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第三十四話 拠点制圧戦

 建物の門を開ける前……俺は、追加で二つのスキルの獲得と強化を行うことにした。


「スキルコード1882 『超集中』取得。スキルコード3022 『結界』強化×10」


 まず、新たに獲得したのは「超集中」という、ゾーン状態に入れるスキルだ。

 この戦闘では……間違いなく、無双ゲージを「国士無双」に使うか「虚空の電光石火」に使うかシビアなタイミングで見極めなければならない。

 もし「虚空の電光石火」が必要な相手だった場合、一瞬のスキルの取得・発動の遅れが命取りになりかねない。

 それを踏まえ、俺は時間がゆっくり流れているように感じられる「超集中」を使うことに決めたわけだ。


 そして結界の方も、+値を10上げることにした。

 結界は、上手く使えば破られる前提で変わった使い方もできるが……流石に相手の技の威力が「ヨガ・ブリザード」より段違いに強かったりすれば、それすら通用しない恐れもあるからな。

 気持ち強化して、戦闘に使える幅を広げようと思ったのだ。


「いくぞ!」


 スキルコードを唱え終わった直後……ゼインはそう言って、ドアを蹴破った。

 そして俺たちは、一斉に中に突入した。



 中に入ると、そこは大広間のごときスペースになっていて……そこには、十人あまりの男がたむろしていた。


「随分と好き勝手やってくれたもんだな。……ケルベロスの気を逸らして入ってくるわ、『吹雪の番人』は殺してくれるわ」


 うち一人、俺たちの最も近くにいた男は……こちらにつかつかと歩いてきながらそう言った。


 ……コイツ、明らかにさっきの奴より強いな。

 ケルベロスが気を逸らされただけだというのを、ちゃんと理解していることからも、それは明らかだ。


「吹雪の番人」というのは……さっき戦った男の二つ名ってとこか。


「次元投薬——フッ化水素酸」


 対して、こちらは今までと同じように、問答無用で「次元投薬」を仕掛ける。

 この状況であっても、長々と御託を並べるつもりはないからな。


「ふん、くだらん」


 男はつまらなさそうな表情で無造作に「術式崩壊」を放ち、「次元投薬」を無効化する。

 そしてそれとほぼ同時に、他の九人の構成員も動きだし……本格的な戦いが幕を開けた。



 俺はまず、「縮地」を使って部屋を突っ切り……一番奥の端まで移動した。


「……よう。お前は俺が相手だ」


 すると、移動した地点から一番近くにいた構成員が、俺にそう声をかける。


「ああ。こちらもそのつもりだ」


 俺はまず、そいつから倒していくことに決めた。


 基本的に、「永久不滅の高収入」の拠点を襲撃する場合は……襲撃者が構成員に殺されることはない。

 理由は簡単で、強化儀式の中には「強い人間を使う事」が条件の儀式があり……その生贄のために、生け捕りにされてしまうからだ。

 そのため、「実力が拮抗していて、殺らなきゃ殺られる」みたいな戦いでなければ、基本襲撃者は手加減され、戦闘不能にされるにとどまる。


 逆に言えば……俺は仲間が殺される心配はせず、目の前の一人との戦いに集中すればいいというわけだ。

 それもあって、俺は今のような、一対一になる状況を作り出した。


「随分と自信があるようだな。……『吹雪の番人』は所詮、俺たちの中で最弱。同じようにいくとは思うなよ?」


 目の前の男はそう言って……掌に魔力を集めだした。


「サイクロン」


 そして彼は……俺に向かって、竜巻を起こす風魔法を放った。


 この竜巻、見た目で言えば人間の身長の二倍くらいだが……その殺傷力はすさまじい。

 中心気圧は10000hPaととんでもない風圧を誇る上に、中では無数の雹が飛び交っているのだ。

 そのまま喰らえば、たちまちミンチにされてしまう。


「結界、結界、結界」


 それに対し、俺は三つの結界を展開した。

 もちろんこれで防ごうというわけではなく……全て、風向き調整用だ。


 これにより、「サイクロン」の中の雹は全て互いにぶつかり合って消滅し……風圧自体も、俺を通過する際だけ一瞬、人間が耐えられる水準となった。


「……ハハ、流石に防がれるか」


