第三十六話 いざ地下施設へ
「……うん、予想通りだったな」
「国士無双」を発動してから9人を倒し、残すはあと一人となった時。
残りの一人も、今まで倒した九人のうち最強だった奴と同レベルなのが分かったところで……俺は安心してそう呟いた。
やはり、古代魔法の詠唱からステージ難易度を逆算する戦力把握法に間違いはなかった。
こいつら全員——NSOの「地獄級」相当の実力しか持っていない。
「優雅に独り言言ってんじゃねえよ!」
最後の敵はというと……そう言って俺に、三度めのタックルをかましてくる。
その威力は、最初の二発より僅かに増していた。
今相手が使っているのは……「コンウェイタックル」という、五段攻撃のコンボ技。
この技の特徴は……1発目から5発目にかけて、タックルの威力が上昇していくことだ。
どのような上昇比率かというと、1:1:2:3:10000みたいな感じで、とにかく5発目の威力がとんでもないくらいに膨れ上がる。
今受けたのは、その3発目というわけだ。
「国士無双」発動中なので、ダメージは無いが……タックルを受けたことにより、俺は建物の壁にめり込まされる。
「死ねやぁ!」
そして4発目で……俺は壁をぶち破り、屋外に飛ばされることとなった。
……その時。
着地したあたりのタイミングで……俺の周囲の金色のオーラが、ふっと消え去った。
……時間切れだ。「国士無双」の効果が、あと一歩というタイミングで切れたのだ。
「フハハハハ! 貴様のその不気味な変身形態も、長くは持たなかったみたいだな!」
その様子を見て……俺を追って壁にぶち開けた穴から出てきた男は、勝利を確信した。
そして、本命の5発目のタックルを、俺にお見舞いしようとする。
「……かかったな」
だが……本当に勝利が確定したのは、むしろ俺のほうだ。
俺はタックルの攻撃発生の0.1秒前に、あの妨害魔法を発動した。
「ワープ」
タックルが俺に当たる前に、男は異空間へと吸い込まれる。
直後……無双ゲージが、一瞬にして満タンになった。
なぜこうなったかというと……ワープの異空間の中で、5発目のタックルが発動したからだ。
実は、多段攻撃と「ワープ」という妨害は、非常に相性が良いのだ。
多段攻撃の最初の数発を受けていれば……それ以降の攻撃を「ワープ」でいなしたとしても、無双ゲージの溜まり判定上は俺がその攻撃を受けたことになる。
故に俺の無双ゲージは、コンウェイタックルの5発目を受けたものとして、溜まることとなった。
特に……コンウェイタックルの場合、5発目は他とは次元が違うレベルで威力が高いからな。
そのダメージ量は、一発で無双ゲージ満タンになって余りあるものだったわけだ。
ここまで、俺の作戦通りだ。
もともと俺は、一回の「国士無双」の効果時間内に、全員を倒せるとかは微妙だと思っていた。
そんな中……あの男が「コンウェイタックル」を使い始めたのを見て、俺はソイツを利用して無双ゲージを溜め直す方針に決めたわけだ。
もしかしたら、急げば全員始末しきれていたかもしれないが……高度な戦いで、焦りは禁物だからな。
むしろ安全策として、二回目の「国士無双」で、余裕を持って最後の相手を倒そうと思ったのである。
「国士無双」
今の俺の「ワープ」の+値では、敵は一瞬で現実に帰ってくるので、その前に「国士無双」を発動しておく。
「小癪な! ……って、あれええぇぇ!?」
「ワープ」から帰ってきた男は……俺が再び金色のオーラを纏っているのを見て、口をあんぐりと開けた。
「誰が『変身形態は、長くは持たなかった』だって?」
それに対し、俺は男が勝ち誇った表情で言った言葉を返す。
「……う、嘘だあぎゃあぁぁぁぁぁ!」
あろうことか、男は戦意喪失して逃げ出そうとしたので……俺は「三日月刃」で一刀両断した。
普通なら、戦意を失った者に攻撃を加えたりはしたくないんだがな。
コイツの場合、「国士無双」効果時間中に始末しなければこちらの命が危うくなるので、これは仕方ないことだ。
