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第67話:ジジイの誤算

「ふははははは、これだけ重装備であれば奴の剛力でもそうそう壊れることはないわぁ! ふはははは!」


 ジジイが笑いまくっている。もはや全盛期の世界の破滅の原因だった頃と遜色ないのではないだろうかってくらいにドス黒いオーラが出ているかもしれない。いや、あの時は引きこもりのいじけジジイだったからな……。

 ジジイの召喚したのはアイアンゴーレム、それもかなり硬いやつらしい。そしてそれにオリハルコン製の装備をつけている。おい、そのオリハルコンはどこから出してどこでゴーレム用の鎧に仕立て上げたんだ?


「こいつって、巨人族より強い?」

「ふむ、装備品が良いからのう。おそらくは巨人族の中でも神話級は分からんがかなり良いところまでゆくぞい」


 神話級ってなんだよ。巨人族って、一種類じゃなかったのか。

 しかし、巨人族よりも強いのならば俺が戦ってもかなり苦戦するな。


「こやつが第1階の守護者じゃ! よし! 第2階へゆくぞい!」


 ジジイが楽しそうである。明日にでもまたマイリ=ベグが攻めてきたら強化した外壁は岩をぶつけても壊れない設計にしてあるとか何とか言っており、強制的に拉致ったエドガーのおっさんを最上階に監禁してマイリ=ベグが到達するのを見物するのだとか。


「単なる怪力だけでは突破できぬようにヒュージスライムとかどうかのう。特別にわしの魔力を込めた魔石を食わせてやってだな……」


 嬉々として立派にダンジョンマスターをやっている……。

 あ、意外にもでかいスライムなんだな。魔石を放り込んだ。あ、色が変わったな…………。うん、厄介なモンスターになったのは分かった。


「物理的な攻撃はほぼ効かんのじゃ、魔法ならばなんとかなるかものう」


 怪力が売りのマイリ=ベグに対して、それを防ぎにいく方針か。性格悪すぎだろう。笑い過ぎでジジイの顔が怖い。


「次は第3階じゃ!」


 もう、付き合いきれん。


 生活している洞窟へともどると、ノインとアスタスがいた。ちなみにおっさんは最上階に監禁されている。


「もう、何がなんやら……凄すぎてどう表現すればいいか分からないよ」


 ノインは苦笑いをしていた。少し前まではシアタ村で薬師としての平穏な生活をしていたはずなのだ。


「ノイン、すまない。僕のせいで……」

「いや、半分はジジイのせいだからな」


 そんな事を言いながらも、ノインは強かにこの周辺で摂れた薬草を用いて薬をつくっている。アスタスはその手伝いだった。ちなみに塀の外は危ないというためにナイトゴーレムが見張りのついでに採取してくるというらしい。ジジイ、何やってんだ。


「そうだ、アスタス」

「なんでしょうか」

「今後の話をしよう」




 ***




「さあ、来たわよ!」


 長くて黒い三つ編みのマイリ=ベグは愛用の槍を一本担いでエドガーの塔の前にやってきた。それも一人でだ。ヤイマ族らしく、少しだけ肌の露出のある民族衣装に身を包んでいる。足は裸足だ。


「エラッサイマセー、エドガー薬品店ヘヨウ……ガフッ」


 応対に出たナイトゴーレムが一撃でやられてしまった。正面から突破する気のようだ。


「ゴーレムでは相手にならんのう……ふっふっふ」


 ジジイが悪い顔をしてパチンと指を鳴らすと、ナイトゴーレムたちが道を開けた。そのまま第1階へと招待するつもりらしい。


「ふぁっふぁっふぁ、よくぞこの「エドガーの塔」へやってきたな、マイリ=ベグよ!」


 最上階から黒い外套に身を包んで誰だか分からないようにしたジジイが姿を現した。あれ? その外套っておっさんのじゃね?


