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第59話:集落へ到着

前回のあらすじ!


魔剣の火炎爆発ファイアエクスプロージョンに巻き込まれていたのはエドガーという探していた薬師だった! しかし求めていた薬は娘にしか作れないという。ヒビキたちはしかたなくエドガーを連れて集落へ向かうことにしたのだった。

 ヌベ大森林の最南端に一つの集落がある。中心地からはやや遠いところにある集落の人口は少なく、数十人というところだった。


「ノイン、本当に大丈夫か? 君のお父さんが出ていってから結構な時間が経っている。ただでさえ南の町には帰れないからここに住んでいたんだろう?」

「アスタス、あなたが気にする事じゃないよ。どうせそのうちひょっこり帰ってくるって。だいたい、あなたの言う通りで行き場所はないんだよ」

「でも、万が一ベグの兵隊たちに出会ったり魔物と出くわしたら……」

「逃げ足だけは速いのよ、昔から……」

「…………」


 その中でも、一つの家屋があった。ここには数ヵ月前から南の町の薬師の親子が住み着いていた。なんでも借金が返せなくなり、夜逃げしてきたのだとか。もともと取引があったこの集落を頼ったのである。空いている家屋は一つしかなかった。

 だが、その一ヶ月後にある人物が集落に保護された。身分が低い事を示す短髪に、戦闘で負ったと思われる怪我。ちょうどヤイマ族がベグの力を発揮する前の頃である。その争いに巻き込まれ、逃げるように南下した所で力尽き、この集落に保護されたのだった。だが、この男は過去を話そうとしなかった。記憶がなかったのだ。


 集落の人々は判断に困った。匿っても大丈夫かどうかという事である。ヤイマ族が周辺を全て平定するまで、どの勢力につくかというのが集落の命に直結していた。敏感になるのは仕方がない。助けても敵対勢力に睨まれ、助けなければ男の勢力が黙っていない。どの勢力に属するか分からない人間というのは、非常に判断に困った。

 集落の長老が苦肉の策で出した案が、よそ者に保護させるというものだった。これならば、何かあっても言い逃れが可能かもしれない。少なくとも敵対したくないという意思は伝わるはずだった。こうして、記憶のない男は薬師の家に預けられたのである。但し、薬師の子供は娘だった。年頃の。




 ***




「で、なんだってうちに預けるんだって話だ! うちにはノインがいるんだ、何か間違いが起こったりしたらどうしてくれるんだよ? って思うじゃないですか!? ねえ、旦那」

「うるさい、旦那とか言うな」


 さっきからずっとこの調子で集落の人間に押し付けられたアスタスという人物の悪口を言っている。いや、文句は言ってもそのアスタスはかなりできる奴らしく、おっさんの話からでも優秀さが滲みでるような奴だった。ひがみ、だな。


「で、本当にこっちで合ってるんだろうな?」

「ちゃんと確かめたわい」


 おっさんが見てない所でジジイに集落の位置を確認するため、上空へ飛んでもらった。一つだけ集落が見えたというから、多分当たってるんだろう。おっさんが見ているために地上を進む。


「エドガーさん!」


 その時、上から声がした。


「げっ!? アスタス!」


 おっさんがビビる。そう言えばおっさんはエドガーって名前だったな。


 アスタスは樹の上を身軽に移動してきた。片手には短槍を持っている。後頭部から出るやや短めの三つ編みと、他は短く切られた髪は身分が低い事を示しているという事は後から聞いた。


