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第71話:へたれアスタス

「おはようございます」


 だいたいジジイと同じくらいの時間帯に起きたらすでにアスタスとオラフとノインが作戦会議をしていた。なんか3人とも怒ってない? 


「で、これからどうするんですか!?」


 アスタス君、俺はそんなことよりも朝飯が食べたいからジジイの世話係でもあるメイドゴーレムさんを呼んできてほしいんだけど。なんでそんなに慌てているんだろうか。


「とりあえずは飯じゃ」


 ジジイがメイドゴーレムに命令して朝ごはんとなった。アスタスたちは先に食べたらしい。エドガーのおっさんは二度寝しているという。飯食っている間にのそのそと起きてきたが、本気で疲れたみたいだな。


「マイリを拘束することができるものがないんです」

「そりゃそうじゃろう……、ワシの隕石メテオを素手で叩き割りおったからのう」


 あれだけ規格外の怪力になるとどうしようもない。そんな中で背中の入れ墨を書き換えると、無理くね?


「睡眠薬だとか、魔法とかも効きにくくなっているはずなんです」


 ベグの製作者であるアスタスが言う。本当になんてものを作ってしまったんだ、君は。


「さすがにマイリ=ベグでもここまでは来れないよ。ゆっくり考えるんだな」

「そう言えば、ここはどこなんだ?」

「秘密」


 さすがに王国の人間ではないと言ってもオラフは族長で王国の人間と接触する可能性も否定できない。今はまだアスタスにもノインにもおっさんにもゴダドールのゴの字も伝えてないから確証に変わるということもないだろう。世間的にはゴダドール死んでいるもんな。しかし、危ない橋を渡っているつもりでいる。できれば早期解決が望ましい。


「アスタス、前も話し合ったが今後の方針を確認しよう」

「はい、分かりました」

「アスタスたちはマイリ=ベグを殺したいとは思っていないんだよな。それでもノインとは離れたくないから王国には行きたくない。これでいいか?」

「そうですね、ノインの安寧の地がないのであれば誰が犠牲になってもいいと思っていますが」


 そう言ったアスタスはノインに思いっきり蹴りを入れられた。


「アスタス! 私はそんな事考えてないよ!」


 最も賢い人の称号を持つ人はこの前から完全に混乱して暴走中である。順序を間違えている。


「そうよ、その前にノインに告白する所からじゃない。さあっ!」

「さあっ! じゃないですよ、ティナさん!」


 とっさに邪魔しようとするエドガーのおっさんを羽交い絞めにして俺もティナに加勢する。さあっ!


「そ、そんな……なんて言えば……」


 アスタスはちらっとオラフの方を見て助けを求めたようだ。苦笑いで返すしかないオラフ。こんな時くらいは一人でやれや、アスタス。


「えっと、……あの……君の……」


 あぁー、ダメだな。これはなんかダメな気がする。


「意外とウブじゃのう」


 ジジイ、お前が言うな。


 そしてアスタスは意を決したのか、ノインを見てこう言った。



「できれば、……君の背中にベグを彫らせてく……」


 ノインを含めた数人からの攻撃でアスタスが最後まで言えなかったのは言うまでもなく、その後ティナが20ゼニー儲けたのももっと言うまでもないだろう。とりあえず話し合いはそこまで、というか全く進まなかった。




 ***




 まず、考えを改めよう。僕は魔法使いとしても戦士としてもそれなりに優れている方だと思っていたけれど、この人たちは異常だ。今更とか言うな、オラフ。


 ベグを彫ったマイリと当たり前のように戦うことができたヒビキさんは、よく考えるとおかしい。あの怪力と速度のマイリがいくら素人だと言っても普通は戦いにすらならないはずだ。それとやり合ったというから身のこなしはすごいのだろう。魔法使いなのに。

 魔法使いじゃないのか? でも魔法使っていた。オリジナルの物理フィジカルって魔法は僕には難しくて無理だ。


 ティナさんもおかしい。

 いくらヤイマ族の牢が木製とはいえ、素手で壊せるわけもなければ、そのままオラフを掴んで転倒させてみぞおちに一撃入れることのできる女性ってのはいないと思う。なにやらオラフが新しい世界の扉を開けかけているようで、さっきからティナさんの話題ばかりを振ってくる。彼女のはもう南に帰る人間だし、オラフはヤイマ族の族長だから諦めろよ。なに? 人の事言えない? うるさいな。


