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第55話:秘薬

前回のあらすじ!


辺境の迷宮編終了! 覚えてない? 読み返してきてくれ!

 樹々の上を飛び回るように大型の猿が飛び回っていた。正確には猿ではなく魔物である。ほとんど人が寄り付かないこの場所に生息している猿の魔物には正式な名称はついていないために、現地の人間しか呼び名を知らない。しかし現地の人間すらいないこの場所ではあの猿をどう呼べばよいのだろうか。


 ともかくも、その猿の魔物が樹々を飛び回っていた。何かから逃げるかのようにである。


「キキィ!!」


 仲間に何かの合図を送ったのだろうか。それとも彼らだけの言語であったのだろうか。その鳴き声に呼応するかのように他の魔物が近づいてきた。だが、彼も同様に樹々の間を飛び回っている。その形相は必死そのものであり、速度が落ちることもない。


 一頭の魔物が後ろを振り返った。しかし、そこに彼が恐怖とともに思い浮かべた者はいなかった。安堵とともに、気を引き締め、逃走を再開する。が、次の瞬間にその猿は意識を失うこととなった。原因は跳躍により頭上から降ってきた一人の男である。


「ええい、逃げんじゃねえよ」


 猿の頭部から下顎にかけて差し込まれたのは一振りの剣だった。脱力した魔物とともに枝を折り地面にまで落下した男は、魔物をクッションにしたことで無傷である。引き抜いた剣のそのつかは一般的なものではなく、まるで杖のような形状をしていた。さらには鞘も同様であり、もしその鞘に剣が収められていたいた場合は傍目には杖にしか見えないだろう。つまりは仕込み杖である。

 さらにはその剣を持った男の服装である。中には鎖帷子を着こんでいるようであるが、その外はまるで魔法使い。一般的なものよりは動きやすそうであるが、ローブと呼ばれる外套を着ていた。動くたびにバサバサと音がするが、男はむしろその音を心地良く思っているかのようである。


「おっと、逃がさねえよ。風刃ウインドカッター!」


 男が手袋をした右手を振りかざす。仕込み杖は何故か左手に持っていると言うのにも関わらず、右手から風の破壊魔法が放たれた。もう一頭の魔物が次に飛び移るはずだった枝を切り落とす。バランスを崩して落下した魔物が起き上がろうとした時には男の仕込み杖が横に振るわれていた。


「終わったの?」


 猿の首を刎ねた剣についた血糊を拭っていると、男の後ろからガサガサと茂みをかき分けて女の僧侶が出てくる。


「ああ、楽勝だった。やっぱり、魔法だけってのは無理があったんだな」

「元が元だしね。それに杖がいらないってのはある意味卑怯よ」

「苦労した代償ってことで」

「まあ、そうね。ずいぶん稼がせてもらったし?」

「これからも稼ぐんだろ?」


「ええ、もちろんよ。ところで1回20ゼニーだけど、回復魔法は?」

「いや、いらないから」




 ***




 辺境のルノワより北東に向かったさきにエコンの町というあまり知られていない町がある。王都からの距離もそこそこあるがルノワほど遠いわけでもなく、人口もルノワほど少ないわけでもないが特産品などは皆無であり、迷宮もない。無論、冒険者などで活気づくわけもなければ観光客なども居るわけがない。さびれた町には2~3件の宿しかなく、店も必要最低限しかないというありさまだった。北には樹海が広がっている。誰もそこに入らないという事も考えるとほとんど需要はない。

 領主はエコンの町だけではなく複数を領地として持っているためにエコンの町に滞在する事はほとんどない。衛兵が数十人常駐しているが、衛兵仲間の中ではエコンの町に左遷されるという表現を使っている。



 さかのぼる事数時間前。


「それで、なんでここ?」

「いいじゃない。たまにはお金にならないってのも悪くないものよ」

「おおぉ、何か変な物でも食ったんか?」

「失礼ね。これでもお金が全てなんて思ってないわよ。数少ない信用できる物のひとつがお金ってだけ」


 宿の食堂では二人組の男女が食事を取っていた。片方はローブを着た魔法使いに見える。厚手のローブは布地がやや少なめで動きやすいそうな反面、首元から覗いているのは楔帷子くさびかたびらであり、魔法使いにしては重装備だ。杖をテーブルに立てかけている。もう片方は僧侶である。細身のメイスと神官特有の衣装を着ている。どちらも後衛であり、二人だけで旅をするとなると苦労する事になるか、それともかなりの実力があり並みの前衛以上の動きができるかのどちらかだろう。実際に魔法使いの方はかなり体格がいい。