「エドガーさん、心配しましたよ」

「うるさい! お前に心配される筋合いはないわ!」

「そちらは南の冒険者の方々でしょうか? エドガーさんを保護していただきありがとうございました」


 なんてできる奴だ、アスタス。


「なんか、うすうす気づいてたけどおっさんの言うような奴じゃないわね」

「うむ、どうせ娘が相手してくれんのをこやつのせいにしとるんじゃろう」


 おっさんが、ウグッとうめくのを無視してアスタスは地上に降りてきた。


「さあ、ノインも心配しています。帰りましょう」

「うるさい! だいたいノインが俺の事を心配するわけがない! ちゃんと「心配だわ」なんて言ってないだろうが!?」


 一部娘のモノマネと思われる仕草を組み込んで騒ぐおっさん。


「いや、ですがノインは言葉に出さずとも絶対心配してます。ノインもエドガーさんも普段からそんな感じだから言いづらいだけじゃないですか」


 核心を突かれて反論できずにいるおっさんに、若干イラついていると、いい案が浮かんだ。


「あのさ、もうアスタス君に出会った以上、娘さん所に連れてってもらえれば俺たちがおっさんに同行する必要ないな! よし、おっさん! ここでお別れだ! 俺たちはアスタス君に集落まで案内してもらうし、おっさんは集落に帰りたくないって言うし、利害関係は一致したな!」


 おっさんの肩に手をおいて続ける。おっさんの顔が真っ青になっていくのはあえて無視する。


「いや、短い間だったが、仕方ない。目的が違う者たちに別れはつきものだ」

「エドガーさん……そんなに集落に帰りたくなかったんですか?」


 アスタスが便乗する。こいつ、分かってやってるよね? 若干笑ってるよね?


「えっと……あの……その……」


 ダラダラと汗を流しながらおっさんが言葉を探す。肯定した瞬間に満場一致で放置されるものだから必死みたいだ。


「分かりました、ノインには僕から伝えておきます。彼女は悲しむと思いますがエドガーさんの意思も尊重されるべきだし……」

「待て待てぇ! こらアスタス! お前はそんな奴じゃなかったよね!? ね!?」


 ちっ、おっさんを置いていく妙案だと思ったんだが、やっぱりだめか。プライドの欠片もないおっさんがアスタスの足にすがりついてる。このままだと足でも舐めそうな勢いだ。


「僕はエドガーさんには帰ってきて欲しいんです」


 そして最終的にそんなおっさんの手をとるアスタス。こいつ……できる。


「まあ、茶番はどうでもいいから行きましょうよ」

 痺れを切らしたティナが催促するまでおっさんとアスタスの小芝居は続いたのであった。




 ***




「げっ!? クソ親父帰ってきたの!?」


 おっさんが家に帰ってきて最初に聞いた言葉がそれだった。娘ができたとしたら一番言われたくない言葉の一つである。


「ノイン! お前、父親に対してなんてことを言うんだ!?」

「今さら父親面すんな! 穀潰し! 借金王!」


 おっさんを非常に分かりやすく簡潔に説明した言葉で罵る娘。こいつが例の薬を調合できると言われる薬師なのだろう。


「そんなんだから母さんにも逃げられるんだよ」


 床にorzしたおっさんに容赦ない追撃を行う娘。すでに泣いているおっさん。


「それで、そちらはどなたですか?」


 ノインがアスタスに向ける顔は父親に向ける顔とは全く別物である。いい笑顔だ。


「彼らは森でエドガーさんを保護してくれた冒険者さんたちだよ。なんでも君に用事があるそうだ」

「用事? 仕事でしょうか?」


 なにやらノインの目が光ったような気がするが気のせいだろう。


「ああ、あんたがノインだな。この薬はあんたが調合したで間違いないか?」


 俺はヨハンの手紙についてきた薬の空き瓶を取り出した。ラベルには手書きの汚い字で「エドガー薬」と書いてある。


「そ、それは……」


 ノインが驚愕の表情をし、コソコソと逃げようとしたおっさんを捕まえる。


「おい、どういう事だ?」

「えっと、その……」

「ちょっとアスタス、こいつ捕まえといて。裏の薬品箱を確認しなきゃ」


 アスタスに捕まえられたおっさんを尻目に、ノインが家の奥へ行く。なにやら薬品箱とやらを探しているようだ。少し待っていると出てきた。ノインの表情からなんとなくオチが分かる。


「クソ親父。秘薬はどうした?」

「ええっと、借金のカタに………」

「おい、あれがいくらするか分かってるのか?」

「え? 利子分はなんとかチャラにしてもらったけど……」



 そしておっさんの借金が20ゼニー増えたわけであるが、まあ仕方ない。あの薬、めっちゃ高価らしいな。

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