 そしてライオスさんだ。この人はおかしすぎる。

 見た目は戦士だ。すこし芯が細いかもしれない。それでもそれなりな動きをしている。だけど、この人は魔法剣士だった。その魔法は、もはや南の王国に伝わる伝説の大魔法使いゴダドール=ニックハルトに匹敵すると言ってもいい。創造クリエイティブの魔法は魔力と相関するはずで、僕だったらせいぜいが家一軒建てたらその日は魔力切れである。それでも魔法使いとしてはそれなりな魔力量だ。一般的には小さな小屋が建てられれば一人前である。

 それが、なんというか塔を建ててしまった。さらには召喚サモンでゴーレムとかを呼び出している。あり得ないほどの魔力量だ。

 さらには今現在はそのライオスさんの転移テレポートの魔法でどこか分からない場所に来ている。これだけの人間を転移テレポートさせることができるというのは凄い事なのだが、ノインとエドガーさん、それにオラフは分かっていない。おそらくヒビキさんとティナさんは分かってるがもう慣れてしまったのだろう。恐ろしい。


 この3人にはどうあがいても太刀打ちできないというのは認識した。できることならばこの3人の助力を有効に使ってマイリをどうにか無力させたいのだ。だが、なかなか妙案が思いつかない。


「おいラタシュ、お前なんか変わったな」

「ん?」

「ヤイマ族のところにいた時はもっとこう、冷静だったというかなんと言うか。こんなにブツブツ何かを言うような奴でもなかったし、もっと余裕があった」


 いつのまにか声が外にでていたらしい。

 余裕のなさを指摘されたが、確かに僕はいま焦っている。やることなす事全てが僕の予想の範疇を軽く超えていくのだ。ヤイマ族には僕よりも魔法が使える人間はいなかったし、前族長のおかげで僕はそれなりに上位の地位を得ることができていた。逆らう人間なんて誰もいなかった。それこそ前族長とここにいるオラフだけが僕に意見できたはずなのに、その二人は僕のやりたいようにやらせてくれたのだ。


 それが最近は調子が狂う。調子が狂うというよりも僕の力の及ばない所で事態が変わっているという事なのだろう。


「ふっふっふっふ」

「おいっ、どうした? なんか変なもんでも食ったか?」


 オラフ、君は族長なんだからもっと落ち着けよ。


 色々と考えたら落ち着いてきた。こんな感じに余裕なく生きるというのは母親とともに暮らしていた頃以来だ。あの頃は父親だった人の咎で母親は他の集落では暮らせなかったが、その分自分の教育に十分な時間を割いてくれた。日々の食料さえなんとかなれば十分に暮らしてくことはできたが、母は僕に他の集落で生きていく重要性を教えてくれた。

 母が死んでからすぐに僕はヤイマ族の集落に迎え入れられた。前族長は父親の罪は子供には関係ないとまで言ってくれた。力があった僕はすぐにヤイマ族随一の魔法使いにまで上り詰めた。


「僕はラタシュだ」


 こんな状況はなんて事はない。マイリもライオスさんも関係ない。いつだって自分の力の源は考えることだったじゃないか。


「オラフ、力を貸してくれ」

「なんだよ、ようやく元にもどったか。俺もマイリをどうにかできるならばしてもらいたいからな」


 今は一人じゃない。オラフだって、ノインだっている。

 頼もしい。エドガーさんだって一応いる。


 これからの事を考えよう。あの3人が自分よりも随分と上の存在だったとしてもかまわない。利用できるものはして、恩は後から返せばいいと思う。まずはノインの安全、そしてこれからの対策だ。


 だけど、やっぱりこの3人には逆らわないようにしようと思う。僕はラタシュの称号をもらったけど、この人たちの考えてることには追いつける気がしない。ヒビキさんに声をかけられたのはそのすぐあとだった。



「おい、アスタス。作戦が決まりそうだ。意見を言え」


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