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第三十九話 街道が……

 そして、階段を上がって部屋に戻ると……。


「それと、最後にもう一つ。昨日の会議にて……お前の冒険者ランクを、特例で上げることが決まった」


 ゼインは人差し指を立てつつ、そう告げた。


「具体的に何段階上げるかは、まだ王都の本部に掛け合わなければ決められない部分もあるが……Cランクの二ツ星まではほぼ確実で、そしておそらく、そこに三ツ星維持の試験をいつでも受けられる権利が付く形になるだろう。流石にSランク相当の星を試験免除でとはできないもんでな、特例での無条件昇格はこの辺りが限界だろうが許してくれ」


「三ツ星維持の試験……。そんなのがあるんですね……」


 それを聞いて、俺が最初に抱いたのはそんな感想だった。

 NSOでは、そもそも「星の数だけ戦闘面では高ランクと見なされる」なんて制度と無縁だったからな。

 更にその維持試験なんてものがあるのが、新鮮に感じられたのだ。


「ま、内容はSランク昇格試験の実技と同じだがな。そもそも星付き冒険者なんて滅多に出てこないから、それ用に新たな試験なんて用意されていないし。何にせよ、ジェイドならどんな意地悪な採点官でも満点合格を出さざるを得ないだろう」


 ゼインは俺の感想に対し、そう補足した。


 ……まあ、そもそもの星制度の定義から考えれば、試験内容を別にする理由はないよな。

 どんな意地悪な採点官でも満点合格は、ちょっと買いかぶり過ぎ……というか別に、俺としては合格点さえ出せればそれでいいのだが。


 そんなことよりも、だ。


「てことは……昇格の手続きが済むまで、俺、この街にいた方がいいんですかね?」


 俺は、話を聞きながら気になったことを、質問してみることにした。


 せっかく「ウルトラソウル」を手に入れたので……早いとこ、聖属性の魔物が出る地域に移りたいと考えていたからな。

 旅に出るのを昇格手続きが終わった後にした方がいいのかどうか、聞いておきたいと思ったのだ。


「……別の街に行きたいのか?」


 するとゼインは……少し悲しそうな表情で質問を返してきた。


「はい。あの拠点で見つけた例のアイテムあるじゃないですか、アレを活用できる街に行きたいんです」


「そういう理由があるのか……。お前を手放すのは惜しいが、それなら仕方ないな」


 どうやらゼインが悲しそうな表情を見せたのは、俺がこの街からいなくなることに対してだったようだ。

 まあ遅かれ早かれ、周辺地域の魔物が物足りなくなったら移住するつもりだったし……そればっかりはどうしようもないな。


「で、昇格の手続きか。それなら特に待つ必要は無いぞ。正式なことが決まったら、行った先の街で手続きすればいい」


 続けてゼインは、俺の質問に答えてくれた。


 行った先の街で、でいいのか。

 それなら身支度が整い次第、すぐに出発できるな。


「ちなみに……どこに行きたいんだ?」


「エルシュタットです」


 ゼインは更に、興味本位で行き先を聞いてきたので……俺はこの二日間の間に目星をつけた地名を口にする。

 すると……なぜかゼインは、ボソッと「あそこか……」と言いつつ、苦い表情を見せた。


「……なんかマズい場所なんですか?」


 ゼインの反応を変に思った俺は、そう質問してみた。

 するとゼインから返ってきた答えは、このようなものだった。


「いや、エルシュタットそのものは悪い場所じゃないんだ。が……問題はその道中でな。ここ最近では……この街とエルシュタットを繋ぐ街道を通った者が、例外なく行方不明となっているんだ」


 ゼイン曰く、問題はエルシュタットそのものではなく、その道中だとのこと。


「行方不明……?」


「ああ。それも商人や旅人だけじゃなく、調査に赴いた冒険者も帰ってこないんだ。……あの街道には、何かがある」


 そしてその事態は……かなり深刻なようだった。


「ジェイドなら、原因を発見した上で生還したり、何なら原因の解消まで可能な気もしなくはないがな……。万が一を考えたら、安易に行くのをオススメはできないというか……」



 それを聞いて……俺はその街道で今何が起きているか、何となく予想がついた。

 その街道……多分、「永久不滅の高収入」が何らかの細工をしているな。


「ま、ジェイドが今の話を聞いても尚行くってなら、止めるつもりは無いがな」


「じゃあ行きます」


 だいたいのパターンと、今の自分に可能な対処法を考えついたところで、俺はそう返事した。

 NSOに即して言えば、「永久不滅の高収入」による街道細工は、場合によっては引き返すのを余儀なくされるものはあるものの……注意していれば、何もできず即死するレベルのものは何一つ無いからだ。


「そうか……まあ、達者でな」


 ゼインのそんな言葉を最後に、俺はゼインと別れることとなった。



 帰り際……受付を通過しようとしたところで、俺はあることを思いついて足を止めた。

 そして……メイカさんのところが開いていたので、そこに並んでこう聞いてみる。


「あの、誰かエルシュタット行きの護衛依頼を出している方っていませんかね?」


 俺の性格上……こういう「ついで」の機会でもなければ、わざわざ護衛依頼を受けようと思うことは無いだろう。

 しかしギルドの規則では、確かBランクからは、護衛依頼の実績もなければ昇格できないようになっていたはずだ。


 そこで俺は将来のことも考え、ちょうど今出ている依頼がないか、一応聞いてみることにしたのだ。

 まあゼインの話から察するに、今なおそんな依頼を出している人がいる可能性は望み薄だが。


「あー、ジェイドさん、エルシュタット行こうとしてらっしゃるんですか? まあジェイドさんならいいんですけど……流石に今護衛をつけて行こうとしている人は、一人もいませんね」


 するとメイカさんは、案の定、残念そうにそう言った。

 ダメ押しで聞いてはみたものの、やはりそうなるか。


「やっぱりいないですか……」


「ええ。一か月くらい前までなら、一人くらいいた気もするんですが……」


 まあ、依頼が無いのであれば仕方がない。

 そう思い、俺はカウンターを離れようとした。


 が……その時、ふと隣のカウンターからこんな会話が聞こえてくる。


「そんなに危険なのかのう……」

「はい……。残念ですが、今は護衛を請け負いたいって人が見つからない状況かと」


 隣ではシルビアさんが(今日は珍しく大型素材買取所のシフトではないようだ)、一人の恰幅のいい男相手にそんな説明をしていた。

 ……待てよ。男が出そうとしているの……もしかしてエルシュタット行きの護衛依頼か?


「シルビアさん、ちょっと待ってください! エルシュタットに行きたい冒険者なら、ちょうど今一人います!」


 メイカさんもそれに気づいたようで……振り返った時には、彼女はシルビアさんにそう伝えていた。


「それって、もしかして……」


 それを聞いて、シルビアさんがこちらに視線を向ける。

 かと思うと、彼女は男にこう告げた。


「……こんなラッキーなことってなかなかありませんよ。当ギルドには一人、突如現れた神話級の強さの冒険者がいるのですが……その彼が貴方の依頼を受けてくれるそうです」


 ……あのさあ、言い方よ。受けるけど。


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