男の上半身に近づいてみると……まだ意識はあるようで、小さな声でこんなことを呟いていた。
「俺を倒したとて……お前を倒せる力を持った奴は……もうすぐ現れるだろう……」
まるで某「第二第三の魔王が……」って台詞みたいなノリで、そう彼は口にする。
まあ、NSOに魔王は存在しないのだが。
何のことを言っているのかは見当がつくので、俺はこう返した。
「そのための儀式なら、範囲化した『術式崩壊』で既に止めてあるが……」
「……化け物か!」
俺の言葉を聞いて……男は絶望で目を見開き、そのまま動かなくなった。
……そうだ。せっかく二回目の「国士無双」の効果時間が余ったんだし、今のうちに怪我した討伐隊メンバーを回復させよう。
俺は急いで建物に戻っていった。
◇
「国士無双」発動中の「ヒール」の効果は抜群で……全員の傷は、たちまち全快した。
それから1分くらい経つと……ようやく「国士無双」の効果が切れる。
「まずは……ありがとう。俺たちには手も足も出なかった敵を一掃してくれたことも、俺たちの怪我を治してくれたことも」
最初に口を開いたのはゼインで……彼はそう言って、頭を下げた。
「にしても、あのパワーは一体何だったのだ? あまりにも見違えるほどの強さで次々敵を葬り去るもんだから、見ていてまるで現実感が無かったのだが……」
続けて彼は、そう聞いてくる。
「あれは国士無双という……まあ、一応奥義に分類される技ですね」
それに対し、俺はそんな曖昧な答え方をした。
これ以上、「無双ゲージが〜」とか仕組みまで詳しく語っても、理解のしようがないだろうからな。
まあ、こんな説明でいいだろう。
「お、奥義か……」
「三ツ星討伐者って、やっぱ格が違うんだな……」
俺の答えを聞いて、ザージスともう一人の「ベテルギウス改」のメンバーが、それぞれそう口にする。
「……いや。俺の知る限り、この強さは『三ツ星討伐者だから』では説明がつかないぞ」
そしてそれを、ゼインはそう訂正した。
うん、まあそれはそうだと思う。
三ツ星討伐者、単に現冒険者ランクとの相対値でしかないので、Bランクなりたて程度の実力でもEランクならなれてしまうんだし。
……そういえば、そろそろランク昇格試験とか受けてみるのもいいかもしれないな。
いや……ファントム狩りばっかで全然討伐依頼とか受けてこなかったもんだから、まだ実績数不足だろうか?
そんなどうでもいい事を考えていると……メンバーのうち一人が、あるものに気がついた。
「……ゼインさん! こんなところに階段が!」
彼女が見つけたのは、床に空いた穴と……そこから地下に繋がる階段。
——「永久不滅の高収入」のメインの活動場所とも言える、地下施設への入り口だ。
「どうしますか? 行きますか、それとも……」
彼女はゼインの判断を仰ぐため、そう質問する。
「……ジェイドはどう思う?」
ゼインはといえば、判断をそのまま俺に丸投げした。
この建物内の敵が強かったから、及び腰にでもなったのだろうか。
だが……ここを制圧した以上は、もう警戒することはないんだよな。
「いえ、もう危ない敵はいません。入って大丈夫かと」
というわけで、俺はそう答えた。
俺がもう強敵はいないと判断した理由は二つ。
まず一つ目は、「永久不滅の高収入」の戦闘能力を有する者は、全員地上の建物に結集するものだからだ。
彼らは地下施設に何人たりとも入れないために、唯一の入り口である地上の建物で、侵入者を迎え討つようにする習性がある。
なので地下施設に誰かいるとすれば、捕虜か、実験や儀式を執り行う非戦闘要員のみなのだ。
そして二つ目は、「エリアナイザー」で術式崩壊をかけているからだ。
地下に強敵がいる可能性があるとすれば、それは「儀式のよりちょうど新強化兵が完成した時」くらいだが……そちらは既に、稼働停止させてあるしな。
「……ジェイドがそう言うなら、進むとしようか」
というわけで、俺たちは地下に降りることとなった。
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