第57話:大魔法使いの発明品
前回のあらすじ!
樹海で迷わないようにつけた印は猿の魔物にぜ~んぶ取られてしまっていた!
「それで? どうすんのよ?」
「さあ、どうすっかな?」
樹海で完全に迷った俺たちは方角すら分からないまま夜営の準備を始めた。お互いに、口から出るのは困ったというセリフであるが全く緊張感がない。
「こんな事ならちゃんとした準備をしてくれば良かったわ」
ティナがぼやきながら薪を組む。炎を唱えて火をつけると乾燥した枝に次々と火が燃え移っていった。天気は良いし、木々が雨露を遮ってくれるから、野宿はそこまで辛くないはずである。テントはいらないだろうと言っても、ティナは納得していなかった。
「まあ、気楽に待とうぜ? 何か狩ってくる」
夜営の準備が終わり、腹も減ってきたためにウサギでも狩ってきたい所だ。さっき見かけたからすぐ捕まえられるだろう。猿の魔物を食う気分ではない。
「ついでに果物が欲しい所ね」
「あったら採取しとく」
夜営地にティナを置いて俺は狩りをすることにした。狩人ではないが、旅をしているとこういう技術が必要になる。更に、最近できるようになった魔法を使った遠距離攻撃も含めて、狩りはより楽なものになっていた。迷宮みたいな凶悪な魔物がいるわけでもない。
30分ほど探索していると、ウサギが2匹いた。氷の魔法で凍らせて、杖の殴打で仕留める。血抜きもすぐに行った。慣れたもので、夜営地に帰ったら皮をむいて焼こうと思う。
その時、背後から声をかけられた。
「ワシの傑作をそのように使いおって……」
「便利だぜ? 打撃も斬撃もいける」
「もともと使っておったアモンも、まさかウサギの狩りに使われるとは思っておらなんだろうに」
「奴が悔しがるってんならリンゴの皮むき専用にしてやってもいいくらいだな。……で、何の用だ? ジジイ」
立っていたのはライオスである。相変わらず薄手の鎧を着けており、ぱっと見には30代くらいの戦士にしか見えない。だが、その正体は世界を滅ぼす手前までいった大魔法使いゴダドール=ニックハルトである。
「次ができたぞい」
ジジイの手にはかなりでかい魔石が握られていた。
***
「ぎゃはは、それでワシが転移してくるじゃろうから完全に諦めて夜営の準備しとったんか? なぁにが、「何の用だ?」じゃ、ぎゃはは」
「ええい、うるさい」
ティナの待つ野営の場所にまで帰った俺たちは、ウサギの肉を焼いて食べ始めた。ここの所、ジジイが数日おきにやってきては色々と「研究」の事について要求してきたり、何かを置いていったりするのである。道に迷った瞬間に、どうせジジイがそろそろ来るから、上空から集落を発見してもらって、さらには転移で連れて行ってもらおうという考えに二人ともなっていたのである。
「仕方がないのう」
夜になってジジイが結界を張る。これで基本的に見張りなどはいらなくなるから楽なものだった。明日の朝に浮遊で上空から集落を確認してもらい、そちらへ向かう計画を立てた時点でやる事はない。いつの間にか仕込んでいた酒を3人で飲んで酔いつぶれるという樹海の中とは思えない生活をしてしまった。
翌日、朝早くに起きた俺たちはジジイの言う方角を目指して歩き出す。
「はやく浮遊が使えるようになれば便利なんだけどなあ」
「そしたら私だけ歩かなきゃならないじゃない。嫌よ」
嫌とか言われてもどうすりゃいいんだよ、と思いながら目の前に出た枝を剥ぎ取り用の短剣で切り落として進む。
「そうだ、ジジイ。あれ試してもいいか?」
短剣を仕舞って仕込み杖を抜いた。
「まさか、試し切りが枝落しなんじゃなかろうな」
「その通り」
仕込み杖の柄の部分にはある程度の魔石をはめ込む場所が作られていた。ジジイが持ってきたのも、この大きさの魔石である。だが、ただの魔石ではなかった。
「それがヒビキが迷宮でやってたかもしれないっていうやつ?」
「そうじゃ、その元はアモンの物じゃった剣に星の核を通して何かしらの魔法を通してたんじゃなかろうかと思っておる」
