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第41話:眠る者

前回のあらすじ!


クリスティナ=オーウェン……つまりティナの話でした! そんなん読めばすぐに分かるって? ……。

「というわけで、男なんて信用ならないの。信じられるのはお金なのよ」


 気を使ってあんまり聞いてこなかった過去をあっさりと語るティナ。まあ、たしかにそこまでショッキングな話題というわけでもなかったか。それにしても神父様もストレス貯まってんだな……、風俗通いは職業上やめといた方がいいと思うけど。


「ミルトも気を付けなさいよ」

「ミルトは大丈夫だ、僕がいる!」

「ミルトも気を付けなさいよ」

「何故言い直した!?」


 コスタの抗議の声を無視してティナとミルトは仲良く酒を飲んでいた。ドワーフの集落に泊まらせてもらう場合はたいてい酒盛りになる。地上からそれなりの量の酒と食料を輸送したこともあって、この集落の生活も変わってきた。すでに宿屋が経営されている所など、意外とたくましい。


「ろくでもない男がいたものですね、だから神官は駄目なのですよ、融通きかないし」


 さすがにエオラも今回ばかりはティナに同情しているのだろうか。


「でもヒビキ様はそんな事ありませんから、大丈夫ですよね」


 何がどう大丈夫なのだろうか、とりあえず適当に話を合わせて……。


「こやつがそんな真面目な男なわけないじゃろうが」


 ジジイがすぐさまエオラに言う。こら、まるで俺が不誠実な男みたいじゃないか。しかし、強く否定する自信もないために黙っておこう。黙秘権というやつだな。


「迷宮都市におったころにこやつも娼館くらい行っておるじゃろ、のう?」

「行ってねえよ」


 こっちの世界では。なんか、病気とか怖いし。


「ほら、ヒビキ様をあなたと一緒にしないでもらえる!?」

「嘘つきじゃな」

「ヒビキ様が嘘をつくわけがありません!」


 またジジイとエオラの喧嘩が始まった。最近は回りの連中も止めやしない。もちろん俺もだ。巻き添えくらうと洒落にならん。喧嘩の原因は俺の事だけど、否定も肯定もしない。これに尽きる。


 そんな喧嘩を無視するかのようにコスタ、ミルト、ティナの若者3人組は飲み続けているようだった。ちなみにヨハンは開始早々に潰れている。


「だからね、私はオルガ様の事を知っているわけ。向こうは見習いの1人なんて覚えてないと思うけど」

「それでオルガ=ダグハットの顔を知ってたんですね」

「王都神殿ではもっと恰好良かったんだけど、……もちろん取り巻きも含めてね」



 さて、翌朝にドワーフ連中から第8階層の事を少しだけ聞いてきた。あまり第8階層には降りない彼らではあったが、通称「魔女の穴」の方角に進むのを禁じられたとしては下に降りるしかない。過去には第8階層の奥にまで到達したドワーフもいたようだ。さすがにブラックドラゴンからは逃げまくったらしいが。


「第9階層は、ほとんど未知の世界になるな」


 すでに第7階層の地図は書き終えた。もう少しで第8階層も書き終えることができるだろう。思ったよりも広くないというのが印象である。第2階層から第4階層の面積の半分もない。


「だからと言って第9階層が広くないというわけがないけどな」


 ついに最深部に近くなってきた。第9階層にあるという「何か」を持って帰って初めて王国を救済する事ができるのだという。その「何か」にはまだ心当たりがない。しかし、ここで考えていても始まらない。行ってみるしかないのだ。




 ***




 翌日、オベールとオルガたちが8匹目のブラックドラゴンを仕留めたようだった。すでに第8階層への道を「整備」してしまったドワーフたちによって手早く素材がはぎ取られ、地上へと送られる。ドワーフ達にものすごい感謝をされてまんざらでもないオベールとオルガたちであったが、あれがかなりの高額で取引されるという事を分かっているのだろうか。オベールとか、後から怒りそうだよな。だが、もともと冒険者だったのに素材の剥ぎ取りを忘れる方が悪いに決まっている。

 しかし、第8階層には他にもドラゴンパピーがいたり、ブラックドラゴンの卵の殻と思われるものが散らばっていたりした。そのうちまたブラックドラゴンが出てくる可能性はないこともない。とりあえず現在成竜になっているブラックドラゴンは仕留めたと言っていいだろう。数十年は大丈夫そうだ。


「さあ、それじゃ行こうか」


 ヨハンが準備を万端にして言った。すでに第8階層のほとんどを踏破した俺たちは第9階層へと続くであろう道に目星がついている。あの坂道を降りた所に第9階層があるに違いない。パーティーメンバーの中で降りる事に異議を唱える者はいなかった。


「よし、行こう」


 俺を先頭にして坂道を下っていく。周囲には光源ライトで照らされた通路が見えるだけだった。罠の類もないようである。そもそも第7階層から下で罠を見かけたことがなかった。


「第9階層には魔物を放ったのか?」

「いえ、色々と問題がありまして、結局何も放たなかったのですよ」


 エオラはそう言う。しかし、第9階層へと到着すると、そこには魔物の痕跡があった。足跡である。さらにはヒカリゴケの量も多く、ところどころ他の苔を中心とした植物も生えていたりした。


「なんか、今までの階層とはちょっと違うね」


 さっそくヨハンが地図を書きだしている。たしかに、今までの階層とは全く違うようだった。そして何より一つの空間が大きい。この部屋だけなのであろうか。第3階層にも劣らない大きさの空間である。ヒカリゴケだけであるために光量が足らず、奥まで見通すことができないが川のようなものが流れているのではないだろうか。第4、5階層はエオラが無理矢理に湖を作製したから魔法的な水の循環があるはずだったが、第9階層にそのような物を設置した痕跡はない。であるならば自然と水脈に当たった可能性もあるが、第9階層ほど低地であると全てが水で埋まってしまうのではないだろうか。明らかに海面より低い位置に来ているはずだった。そもそもアントシーカーが塗り固めた壁を自然の水脈が破るとは思えない。


「これは……まさかのう……」


 ジジイが呟いた後に思案顔で黙ってしまった。


「なんだよ、思い当たる事があるのか?」

「ふむ……確証はないが、ちと面倒かもしれぬ」


 思わせぶりなセリフを吐いたジジイが何やら補助魔法を全員にかけて行く。


「おいおい、魔物はまだ見えないぞ」


 しかしジジイは俺を無視して補助魔法をかけ終えた。そしてエオラの方を向く。




「のう、ここには誰か魔力の強い者が眠っておるようだの?」


まだだ! まだ毎日更新続けられてるよ!

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