「目的の物は? 依頼じゃないんだろ?」


 じゃがいもとほうれん草のパスタをくるくるとフォークに巻き付けて魔法使いが聞いた。


「薬よ。万病に効くというのは言い過ぎだと思うけど、実際に病を立て続けに治したって噂ね。出所が全く分からないって話だったから、まだ他の人には気づかれてないみたい」


 焼かれた肉の塊をフォークで一口大に切って口に入れる僧侶。二人とも冒険者のわりにはテーブルマナーがいい。


「出所が分からないのに、分かったの? なんで?」


 茹ですぎなパスタをワインで流し込む魔法使い。渋みと酸味の強い安ワインの喉越しはあまり良いとは言えずに顔をしかめた。


「ああ、それね。ライオスに聞いたのよ。彼、当たり前のように知ってたわよ。昔は有名だったんだって。その薬師の子孫がいるのがここね」


 なるほどなぁ、と魔法使いが呆れた顔で言う。


「それで? その薬で儲けようっての? それとも誰かに使うの?」

「両方よ。王の妹君殿下が病にかかって、おそらくは呪いだと思うんだけど魔法じゃ治癒しないのよ」

「マジか、つまりヨハンからの依頼じゃねえかよ。そして結局金か。」

「その通り。先日手紙が来てたわ」


 僧侶へ手紙を魔法使いへと渡す。なんで先日来てたのに現地に入るまで渡さないんだとぼやきながら魔法使いがそれを読み始める。



 「親愛なる ヒビキ、ティナへ」

 


 やあ元気かい? 僕は元気です。

 何を書いたらいいか分からないけど、とりあえず元気です。


「小学生みたいな文章だな……」


 実は、この前から王の妹君殿下が病に倒れてしまっています。オベールとオルガにも頼んで神聖魔法で治してもらおうとしたんだけど、ダメでした。そこで皆が困っていると、なんとまた予知見が出たのです。予知見の巫女が言うには、「陛下と予知見の巫女が結婚すれば妹君殿下の病は治る」とのことでした。


「またか!? また予知見! しかもまた王との結婚!?」


 妹君殿下の病は命に関わるものではないそうです。ただ、若干お顔の作りがゆがんでしまうというもので、病が治るまでは外に出ることができません。近日中にもどこかの領主との結婚をと言われていた矢先だったから、皆大変です。


「……まさか、病じゃなくて予知見の巫女の呪いじゃねえだろうな」


 そこで、この呪……病を治すための薬を探しているのです。何か思い当たることがあれば教えてもらいたいし、もし薬を手に入れる事ができたら莫大な褒賞が出ることでしょう。陛下は妹君殿下の顔と予知見の巫女との結婚のどちらかを選べと言われたら迷いなく結婚はしないと言っていました。妹君殿下が可哀そうです。


「やっぱり呪いじゃねえかよ」


 あと、君たちだから言いますが、この手紙は読んだら焼いて下さい。


「お? なんだなんだ?」


 もし、妹君殿下の呪いが治らなければ僕は妹君殿下に結婚を申し込もうと思っています。


「なんと!?」


 ですが、薬が手に入ればもっといい人と結婚できると思っています。急いでください。君たちならば薬を手に入れることができると思っています。


 友 ヨハン=シュトラウツ より


「ね? 面白いでしょ?」

「おう、久々に頑張ってやろうかな。それでヨハンが妹君殿下と結婚してから薬持って行ってやろう」

「そうそう、そうしましょう」


 右手に手袋をはめた魔法使いは僧侶へと笑いかける。この数か月、共に過ごした相棒と悪だくみをするのだ。これ以上に楽しい事はないだろう。親友の色恋沙汰がそれに加わるのだ。心が躍らないわけがなかった。



 辺境の迷宮を踏破してから数か月。ヒビキとティナは各地を放浪しながら冒険者として生計を立てていた。その二人が次の目標に選んだのがここであり、「秘薬」を作っているという薬師への訪問と製作依頼である。なんてことのないお使い程度に思っていたこの依頼が、かなりの大事になるというのを、二人はまだ知らない。



あー、頭痛い。

えっと、毎日投稿を頑張ってみたんですけど、思ったよりも成果がでなくてへこんでた紬です。ごきげんよう。


ロブよろ、再開です。



……………


もはや、ポイントなんてどーでもいーさー

適当に続けよーぜー

仕事しんどいから不定期ねー


な心情。ただ、タイトルの変更は色々と考えてます。序盤も書き直しの時間があればいいな。

ローブ縛りのタイトルは今後に影響しそうだし、今回の章のジジイ……どうしようか、とか。

ただ、ロブよろのタイトルは結構悩んだ末にひねり出したものなので愛着もあります。

要は、全て検討中。とりあえずはプロット考えてた分くらいは書き始めましょうか。


紬でした。でわでわ

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