辺境の迷宮の最深部で俺に斬られた悪魔たちの切断面が明らかにおかしかったらしい。悪魔たちはその後に宿り主の肉体に戻ってしまうために詳しい検証はできなかったそうだが、ジジイは仮説を立てていた。ただ、その後に俺がもう一度試そうとしても同じ事はできていない。星の核は相変わらず右手の甲に埋め込まれたままだというのに。
「込めた魔法は風刃じゃ。もしかしたら斬撃が飛ぶかものう」
魔石をはめ込み、仕込み杖を握る。魔力が通る感覚がし、振りぬくと剣の斬撃以外に風の刃が前方に飛んだ。スパパパと枝が切れていき、通り道が出来上がる。
「耐久力もかねて魔力が尽きるまでは振り続けるんじゃぞ?」
「おい、ジジイ。全力で魔力込めたんじゃなかろうな?」
「そりゃ本気でこめたわい。当たり前じゃ」
「ジジイが本気だしたらいつまでたっても魔力消費しきれんじゃねえか!?」
「知るか!? 力の限り振るんじゃ!」
ギャーギャー文句言いながらも剣を振っていると、だいたい100回くらいで風刃が飛ばなくなった。もはや目の前の道はものすごく開けてしまっている。
「ふむ、魔力の消費効率はやはり悪いのう」
「十分だろうが。どんだけ振らせるんだよ……」
柄にはめ込まれた魔石は輝きを失っている。
「貸してみい」
魔石を渡すとジジイが魔力を込めた。なるほど、使い回しが可能なわけだ。輝きをとりもどした魔石は鈍い光を放っている。
「ねえライオス。他の魔法もできるのかしら? 例えば神聖魔法とか」
「なるほどのう。神聖魔法を入れた魔石をはめ込んだ杖とかがあれば需要がありそうじゃのう」
「ええ、大儲けできるわよ」
あ、ティナはそういう思考回路になるわけだ。しかし、これは便利である。そして魔法の修行があまりいらない。この威力の風刃は俺には放てないからだ。
「魔剣、というやつじゃ」
ジジイの研究はこれだった。道具を媒介にしての魔法の一段階変わった使用方法。他にもいろいろなアイデアを考えついているらしい。大魔法使いと調子に乗っていたわりには悪魔相手に対して役に立てなかったと考える所があったとかなんとか。だが、ジジイいなかったら完全に魔王降臨してたけどな。
「他にどんな魔法を込めたんだ?」
ジジイが持って来てた魔石は2種類あった。もう一種類はなんだろうか。
「ほれ、使ってみい」
放られた魔石は若干赤みを帯びている。仕込み杖にはめ込んでみるとさきほどとかちょっと違った魔力なのが感覚で分かった。
「お、ティナよ。ちょっと離れておれ」
「え? 分かったわ」
ジジイとティナが距離を取る。なんでだ? まあいいか、まずは適当に振ってみて……
剣を振り切ると、その先の地面が一瞬光ったようだった。そして…………
ドガァァァァァァァァァン!! と音がして、意識を失った。
「ありゃ、火炎爆発も近距離で発動するんじゃな。あれでは自爆技じゃ」
「ちょっとライオス! 早く回復魔法使わないとまずいわよ!」
「う、うむそうじゃな。任せた」
「治療! もう! ライオスから20ゼニーもらうからね!」
「すまんすまん、まあ、ヒビキなら大丈夫じゃろう…………あれは、誰じゃ?」
ジジイが俺の他にもう一人を見つけたのは単なる偶然であったらしい。というよりそいつは火炎爆発に巻き込まれていた。
ふぁい! 紬です。
投稿が遅くなり誠に申し訳ござらぬ。まあ、でも仕方ないよね!
タイトル変更などなどを企画中ですが、全く思いつかないのも事実。むしろ誰か考えてくれ。ただし、多分採用はしない。
紬は脳内プロットで物語を書くために(通称:行き当たりばったり)昔考えていた話のオチにならない事もしばしば……いや、毎回。今回も若干の路線変更をしておりますね。ヒビキのローブ縛りをどうしようかとか、この章も普通にジジイ出てくるんかい!?とか、いやジジイはもとから出てくる予定だったはず。
そろそろ新キャラ登場ですね。数人、濃ゆいキャラを考えておりますので、おいおい出てくるかと。ボツにならない事を願ってます。
さあ、次はいつ投稿できるのか? 仕事忙しくて申し訳ない。紬でした。