第66話:ジジイ無双(発生段階)
「エラッサイマセー」
「なんだ、ここは……」
「コチラ、エドガーノ薬品店ニナリマス。オ買イ物ノ方ハ現在在庫不良ノタメニ受注生産トナリマスー」
「ゴ、ゴーレムだと!?」
「チナミニ、アスタス様ハ面会謝絶中デゴザイマスノデ、御用ノ方ハ伝言ノミ承ッテオリマス」
「アスタスがここにいるだとっ!?」
ジジイの作ったゴーレムたちがお客様を案内している。もちろん本当に薬を買いに来たわけではなく、ここにアスタスがいるのではないかという理由で調べに来たらしいのだが、完全に返り討ちに合っていた。大量のヤイマ族がナイトゴーレムに撃退されて逃げていくのをジジイと二人で塔の最上階から眺めている。ティナは最上階まで上がるのを拒否した。
「ジジイ、わざと数人逃がしただろう?」
「おっ? 分かったかのう?」
「てめえ、わざわざここにマイリ=ベグをおびき寄せるつもりかっ!?」
「それなんじゃがのう、もしかしてじゃな、奴らはマイリとやらがアスタスが生きていると認識したがベグの効果がなくなると考えとると、ここには来んのじゃなかろうか?」
「…………いや、なんでそんな不満そうに言うんだ」
「そういうお前さんじゃって、ちびっとは戦ってみたいじゃろ?」
「うぐっ」
「それ、図星じゃ」
たしかにそのマイリ=ベグとやらがどのくらい強いかというのには非常に興味がある。一応これでも突破不可能と言われたゴダドールの地下迷宮を突破した冒険者である。更にはこの前辺境の迷宮も突破したしな。一応は一流の戦士のつもりでいる。最近は魔法の方も少しずつできるようになってきてるし、星の核のおかげでもあるんだけど冒険者の条件として良い装備ってのは絶対あるからこれも装備と思えば……。いやいや、待て待てほとんど関係のない俺たちが首を突っ込むってのもどうかとは思うし。
「なんじゃさっきからコロコロと表情が変わって面白いのう」
「うるせえ、それでこれからどうすんだ?」
「ふむ、実はこの塔を作って思ったことがあるんじゃ……」
「な、なんだよ」
こんなデカい塔を1週間程度で作り上げて、更にはゴーレムたちも完全配備して、塔の要所要所には守護者としての魔物まで召喚しやがった。結局、エドガーのおっさんの部屋は最上階に作られたのだが、最上階までエレベーターがあるわけでもなく、えっちらおっちら階段を上がっていたのは数日間だけ。ノインとアスタスは相変わらず洞窟に住んでいるからそっちへ戻っていくという状態となっている。塔の意味ねえじゃんかよ。
「ワシ、やっぱり天才じゃなかろうかと思うんじゃ……」
俺もエドガーのおっさんの部屋がどれだけ高いのかを調べようと思って、今は塔の最上階の更に上の屋上まで来ているのだが、結構な高さがあった。鍛えていないエドガーのおっさんがここまで来るのは本当に辛いだろう。屋上は風が強い。
「…………」
「えっと、何か言わんかい」
「ところで防御力激上がりの楔帷子って作れんの?」
「こら、話を聞けい」
「誰がてめえの自慢話を聞くかっ!? 壁にでも向かって話しかけてろ!」
「貴様っ! ここから落としてやろうかっ!?」
「残念! このまえ浮遊の魔法覚えたからな!」
「ぐぬぬぬぬ……」
なんか自分で言うのもなんだが、今日も結局は平常運転である。このままマイリが出てくるまで待つだけだ。
その時である。
「むっ、何じゃ? 真空波!」
ジジイが上空に向かって風の魔法を撃つ。同時に見えたのは巨大な石の塊だった。人間と同程度くらいの大きさはある。それが何個も降ってくる。
「何だ!?」
「隕石の魔法じゃなさそうじゃの。魔力を感じんわい」
その巨岩はまっすぐにエドガーの塔に向かって飛んでいた。いや、飛ばされてきた。
「ヒビキ! これはついに来たようじゃ!」
次々に巨岩を迎撃しながらジジイが言う。
「何がだ!?」
「おそらくじゃが、あの向こうからこの岩を投げてくる奴がおる!」
「はぁぁぁ!?」
それは数百メートル以上は先である。塔の最上階にいるからなんとか見える距離から、確かに次々と岩が飛んできていた。
