第百一話 思わぬものがプレゼントに
数分後、《イマジナリーウェットストーン》による刃の部分の研磨が完了した。
他にやることといえば柄を取り付けるくらいだが、それは強化結晶をはめ込んだ後の工程なので、今できる作業は何も残っていないな。
まだジーナは強化結晶の作業中のようだ。
というわけで……。
「《イマジナリーウェットストーン》解除。《イマジナリーレシプロソー》具現化」
俺は再びノコギリを具現化し、次の剣を作ることにした。
どうせ暇なので、もう3本作って幻諜用に贈呈しようと思ったからだ。
「永久不滅の高収入」の基地の件では、お世話になったからな。
国のトップクラスの特殊部隊なので、それなりに良い武器を支給されてはいるはずだが、流石に7桁級魔物の素材で作られたものほどじゃないだろうし。
提供すれば、多分役には立つだろう。
戦闘スタイルが合わない可能性も考えられなくはないが……それでも、全く使えないということはないはず。
なぜならこの素材で作る剣は、《三日月刃》にのみ威力増強効果が乗るわけではないからだ。
《三日月刃》にこそ最大の強化倍率が乗るし、だからこそ俺はこの素材にこだわったわけだが、それ以外のいくつかのスキルにもそこそこの倍率で威力増強効果が乗るのだ。
そしてその倍率ですらも、「ゲリラステージ」で手に入る素材以外を用いた武器に比べれば、結構高かったりする。
ゆえに、たとえこの剣の性能を最大限引き出せる戦闘スタイルではないにしても、そこそこ使えるはずなのだ。
などと考えつつ、剣の形に切り出す作業を続けていく。
それが終わった頃……ジーナが外に出てきた。
お、できたか。
と思ったが……なぜか彼女の表情は、心なしか若干暗い。
「ジーナさん、どうしましたか?」
「すみません、ジェイドさん……。先程頂いた球体に模様を彫ろうとしたのですが、全然刃が通らなくて……」
「あっ……」
困り顔で状況を説明するジーナを見て、俺は大事なことに気がついた。
そうか。ホルスの目玉、普通にかなり硬いもんな……。
流石にマーシャルヨトゥンのカランビットナイフほどのべらぼうな硬度ではないが、一般的な合金製の彫刻道具では線一つ入れることができないだろう。
それで悪戦苦闘していたんだとしたら、めちゃくちゃ申し訳ないな。
先に気づくべきだった。
とはいえ、原因が分かれば対処は簡単だ。
「こちらこそすみません……。それ用の道具作るんで、ちょっと待っててください」
せっかく《鍛冶》スキルを+255にまで上げたんだしな。
硬度が足りる彫刻道具を作って、渡すとしよう。
素材は何にしようか。
「《ストレージ》」
少し考えた末、俺が使うことにしたのはホルスの嘴。
同じ生物の目玉と嘴なら、確実に嘴の方が硬いに決まってるからだ。
「《イマジナリーレシプロソー》具現化…………解除…………《イマジナリーウェットストーン》具現化…………解除…………」
様々な想像工具を用い、彫刻道具を形作っていく。
「できました」
俺はそう言って、完成品をジーナに手渡した。
「わあ、ありがとうございます! 一目見ただけでとんでもないハイグレードな逸品なのが分かります! こんな素晴らしい道具を作っていただけて嬉しいです……」
本職の人から見ても高評価な出来栄えのようだ。
「何となくこんな感じかな?」みたいなノリで作ったにも拘らずここまで喜んでもらえるとは、+255恐るべしとでも言うべきか。
「じゃ、これでやってみますね!」
そう言って、ジーナは再び作業部屋に向かう。
「《イマジナリーウェットストーン》具現化」
ジーナが帰ってくるまで、幻蝶の分の剣の仕上げを続けることにした。
仕上げがちょうど終わった頃、ジーナが戻ってきた。
「できました! ……これ、めちゃくちゃ凄いです! あんなにびっくりするくらい硬かった謎の球体が、ジェイドさん特製の彫刻刀だと豆腐みたいでしたもん……」
そんなことを言いつつ、ジーナは俺に完成した強化結晶を手渡してくる。
「ありがとうございます! ……《鑑定》」
鑑定してみると、こんな文章が表示された。
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●強化結晶SS
ホルスの眼球を材料に作られた、最高品質の強化結晶。
特性強化率、《国士無双》発動時間延長率は共に1個あたり+50%
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《国士無双》発動時間延長率、1個あたり+50%、か。
ディバインアローの剣につけていた「強化結晶S」は3つで《国士無双》の持続時間が2倍になっていたが、これなら2つで2倍になるな。
まあ、だからどっちを使う、とかいう話じゃなくて、全部乗せするのが一番良いって話なのだが。
新しい剣に強化結晶をはめるスロットを5つ作れば、ディバインアローの剣にはまってる分も合わせて全部つけられるのだから。
そうすれば、トータルで延長率は+200%、効果時間は3倍だ。
というわけで、早速ディバインアローの剣から強化結晶を取り外そう。
俺は剣の柄の部分を分解し、強化結晶Sを3つとも外した。
そして、マーシャルヨトゥンのカランビットナイフから切り出した剣の柄に挿す部分に穴を5つ開け、強化結晶を全てはめる。
《ストレージ》にある素材でいい感じに柄を作ってはめると、新武器の完成だ。
「それが新しい武器なんですね!」
新武器――名前が無いのもややこしいので今後は
「そうです。今後はこれを使っていきます」
「……こっちの3つは?」
「幻諜用にでもと思って作りました。お世話になりましたし、量産するのにそんなに時間がかかるものでもないので」
「分かりました! じゃあ、ナーシャさんを呼んできますね!」
作りかけの3本の剣について聞かれ、答えると、ジーナは走ってナーシャを呼びに行こうとした。
が……数歩走ったところで、なぜかジーナは足を止め、こちらを振り向く。
「改めて、この彫刻刀、作ってくださりありがとうございました! ものすごい性能なので、これまでじゃ扱えなかった素材で作品を作ったりもできそうですし、今後これを使っていくのが楽しみです!」
……ジーナにとっては、ホルスの嘴で作った彫刻刀が何より嬉しいようだ。
業務のために即席で支給したものが、まさかここまで喜んでもらえることになろうとはな……。