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第二十八話 例の件のその後

 全員が宝物庫から戻ってくると……最後は「メタルスレイヤー」の二人が、自分たちのパーティーの戦利品の売却を済ませた。


 全ての用事が済んだので、俺たちは買取所を後にしようとする。

 だが、その時……。


「……あ、ジェイドさん、後でギルド本館の方に寄ってくださいね。メイカの方から、ジェイドさんに話があるってことなので」


 シルビアさんは、俺にそう頼んできた。


「話……ですか?」


「ええ。詳しいことは彼女から聞いてください」


 なぜシルビアさん本人からではなく、別の受付嬢から話があるのかは不明だが、「詳しいことは彼女から」と言われればまあそうするしかない。


「……了解です」


 俺はそう言って、買取所を後にした。



 これ以降は、別に特段「メタルスレイヤー」の二人と一緒に行動する理由もないので……二人とはここで別れ、俺は一人で本館に向かった。


 本館の建物に入ると、早めに冒険を切り上げたこともあってか、中は閑散としていた。

 そんな中……受付では、一度だけ見覚えのあるような受付嬢が一人、暇そうに待機していた。


 そういえば……メイカさんって、この人じゃないか?

 確かこの人には、ジーナを攫っていた盗賊を持ち込んだ際、一度応対してもらったことがある。


 もしかしたら話ってのも、その関連かもしれないな。

 などと思いつつ、俺は受付の目の前まで歩いていった。


 すると彼女は、それまでの暇そうな表情はどこへやら、俺に気付くなり姿勢を正した。


「あ、ジェイドさん。お待ちしておりました」


 この様子だと……やはり、この人がメイカさんで間違いないな。

 などと思っていると、彼女は一枚の報告書を取り出しつつ、こう話しだした。


「今日お伝えしたいのは……一週間ちょっと前、ジェイドさんが討伐してくれた盗賊の残党についてです。あの後、とある冒険者に残党の追跡を依頼したのですが……尾行の結果、その残党がとある犯罪組織の拠点と思われるところに帰っていったのを確認できました」


「……なるほど」


 やはり、話とは例の盗賊関連だったか。

 そういえば……盗賊退治の報酬、「額は正体次第で変わる」ってことで、まだもらっていなかったな。


「……正体が分かったってことですか?」


 おそらく、今回呼ばれたのは、正体が分かって報酬額が確定したからだろう。

 そう思った俺は、そんな風に聞き返してみた。


 すると、メイカさんは一呼吸置いてから、こう答える。


「はい。正体ですが……おそらく、『永久不滅の高収入』かと」



 それを聞いて……俺は耳を疑った。


「え……永久不滅の、高収入?」


「はい。お金に困っている者を高給を口実に騙しては隣国に売り飛ばす、違法な奴隷商です。確か……あの時連れていた女の子がその被害者なんですよね。似たようなこと、言ってませんでした?」


 聞き返すと、メイカさんはそう説明した。

 だが……彼女の説明は、半分正解だが半分間違っている。


 確かに「永久不滅の高収入」は、お金に困っている人を言葉巧みに騙しもするし、そうやって騙して攫った人間を奴隷として売り飛ばしたりもする。

 ジーナも「良い儲け話がある」と言われて連れ去られたことからも分かるように、あの組織がそういう活動をしているのは間違いない。


 しかし……奴らの本質は、世界の破滅を目論む凶悪なカルト集団だ。

 違法なのにこういう言い方をするのもアレだが、違法奴隷商というのは、あくまで奴らの表向きの姿でしかないのだ。


 奴隷として売り飛ばすといっても……それは捕まえた者のうち、容姿が整った若い女に限った話。

 男や高齢の女など、奴隷としての商品価値の低い者は、人体実験や禁断の儀式の生贄として使われているのだ。


 奴隷商として得た潤沢な資金で、禁断の儀式で強化された改造人間を量産して戦力を集め、世界征服を試みる。

 それが奴らの真の生態だ。


 少なくともNSOでは、そういう設定の犯罪組織だった。

 まさかジーナを攫おうとしていた奴らが、この世界で最も凶悪な組織だったとは。


「ええ、確かにそんなような話は聞きました」


 盗賊のレベルが、まともに+値が育っていない状態で倒せる程度だったので、まさかと思いもしなかったが……あれは多分、正式な構成員ではなく、単なる雇われの盗賊だったからだろう。

 美味い話で騙すなど人攫いの常套手段なので、そこから連想しはしなかったが……「永久不滅の高収入」が絡んでいる可能性は、考慮しておくべきだったか。


 などと思いつつ、俺はそう答えた。


 そんな中……メイカさんは、こんな提案を出した。


「というわけで……報酬なんですけど、盗賊の討伐報酬だけでなく、情報料も上乗せしようと考えております。ですが……それとは別に、一件ご提案がありまして。もしジェイドさんにその気があるなら、『永久不滅の高収入』殲滅のための討伐部隊に参加していただきたいのですがいかがでしょうか?」


 どうやらメイカさん……というかこのギルドは、「永久不滅の高収入」の拠点を攻撃する方針のようなのだ。


「当然、ご参加頂けるなら、その分報酬も上乗せさせていただきます」


 彼女は更に、そう付け加える。



 ハッキリ言って……ただの違法奴隷商だと想定して「永久不滅の高収入」を潰しに行くのは、無謀でしかない。

 戦力をオーバー気味に集めていて、かつ当該拠点にいる構成員のレベルが低ければ、勝てなくもないかもしれないが……相手次第では、たった一人の構成員に全滅させられてもおかしくはないだろう。

 正直、討伐自体を中止にした方が良いと言ってもいいくらいだ。


 だが……討伐中止を説得するのは、まず無理だろうな。

「ゲームではこうだった」なんて言っても、何言ってんだとしか思われないだろうし。


 というわけで、俺はこう返事することにした。


「じゃあ、参加します」


 俺が討伐隊に参加することにしたのは、次の二つの理由からだ。


 まず一つ目は……いくら「永久不滅の高収入」が相手とはいえど、拠点のレベル次第では今の俺にも殲滅可能かもしれないこと。

 禁断の儀式で強化されているとはいえ……基礎身体能力がある程度育っていて、かつ「国士無双」が使えるノービスより強力な構成員は、全体の二割くらいしかいないのだ。


 もし、残りの八割レベルの構成員しかいない拠点が相手なら……今の俺にも、十分勝ち目があるということだ。


 そして、仮にその二割の構成員がいたとしても……ノービスの場合、とあるスキルを事前に取得する、あるいは取得できるスキルポイントを持った状態で戦いに挑めば、尾行もされずに確実に撤退することも可能だ。


 つまり俺には、実質ノーリスクで、「永久不滅の高収入」の拠点を潰せるチャンスがあるのである。


 この組織、放っておくと次々にロクでもないことをやらかすので……少しでも戦力を削げる機会があるのであれば、それは逃さない方が良い。

 それが、俺が今回の討伐に参加しようと思った一つ目の理由だ。


 ちなみに二つ目は……雇い主として、福利厚生はしっかりするべきだと思ったからだ。

 ジーナは大切な従業員だからな。

 彼女が不安になりかねない要素は、潰せる範囲で可能な限り潰した方がいいだろう。

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