第39話:クリスティナ=オーウェン
前回のあらすじ!
やつら教義で刃物持てないから素材の剥ぎ取りなんかしないんだよ!
だいたい、次回は未定とは言ったかもしれんが、いつも通りに投稿しないとは言ってない<(`^´)>ドーン
ドワーフたちも巻き込んでブラックドラゴンの素材を回収したのはそれから二日後だった。とりあえずは腐ったり他の魔物に食われたりしていなかったために、鱗や皮だとかそれなりの量の物が手に入った。牙や爪はかなりの価値になるらしい。基本的にオベールの聖光で弱らせたところをオルガのモーニングスターでとどめを刺す方法で仕留めているらしい。頭蓋骨が無事なものは一つもなかった。
「とりあえずは地上に運べば良いのじゃな」
「ああ、任せても大丈夫か?」
「うむ、何度か往復した道じゃ。我らだけでも十分に行き来することができる」
何台かの荷車をドワーフに造ってもらい、それに素材を山積みにする。ドワーフの集落にはそれでも荷車に積みきれないほどの素材が集まっていた。ギルが数人のドワーフを連れて地上へと向かう。
「これはものすごい価値のある素材なのよ! 絶対に地上まで輸送してよね!」
ティナが張り切っている。次々とドワーフたちに指示をだしては素材を集めて地上へ送る作業をしていた。ちなみにこれらを仕留めたオベールとオルガたちのパーティーには一銭も入らないのだそうだ。そしてそれを聞いたティナが張り切ってるのも仕方ない。ドラゴンの素材の値段は思った以上に高かった。もし、新鮮な内臓が手に入っていたとしたら、更に価値のあるものになっていただろう。
「もう一度ドラゴンパピーを召喚しましょうか……」
「何年かかるんだ……」
エオラがドラゴン農場を始めようかと考えている。これだから不死をかけた魔法使いの考えることは理解できない。
***
天変地異の原因であったゴダドールの地下迷宮が攻略されたという報せは「救国の騎士」ヨハン=シュトラウツの名前とともに王国中に響き渡った。それは王都に近い、何も特色のない農村にもすぐに伝わるものだった。なにせこの数か月は特に地震が頻繁に起こり、様々な場所で天災が降り注ぐ世であったのである。
「神父様!」
そんな農村にも王都神殿から派遣された神父の常駐する教会があった。
「なんですか。騒々しい」
王都から派遣された神父はこの何の変哲もない農村を気に入っていた。都会の喧騒から離れての生活が性に合っていたのだろう。出世欲もほとんどない神父はこの村に骨を埋めるつもりだったのかもしれない。
「オーウェンさん、そのようにあわただしくするものではありません」
「ですが、神父様っ! ついにゴダドールの地下迷宮が突破されたんですっ!」
「そうですか、それでこの数日は地震が起こっていないのですね」
クリスティナ=オーウェンはこの農村部の教会に来たばかりの僧侶だった。もともとは王都神殿にいたこともある。神聖魔法の腕はその年ではありえないほどに高く、多くの人々から将来を期待された神官であるはずだった。美貌と言っても良い顔立ちに多くの人から愛されてきた彼女はひねくれることなどなくまっすぐに育った。父と母は彼女が幼い頃に他界していたのであるが、その後神殿で育てられた彼女は幸福なことに多くの愛を知りながら育ったと言ってもよい。
だが、そんな彼女がある日神殿長に呼び出された。そして、その日を境にクリスティナ=オーウェンは王都神殿を後にする。何があったかは当事者を除くと誰も知らなかった。
「まさかあの神殿長に限って…」
「いや、あの美貌だからな。それに将来有望な神聖魔法の腕もある。権力者ってのは考えることは分からん」
「手込めにされたのか? 今まではそんな噂を聞いたことはなかったが……」
噂が流れたのはほんの数日だけの事だった。クリスティナ=オーウェンが呼び出された時にその場にいたと神殿長の付き人が一笑に付したのだ。さすがに神殿長からの呼び出しというのが世間が好みそうな下種な種類のものであるわけがなかった。だが、であるならばなぜ将来を期待されていたクリスティナ=オーウェンは王都神殿を出ていったのであろうか。
「あの反応、予想外でしたな」
「うむ、だが仕方がないのかもしれん」
まさか神殿長も将来有望と目されていたクリスティナが神殿を出ていくという反応を見せるとは思っていなかった。本来神殿は来る者を拒まず、去る者を追わずが原則である。行く当てのなかったクリスティナが出ていくという選択肢を取ったという大きな理由を、神殿長は理解する事ができなかった。
「どんな人間であろうとも、出世欲というものはあると思っていたがな。特にあのような子にとっては神殿の中が全てであろうと」
「幼き日の両親の教えが、まだ根付いているのでしょう。それも神のお導きかもしれません」
クリスティナ=オーウェンに提示された提案は、王都神殿の神官長をめざす候補にならないかというものであった。それは優秀な僧侶をして特別な修行を課すことにより大幅に神聖魔法の力を上げる儀式であり、数年に一度程度でしか資格を有するものは出てこない。言わばエリート中のエリートと認定されたに等しいのである。無論、その修行を成し遂げた者は最終的に次世代の教皇候補とも言われる。秘中の秘とも言われるその儀式は、受けたものしか存在をしらない。そしてクリスティナはその存在を知らないままに知りたくないと出て行ったのである。
「興味がないと言っていましたね」
「ああ、沢山の人々を助けるというのは重要な事だが、それは別の人がやればよいそうだ。それよりも目の前の人たちを助けたいのだと」
「それもまた、慈悲の心かと」
「出世とかマジで勘弁よ~!」
王都を脱出したクリスティナ=オーウェンは、誰もいない事をいいことに、そう叫びながら歩いていた。容姿端麗な彼女は、他人からは想像できないが、かなり自由奔放な性格をしている。そしてそれを神殿内ではひた隠しにしていた。だが、そろそろ限界が近づいていた。
「だいたい、これ以上禁欲生活が続いたら本当に病気になっちゃうわ!」
何をやっても人よりもそれなりに上手くできるクリスティナ=オーウェンは、神殿においても同期の僧侶たちに比べて優秀であった。そしてその性格を隠している以上、努力家を装う必要があり、装うという事は努力をしたという事であり、気づけば将来の幹部候補生にまで上り詰めていたのである。
「神殿に入ったのだって、パパとママが死んじゃって生活に困ったからなのに、どうしてこうなっちゃったのかしら」
まさか自分が神殿長から候補生に指名されるとは思わなかった。将来的にある程度の技量を手に入れれば転職するつもりだったのである。やりたい事もできない生活など、ずっと続けていくつもりはなかった。ちょっとした田舎で神聖魔法の使える人として何か商売か農業などをしていればいい。お酒だって飲みたい。結婚だってしたかった。まあ、お酒は神殿にいても節度を守っていれば許されたし、結婚も将来有望な神官と一緒になる事もできそうだった。だが、クリスティナ=オーウェンは自由が欲しかった。というよりもストレスが溜まっていた。
こうして王都を出たクリスティナ=オーウェンは流浪の修行中の僧侶を装い、どこか遠くへ行こうと思ったのだが、途中でめんどくさくなり王都近郊に近い農村の教会に上がり込んだのである。そこにいた神父が彼女の今後にどう影響するかなど、全く知らずに。