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第50話:尋問

前回のあらすじ!


大部屋に悪魔がいた。ヒビキたちは悪魔と戦う覚悟を決める……

 ミルトが飛び出すと、悪魔は明らかに喜悦の表情でミルトの姿を追った。ヒュンヒュンとスリングを回しながらもかなりのスピードで走るミルト。悪魔の顔の向きが変わりミルトに襲いかかろうとした所で背後から俺の放った魔法が直撃した。


(フレイム)!」


 威力は全く抑えてない最大火力の(フレイム)である。一撃で倒せるなどとは思っていない。さらに畳み掛ける。左手は槍を構え、右手はツタを編み込んで作った籠手を突き出しながら距離を詰めた。さらに(フレイム)を連射する。


「こっちにもイタカ? ダガ、そんな魔法が効くかよ!?」


 悪魔は魔法に耐性がある。だが、効かないにしても動きは押さえられるのだ。距離を縮めるまでは魔法を切らさず続けた。


「効かネエ! 諦めて食われロ! 魔法使い!」


 どうやら、俺たちを食うつもりらしい。そんな小さな体で、食われるわけがないじゃないか。ローブを着ている俺をただの魔法使いだと思っている。体が回復してたら八つ裂きにしてやったものを。


「ギャハハ、効かね……アバギャ!」


 魔法が全く効かずに爆笑していた悪魔の横っ面にミルトがスリングで投げた石がぶつかる。あれは痛そうだ。完全に首ごと体勢を崩した悪魔との距離を動きにくい足で詰めると、左手の槍を腹部に刺しこんだ。貫通した事を確認して、地面に縫い付けるように突き刺す。何が起こったのか分からず驚愕の表情をする悪魔の顔面を殴り付ける。


「ガフッ!」


 しぶとい。腹を貫いたくらいじゃ死なないようである。すぐさまミルトが駆け寄ってきた。


「おい、死にたくなければ答えろ」


 短剣を受け取り眼前に突きつける。さすがにめった刺しにしたら死ぬだろう。


「ここに、お前の他の悪魔は何匹いるんだ?」

「誰がソンナ事を言……ギャアアア」

「ヒビキさん、諦めが早いですよ」

「だって、答えてくれないんだから仕方ないじゃないか」


 尋問の基本なんて、やった事ないから知らないんだ。どうせ答えてくれないんだったら早いところ始末して…………。


「待テ、待ってくれ答えるか……ギャアアア!」


 2ヶ所目を刺した。何か喋ろうとしてたかもしれないと後から思った。反省はしていない。


「待ってクレ、ここには今、20体の悪魔が……ほとんどは魔物を媒介にしたカラ、ドワーフの媒介は3体だ」


 おい、ちょっと聞き捨てならない言葉が出たぞ? 魔物を媒介? ドワーフ? 早めに殲滅しなければ悪魔が増えるかもしれないってことか。


「どうやって、こんな奥地にお前らが発生できたんだ?」

「ひっ、一番体の小さな眷族がここマデ侵入して、少しずつ小さい魔物の死体ヲ使って仲間を増やしたンダ」


 なるほど、そういやジジイが言ってたっけか。エオラが神聖魔法で結界を張っただとかなんとか。なんとか結界を越えてもエオラに殲滅されるだけだったが、内部で少しずつ仲間を増やすことができれぱ誰かが潜入して、気づかれないようにするだけである。


「ミルト、他に聞きたい事はあるか?」

「この先には悪魔たちがいるってことですよね。抜け道とかありませんか?」

「お、俺ダッタラ気づかれずにここまで来レルけど、人間は匂うから無理だ……」


 まあ、そうだろうな。悪魔ですらこれだけ特徴的な「いやな感じ」のする魔素をまとっている。あちらからすれば人間が近くにいるのも分かるのだろう。


「よし、もういいな」

「はい」

「えっ、ちょっ…………グッ……フュー、フュー」


 横一閃、首を掻き斬った。大量の血液が噴出するとともに悪魔が声を出せなくなる。数十秒で悪魔は動かなくなった。しかし、以前の自分じゃ考えられなかった無慈悲な行動が取れるようになったものである。いや、下手に拷問を続けるよりはよっぽど慈悲があるのかもしれない。

 

「他の悪魔が来るかもしれない。早いところこいつを片付けてしまおう」


 魔力を失った悪魔の体は徐々に崩れていった。媒介にしたのはジャイアントバットだろう。腐った羽が見えてくる。完全に腐りきる前に川の下流に捨てる。水が浄化してくれるだろう。槍が突き刺さっている場所は水流(ウォーター)で洗い流した。魔素がずいぶんと薄れたのを確認して、拠点に戻ることとした。


「多分、あいつは下端なんだろうな」


 ここに来ていたのがバフォメットやベヒモスであったのならば今頃俺たちは死んでいただろう。だが、槍やスリングが十分効き、耐性がある魔法も動きを封じ込めるという意味で有効であるのが分かったのは収穫である。


「とりあえず、今日は御飯を食べて寝ましょう」

「そうだな」


 難しい事は明日考えることにした。今日を乗りきったというのが重要である。




 ***




「あいつら! また邪魔をして! ヒビキ様がピンチだというのに!」

「いくら事情を知らないとはいえ、奴らがいたらライオス師匠が魔法を使いにくいって状況がこれだけ続くと、さすがに殺気立ってきますね」

「オベールさんの、あの表情。多少は申し訳なく思ってんのかしら」

「まずいのう……めんどくさいのう……」


 第9階層の入り口では連日におよぶ戦闘が繰り広げられていた。悪魔側はベヒモスとバフォメットを主力とした陣形に加えて、どこからか拾ってきた瓦礫などを防壁に先に進ませまいとする。冒険者側も近接戦闘があまり得意でもないために遠距離からの攻撃にならざるを得ず、魔法耐性の強いベヒモスを抜けずにいた。

 唯一、ライオスの魔法が効くこともあったが、だいたいそういう時にかぎってオルガ=ダグハット率いる神官たちがやってきて、加勢という名の邪魔をする。


「エオラ! 我が女神よ!」


 などと叫びながらベヒモスに突撃し、神聖魔法で攻撃するのだ。多少効果があるから、厄介である。結局は押しきれずにバフォメットの魔法などで撤退を余儀なくされる。これが何回も続いていた。


「あぁ! もう!」


 ヒビキとミルトが生きているという事が分かっただけに、焦りが生じる。オルガたちさえこなければライオスが本気を出せるのであるが、という思いが空回りしていた。


「落ち着けぇ、ババア」

「誰がババアよ! このジジイ!」

「ワシの方が年下なんじゃがのう…………、ヒビキがそんな簡単にやられるわけがなかろう。だいたい悪魔の主力はほぼ毎日こっちに顔を出しとるからのぅ。下ッ端では相手にならんじゃろ」

「あなたに言われるまでもありません! 私が心配なのは……」

「おっ!? ヒビキがミルトとくっつくんじゃなかろうかと心配なんじゃな?」

火山(ボルケーノ)!!」

「ちょっと! 二人ともやめてよ~! ほら、オルガが吹っ飛ばされてオベールに回収されてるよ! チャンス、チャンス!」



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