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第三十三話 そして決戦へ

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「な……途中から何が起こっているのか分からんかった……」


 戦いが終わってから……第一声を発したのは、ゼインだった。


「敵があれほど強烈なブレスを飛ばせるのも想定外だったが……それより、なぜあのブレスは俺たちだけを綺麗に避けたんだ?」


「事前に結界を設置して、そういうふうに風向きを調節したからですよ」


 ゼインの疑問に、俺はそう答える。


「「「「「……へ?」」」」」


 すると……まるで示し合わせたかのように、いろんな冒険者たちの声がそう重なった。


「結界というと……男がブレスを放った瞬間、パリンと音を立てたアレか? 一瞬で割られたように思えたが……」


「別に結界って、攻撃を防ぎきるためだけにあるわけじゃないじゃないですか。割られるまでの間に微小な風圧の勾配を作れば、今みたいに無風地帯を生成できたりしますよ」


「「「「……」」」」


 説明すると……なぜか皆顔を見合わせ、黙り込む。


 そんなに難しい話じゃないと思うんだがな。

 NSOをやっていた頃は、物理エンジンで「いかに弱い結界で魔法の余波を最小限にするか」みたいな考察をするのは、ガチ勢の嗜みの一つとして有名だったし。


 ……あ。この世界に物理エンジンが無いから、セオリーが確立されていないのか。

 だとしたら、無風地帯作りの教科書とか作れば大儲けできたりして。


 などと、しょうもない金策を思いついていると……ようやく、ゼインが口を開いた。


「しかしまあ、たった一人の外で警備している人間がああも強いとはな……。あれが奴隷商の用心棒のやることか? 全く、あんなにも強いのなら、わざわざ闇の世界でなくても簡単に稼げるだろうに……」


 そんなゼインの発言に、ほとんどのメンバーたちが無意識に頷く。


 ……そろそろ、ここにいる全員が「永久不滅の高収入」がただの違法奴隷商ではないことに感づき始めたか。

 流石に、だからといって今「奴らは世界滅亡を企むカルト集団だ」と言っても、まだ信じられないだろうが……みんな、もう少し慎重にいきたいとは考え始めているかもしれない。


「……一旦引き返しますか?」


 そう思った俺は、試しにゼインにそう聞いてみた。



 今まで俺は、今回の討伐に関して、「『国士無双』で殲滅できるならして、できなければ『虚空の電光石火』で一人逃げ出せばいい」と思っていた。

 討伐隊の参加は既定事項だったし、もし自分がメイカさんに誘われた時点で断っていれば、単純に俺がいない分討伐隊の生還率が下がるだけだったしな。

 どうせ無謀な挑戦が行われるのであれば、討伐隊の生存ルートを確保する努力をするだけしてみて、あわよくば「永久不滅の高収入」の勢力を削げればと思っていたのだ。


 だが今となっては、「永久不滅の高収入」はただの違法奴隷商ではない、もっと危険何かだという認識を全員で共有できている。

 つまり今は……安全を優先し、殲滅作戦を中断しようという判断が下されてもおかしくない状況だ。


 そして俺は……確かにこの拠点の制圧に挑戦してみたい気持ちはあるものの、犠牲を一切出さない選択肢が生まれたのであれば、そちらを取りたいという思いの方が強い。

 故に俺は、そんな質問をしてみたのだ。


 今更「永久不滅の高収入」の危険度に気づいても、もう手遅れに見えるかもしれないが……実際、安全に撤退する方法は存在する。

 15000ポイント消費して手に入る「範囲気配遮断」と、25000ポイントの「幻影気配」を取得し、それらを発動しながら逃げればいいのだ。


 建物内部の構成員は、俺たちが襲ってくるのを返り討ちにしてやろうと思い、出てこずに中で待機しているが……もし俺たちが普通に撤退しようとすれば、確実に追手を放ってくるだろう。

 だがこの二つのスキルがあれば、探知魔法の反応上は、あたかも俺たちが建物を襲撃しようとしているかのように見せかけることができる。


 その間に逃げてしまえば、追手が放たれることもないというわけだ。


 討伐隊の指揮を執るゼインが撤退を判断すれば、俺は迷いなくこの二つのスキルを入手するつもりだ。

 だが……彼の返事は、こうだった。


「……なぜだ? いくら何でも、アレより強い用心棒が出てくる可能性は考慮に値するほど高くないはすだ。せっかく番犬も突破したしな。ここまできて引き返すなど、とんでもない」


 ……そういう認識になるんだな。

 依然、説得は無理そうということか。


 俺たちは……建物の、正式構成員が集まる区画に突入することとなった。

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