前へ次へ
56/78

第56話:消息

前回のあらすじ!


ヒビキとティナは冒険者として新たな依頼にのぞんでいた! それは巫女の呪いにより顔を歪められたヨハンの想い人である国王の妹君を治すことができるという薬を入手することである。


 森の中を集団が走っている。数は5人。中には負傷者もいるようだった。


「急げっ!」

「無理だ! 追いつかれる!」


 先頭を走る男が声をかけた。現地の民族衣装に身を包んだ男の顔には焦りが生じている。側頭部の剃り込みと、長髪を三編みに編んだ髪型はこの地方の特有のものである。後に続く4人のうち、女の一人は完全に気を失っており、もう一人の男は肩から血を流していた。女を担いで走っていた男が言う。


「…………マイリを頼む」


「馬鹿を言うな!」


 先頭の男は反射的に叫んだ。だが、そんな事はお構いなしに男は意識を失った女を押し付けた。振り返り背を見せた男が手に持っているのは短めの槍、石突の先についているのは魔石である。


「ここは、俺が防ぐ。お前たちはマイリを村まで戻してやってくれ」

「ラタシュ! そんな事が納得できるか! マイリが起きた時にどれだけ悲しむのか分かっているのか!?」

「分かってるが、それでも俺はマイリに生きていてほしい。お前らにもだ。他に、ここを防ぐ事のできる奴はいない。……それにマイリが起きればお前たちを、村を救うことができるはずだ」

「ラタシュ!? まさか……マイリにベグを彫ったのか?」

「さあ、行け! マイリが目覚めたら、次は長生きする男を見つけろと伝えるんだぞ!」

「ラタシュ!」


 ラタシュと呼ばれた男は魔石のついた槍を振りかざす。追手が追いつきそうになっていた所に魔法を放った。


火炎爆発ファイアエクスプロージョン! さあ、お前らは道連れだ!」


 その様子を見て、マイリをおしつけらるた男は奥歯を噛みしめ、走り出す。道中に何度も謝罪の言葉を繰り返しながら、ラタシュの愛する、いや、愛した女性を運んだ。

 気付くと、後方から鳴り響いていた爆発音が、消えていた。

 



 それから間もなくエコンの町の北に広がる「ヌベ大森林」の中の原住民は一つの部族によって平定されることになる。部族を制したのはヤイマ族。族長とは別に、その部族には呪術に長けた魔法使いがいた。「最も賢い人」という意味の名を持ったラタシュという魔法使いは、他部族との抗争の中で命を散らしたと言われている。そのラタシュの許嫁であり、ラタシュの呪術を背に彫り込まれた女が、その力を持って全ての民族を統一した。「復讐」を意味するベグという名を名乗る女、マイリ=ベグによって総人口数万を超すと言われているヌベ大森林は、国としての機能を発揮しつつあった。この事に王国はまだ誰も気づいていない。だが、王国出身の薬師がこの森林に逃れているのを知っているのはごく少数であり、その薬師を追って冒険者が二人、ヌベ大森林に足を踏み入れようとしていた。




 ***




 とりあえずは聞き込みから開始した俺たちだったが、その薬師がどこに住んでいるかなんてのはすぐに分かるはずだった。しかし、予想とはいつも裏切られるものである。


「ああ、薬作ってた変な家族? そう言えば数か月前に引っ越したな」


 昔薬師が住んでいた家の向かいの住民から、すぐに手に入った情報がそれである。マジで勘弁してくれ。だが、その程度で諦める俺ではない。


「それで、どこに引っ越したか分かりますか?」

「うーん、ギャンブルで借金作ってたからなあ。引っ越し先なんて誰も分からんと思うぜ?」


 はい、終わった。諦めて帰るとしよ……


「ちょっとヒビキ! 諦めようとしたでしょ!?」

「いや、だってよ。引っ越し先分からんとか言ってるぞ?」


 ティナに後ろからゲシゲシと蹴られながらため息をつく。


「なあ、あんたら……」


 聞き込みをした住民が怪訝な顔をして聞いてくる。


「どうみても、借金取りには見えないんだが、あいつに何か用でもあるのか?」


 今まで聞き込みなんてしていたのは全て借金取りだったのだろう。そのため、聞かれる方もうんざりしていたようだった。少しだけ迷ったが、別に俺たちはその薬師に危害を加えるつもりもなければ依頼自体を秘密にすることもない。正直に話すこととした。


「ああ、薬の作成依頼をしたくてな。なんでも彼の親族にしか作れない薬があるって聞いて。本人には会ったことがないんだが……」

「そうか、そうだったのか」


 いきなり考え込む住民。これはもしかして……。


「薬さえ手に入れば本人に会わなくても構わないなんだが?」


 この住民、お人好し過ぎてその薬師を知っているという事がバレバレである。今までよく借金取りから逃げていられたな。まあ、心情を汲み取ってやって、仲介だけしてもらうってのもこちらとしては問題なし。むしろ厄介事には巻き込まれたくない。欲しい薬を言うと、住民は仕方ないと言って耳打ちをしてきた。


「他言無用だぞ?」


 なんだよ、いきなりこんな初めて会った奴を信用するのか? と、思っていたけどちゃんと理由があった。




 ***




「本当にこんな森の中に集落があるの?」



 森をずんずんと進んでいるとティナが最初に音を上げた。


「薬師は薬草を手に入れるためにこんな辺境に住んでいた。薬草は現地住民から入手していた。おそらくはってあの住民は言ったけど、今はその森の現地住民の所にいるんだろうよ」


 ただ、森林の奥にある集落まであの住民は行った事がないようだった。そのため、何処に集落があるかがよく分からないという。なんとか周辺でさらなる聞き込みをして方角くらいは分かったものの、道なんてない。借金取りがこんな命の危険がある場所まで追っていくわけがないと、あの住民は思ったのだろう。多分、その考えは正しい。若干ムカつくが……。


「方角は分かってる。道に迷わないように、枝に印を付けて歩いてるだろ? 見つからなかったら帰るだけだ」


 樹海なんて入ったことない。そのため、道標として枝に白い紐を結びながら歩いてきたのだ。


「ねえ」

「ん?」

「ところで、その印って、あの猿が持ってるやつかしら?」


 後ろを振り替えると、大型の猿の魔物が枝にくくりつけられた紐をほどいていた。その隣には、紐の束を持ち、まるで助手のように振る舞う同型の魔物が……。


「ウキィ?」


 明らかに馬鹿にした態度でこちらと目が合う。


「ウキウキィィ、ウキ?」


 俺たちに見つかった猿の魔物は、紐を放り投げると逃走を開始した。


「待てやこらぁぁぁああああ!!!!」



 かくして猿の魔物は最終的に仕留めたものの、完全に道を失って今に至る。


プロット崩壊!ついでにメンタルも崩壊!

紬です、ごきげんよう。


第2章突入と同時に第3章のネタが浮かび上がるって、やな感じ。どうせ、書き始めるころにはプロット崩壊するんだろうが!


さて、この章は不定期更新です。あしからず。

もう本職のせいで毎日更新なんてムリ


前へ次へ目次