言って……わりかし少ない労力で「永久不滅の高収入」の邪魔もできたし、この街道通って正解だったな。

 明日からはまた、本格的に魔物狩りに入っていくとしよう。

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