「むう、確かに誰かがいそうな感じではあるが……」
数人? 人影のようなものが見える。よく分からんが。
「マイリ=ベグじゃろうて、ふっふっふ」
物理的な遠距離攻撃に対して全て魔法で応えるジジイも規格外であるが、あの巨岩をここまで飛ばせるマイリ=ベグも規格外である。
「さすがに俺にはできそうにもないな」
単純な力比べでは相手になりそうもないなと思う。というより、怪物すぎるだろう。ここはジジイに全部押し付けることにしよう。一般人は相手してはいけない。うん。
「ふっふっふ、楽しいのう。ほれ、お返しじゃ、隕石!」
ジジイが天空から巨岩を召喚してそれをマイリ=ベグがいそうな場所へと降らす。
塔は無事であるが弾かれた岩が周辺にクレーターを作っている。多分、マイリ=ベグたちがいる所はあれよりも大きなクレーターができるに違いない。
だが隕石は地上に落ちるとともに二つに割れた。
「殴って割りおった!」
ジジイは魔法で遠目を使っているのだろうか。マイリ=ベグが隕石を割ったとかなんとか。
「避けるぞい!」
そしていきなり屋上に床に身を伏せた。既に座っていた俺は問題なかったのだが、さっきまでジジイがいたところは何故が飛んできた槍が通過する。
「はぁ!?」
いやいや、ここから何百メートル? というか、ジジイが見えていたってことか? そこに正確に槍を投げてきたってことかよ!
「おのれ! 氷槍!」
ジジイも負けじと応戦した。巨大な氷の槍が何十本と飛んでいく。というか、俺はここにいると危ねえよな。
あまりの轟音に洞窟からアスタスたちが出てくるのが見えるけど、おそらく彼らもこの戦いに加わるわけにはいかないと思っているに違いない。どうせ顔が引きつっているのだろうよ。
「おっ、さすがにあれは無理かのう」
ジジイの氷槍は効果があったようだった。遠距離の戦い過ぎてよく分からん。
「ふむ、周囲に岩がなくなったようじゃの、撤退していくわい」
「な、なんとかなったか」
これはマイリ=ベグと戦いたいなんて言ってられないな。早いところジジイに決着を付けさせて王国に帰るとするか。
「大丈夫~? 1回20ゼニーよー?」
階下からティナが声をかけてきた。回復魔法はいらん。
「ずっと見張っとるのも面倒じゃのう。 召喚、召喚」
ジジイが見張りの使い魔を召喚して階下へと降りて行った。マイリ=ベグが近づいたらジジイが撃退するしかねえな。特に遠距離の場合は。
これからの対策を立てなければならない。
「ちょっとあれは俺には無理だな」
「だから言ったでしょう。しかし、ヒビキ殿もライオス殿はすごい」
「ふっふっふ、そうであろう。そうであろう。いや、ちょっと待つのじゃ、ヒビキは何もしとらん」
完全に自分がゴダドール=ニックハルトだとばらしそうな勢いである。それは阻止する。
***
「ちょっとなんなのよ、あいつ! ラタシュじゃないじゃない!」
側近たちが隕石やら氷槍やらでほぼ全員やられ、撤退を余儀なくされたマイリ=ベグは負傷したそいつらを肩に抱えて、拠点へと走っていた。
負傷した上に10人近く積み上げられて、一番下のやつなどはさらに潰れそうではある。一番上は上で、乗り心地最悪であるが吐くわけにいかないという地獄絵図となっているがマイリは気にしない。
「はあ、もうラタシュじゃないなら来るんじゃなかったわ」
拠点についた後にべちゃっと投げ出される側近たち。誰も死ななかったのは奇跡かもしれない。一番上だったやつがこらえきれずに吐いていた。ちなみにこの辺りではかなり偉い人ばかりであり、拠点にいた一兵卒がドン引きしている。
「あんたたちは足手まといね、明日は私一人で行くわ。ご飯の準備して!」
ささっとマイリに侍っている少年たちがマイリをテントに誘導する。すでにある程度の食事の準備ができていたようだった。この辺りの大森林では考えられないほど豪華な食事をしながら、マイリは考える。
「いつものように何も考えずに戦っていい相手ではないわね」
初めて自身の力を思いっきりぶつける事ができる相手を見つけた。少年たちは笑いながら肉を噛みちぎるマイリを初めて見た。