「ここがヤイマ族の地と知ってこのような物を建ててんの!?」

「ふぁっふぁっふぁ、我は誰の指図も受けぬ! 我にものを申したければこの「エドガーの塔」の最上階へと来るがよい」

「あっ、ちょっと待ちなさいよ!」


 最上階からジジイが引っ込む。おっさんがギャーギャー何か言ってるけどとりあえずは無視しておこう。


「これじゃどっちが悪者なんだか」

「ふっふっふ、治安と秩序を乱すという意味ではワシらが悪者だわのう、ふっふっふ」


 まあ、そうかもしれん。だが、エドガーのおっさんはまだしもこのままアスタスとノインを残して王国へと帰るってのはなしだとは思う。


 マイリ=ベグが塔へと入っていった。すぐに第1階のアイアンゴーレムと戦うことになるだろう。


「よし、第1階へと降りるぞい。壁の秘密通路から戦闘を見学じゃ」

「はいよ」

「こらぁ! 俺をこんな所で一人にする気か!?」


 おっさんが騒ぐ。


「仕方ないよう、ほれついて来い」


 ジジイが先ほど来ていた外套を投げた。


「ちょ、もしかして、このままだとさっきのが俺だと思われちゃうじゃんか!?」

「ふむ、ようやく気付いたかの」


 さっきからやたら「エドガーの塔」を強調していたからな。マイリ=ベグはすでにここの塔を作ったのが「エドガー」ってやつだと思っているに違いない。憐れな。

 おっさんの抗議を無視しながら階下へと降りる。最上階からしか降りることのできない秘密の通路は各階の中央の柱の中心をとおっており、それぞれの階の戦闘の様子を観察できるように作られていた。


「さあ、まずはアイアンゴーレ……」

「うおぉぉぉぉ! はじけ飛べぇ!!」


 第1階へと到着すると、ちょうど戦闘が始まるところだった。そして、爆音とともにすぐに終わった。マイリ=ベグって、女っぽくない言葉使ってない? うおぉぉぉ、とか言ってるぞ?


「おい、なんかアイアンゴーレムが柔らかくないか?」

「一応、最高硬度に装備品までつけておる」


 飛散したアイアンゴーレムだったものが第1階の広場全体に飛び散っている。マイリ=ベグの一撃で粉砕されたのだ。


「どうすんだよ?」

「ええい、大丈夫じゃ! 第2階は物理攻撃があまり効かないからのう!」


 もはや、あまり・・・と言った時点でフラグでしかない。


「飛び散れぇぇぇ!!」


 マイリ=ベグはあまり効果のないはずの物理攻撃でスライムを撃破する。そしてマイリ=ベグの口が悪い。


「おい!」

「大丈夫じゃ! 第3階は回避能力に優れておる大蜘蛛じゃからして、そもそもやつの糸は炎で焼かないかぎり……」

「燃え尽きろぉぉぉぉ! 火炎爆発ファイアエクスプロージョン!!」

「魔法……使ってるじゃないか」

「何じゃとぉぉぉ!?」


 こうしてマイリ=ベグは順調に最上階まで上がるのだった。



「エドガー! 観念しなさい!」

「うひゃぁぁぁぁぁぁああああ! どうすんだよ! おい! 来ちまったぞ! おい!」


 おっさんが恐慌状態に陥っている。ちなみにティナとアスタスとノインは洞窟内である。


「ぐぬぬぬぬぬ……」


 ジジイ、使い魔が全部突破されたことでかなり頭に血が上っていやがるな。冷静に自分で戦えばマイリ=ベグよりも強いかもしれないけど、このジジイは感情に振り回されやすいところがあるし。


「仕方ない」


 アモンの剣を抜く。怪力ではどうしたって勝てそうもないけど、戦い方を見ていれば分かる。


「なんじゃ、お前さんが戦うのか?」

「ああ、ちょっとだけな」


 マイリ=ベグは自分の槍を斜めにし、体重をかけた状態で聞いてきた。


「あんたがエドガー?」

「いや、エドガーはそっち」

「ぎゃあぁぁぁ!! 違う! 違わないけど違う!」


 おっさんを指差すと、おっさんが何故か叫び出した。なんだよ、間違った事は言ってねえぞ。


「ふーん、それでどうすんの?」


 ふっと体重をかけていた槍から離れ、その勢いでくるんと槍をまわす。この塔は内部がかなりデカいから問題ないけど、普通は屋内の戦いに槍なんか持ってこないよな。邪魔になるはずだし。やっぱりそうか。



「まずは俺と遊んでくれよ。このジジイはその後だ」


 俺の仮説としては、こいつ……マイリ=ベグはもともとは戦士じゃなくて魔法使いだったんじゃないだろうか。アスタスに聞いておけば良かったな。


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