 だが、攻撃を防ぎぎった俺を見ても……男は不敵そうに笑うのみ。

 今度はこちらから仕掛けよう。


「三日月刃、三日月刃……」


 こちらも小手調べに、まずは立て続けに斬撃を飛ばす。


「おらおらおらぁ!」


 それらは、男が手足に纏わせた無詠唱の「術式崩壊」により、全部ただのそよ風に変えられた。


 まあ、効くとは思っていなかったが……あんな数の「術式崩壊」を同時展開するとは、なかなかやるな。

「吹雪の番人」とやらより有意に強いとなれば、当然っちゃ当然なのだが。


「……! スキルコード3188 『避雷』取得、強化×10」


 続けざまに別の攻撃を仕掛けようと思った俺だったが……NSOで見覚えのある予備動作を見た俺は、それを中断し、咄嗟に一つのスキルを取得した。


「ライトニングボルト!」

「……フォースリダクション!」


 そしてスキルコードを唱えると、直後俺は攻撃力低下妨害を放ったが……その声には、敵の攻撃魔法の詠唱の声が重なった。


 低下妨害が入ると同時に、俺の頭上に小規模な積乱雲が発生する。


「避雷」


 立て続けに、俺は先ほど取得したばかりのスキルを唱えた。


 刹那の後、雲からは轟音と共に雷が落ちてくる。

 が……その雷は、明後日の方向に飛んでいった。


 これが、スキル「避雷」の効果だ。

 しかし「避雷」だけでは、雷の軌道を逸らしきれず、俺は雷に打たれてしまっていただろう。

 そうならなかったのは、「フォースリダクション」で雷の威力が落ちていたから。


 ……全く、「超集中」発動中でなければ、この一瞬でこれだけの処理は行えなかったことだろう。

 やっぱり、戦闘開始前に取っておいて正解だったな。


「チッ……無効貫通かよ、だりぃな」


 流石に今回は……男も苛立ちの表情を見せた。


「……パワーリゲイン」


 そして彼は、「フォースリダクション」を解除する魔法を発動する。


「……小癪な。貴様はもう殺してやる。……緋の神よ、我が身体に宿りし地獄の力を解放せん」


 からの、彼はやたらと長い詠唱文句を唱え……それにより、目の色が紅くなった。



 それを見て……俺は、一つの確信を得た。

 ここには、今の俺が「国士無双」を使って倒せない構成員はいない。


 というのも……NSOの場合だと、どのレベルの構成員がいるかはステージ難易度選択に依存したのだが。

 今彼が使った魔法は、「地獄級」を選択した時に出てくる構成員しか使わないものなのだ。


 俺は「無詠唱」を取得しない理由として、「NSOでの詠唱はスキル名を唱えるだけで短いから」というのを挙げたが……実はこれには、若干の例外が存在する。

「古代魔法」に分類される魔法だけは、先ほど彼が唱えたもののように、詠唱文句が長ったらしいのだ。

 だが……そういった魔法を使うには、「永久不滅の高収入」がやるような儀式を使い、古代魔法適性を獲得する必要がある。

 つまり真っ当に生きる分には、ノービスの俺でも縁が無い魔法ということになるのだ。


「永久不滅の高収入」の構成員のうち、儀式で古代魔法適性を得た者は、古代魔法の一部を使えるようになるわけだが……どんな古代魔法が使えるようになるのかは、人によって千差万別。

 そして実は……「一つのステージ難易度でしかそれを使える構成員が登場しない」という古代魔法が、いくつか存在するのである。


 彼が使った魔法——確か「紅の神化」とかいう名前だったか——もそんな古代魔法の一つで、これを使える構成員は「地獄級」の難易度でしか登場しない。

 そしてここが「地獄級」ステージ相当の拠点だとすれば……他の構成員も、そこまでべらぼうに強い奴がいるわけではないということだ。


 今の俺のステータスと「国士無双」で倒せない奴は、「超地獄級」以降のステージ難易度でしか登場しなかったからな。

 これでもう、「虚空の電光石火」での単独撤退は、選択肢から外していいということだ。



「紅の神化」は、身体能力と魔法の威力が膨れ上がる変身魔法だが……ハッキリ言って、能力値上昇率でいえば「国士無双」には遠く及ばない。

 方針が決まったところで……まずはコイツから始末するとしよう。

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