第34話:蜘蛛の巣
前回のあらすじ!
昔の話!
第7階層からは暗闇である。ヒカリゴケがある場所がないわけではないが不十分であった。ドワーフたちは松明やカンテラを用いると言っていたが、その状態での鉱石採掘はかなりきついようであり、作業をするにしては暗い。また、この暗闇でも動くことのできる魔物が存在するために、警戒は常に必要である。だが、魔法はその全てを魔力と引き換えに解決する。
「光源」
俺が使える数少ない魔法の一つである。光の玉が俺たちの周囲に浮かび上がり周囲を照らす。
「しょぼいのう」
「何だと!? やるか?」
「ふんっ! 今度こそ返り討ちにし……ぶへあ!」
ミルトの蹴りがジジイの膝の裏に入った。膝カックンてやつだな。
「ダメって言ったでしょう!」
待て、投げナイフを持つな。この前、説教中に投げるふりをして本当に投げてしまったばかりだろう。鎖帷子なかったら大惨事だったんだからな。
「光源は魔力の調節が意外と難しいですから」
コスタの光の玉はちょうどいい具合に辺りを照らしている。影ができても、完全に分からなくなるわけではない光量に調節しているのだという。
「ふん、こやつの光源はこれで全力じゃ」
対して俺の光の玉はあきらかに光量が足りていなかった。仕方ねえだろうが、魔力ねえんだよ。
「ねえ、第6階層にあった魔法照明ってあいつならつけることができるんじゃない?」
ここにいないエオラのことをティナはあいつと呼ぶ。仲が悪い。
「うむ、つけられるが……素材に魔力を込めたりするのに数日はかかるのう。一つで」
「それいいわね。第7階層全部につけてもらいましょうよ」
明らかにエオラを邪魔者と扱うティナ。仲が悪い。
主にコスタの光源を頼りに進んでいく。後方ではヨハンが松明も付けているので明るさは十分だった。第7階層は迷宮と呼ぶのがふさわしいレンガでできた壁と天井の通路が続く。地図も書きやすそうである。最初の大きな部屋と呼べる空間に出た。やはり、かなりデカい空間である。
「第6階層に比べて明らかに広いんじゃないかなあ」
地図を書き込みながらヨハンが呟く。地図を書いてる最中、松明は俺が持っている。
「ゴダドールの地下迷宮は全部同じ広さだったよな」
「そりゃそうじゃ。広さを変える必要なんぞがどこにあるんじゃ?」
「またエオラに聞いてみるか……」
だが、そのエオラは第6階層の地図を作ってる最中にどっかに行ってしまってから姿を現していない。
「いないなら、いない方がいいわよ」
明らかにエオラを邪魔者と扱うティナ。仲が悪い。
この階層には暗闇でも生活できる魔物が多い。コウモリの魔物であるジャイアントバットなんかもそうである。大きな部屋に出るとたいがいは天井に張り付いてて襲ってくるという。しかし、松明の炎をはじめとした炎関係の攻撃には弱いらしい。ドワーフがこの階層に必ず持ち込むの松明は武器にもなるという。
「火炎爆発!」
コスタの魔法でほとんどのジャイアントバットは死滅したようだ。俺の炎は当たってすらいない。部屋の奥の壁はレンガではなく岩肌が露出しており、ところどころドワーフ達が掘った穴が開いている。中から鉱石を運び出すためにトロッコの線路がついている穴まであった。
「今回は鉱石の採掘はしない予定なんだよね」
地図を書き込みながらヨハンが言う。
「おう、まずは地図作成だし、新しく装備を整えたい人がいるなら考慮するけど」
基本的に俺もジジイもヨハンも装備に困っているわけではない。ミルトとティナは臨時収入があったから武器防具屋で好きな物が買えると言ってたし、コスタも立派な杖を持っている。もし鉱石が必要ならばここで採掘をとも思わないでもないが、必要はなさそうだった。
「先に進もう」
ヨハンが部屋の地図を書き終えたタイミングで皆を促した。第7階層はかなり広いようで、ドワーフも全てを把握しているわけではなさそうだった。それに暗闇の中でじっとしているわけにもいかない。
「どれ、帰りの事を考えて明るくしとくとしようかの……照明」
ジジイが光源の上位魔法である照明を唱える。部屋全体が見渡せるくらいの光が天井付近で輝きだした。魔力を込めれば込めるだけ持続時間が長いという高等魔法らしく、そこそこの魔法使いが全力を出しても数時間がやっとだというが……。
「数日は持つじゃろう」
開いた口が塞がらないコスタを無視してジジイが先に進んでしまった。それほどにジジイとコスタの間には差があるという。ちなみにコスタとエオラの間にも決定的な差があって数年では埋まらないとか。コスタ、頑張れ。
部屋の先にはまたレンガの通路が繋がっていた。ところどころに松明を入れる専用のくぼみがある所なんかは迷宮と言った様相であるが、もちろん松明が入っているわけではない。
「そろそろ出るんじゃないの……? ねえ、何か聞こえない?」
さきほどからティナが挙動不審である。それはドワーフ達から聞かされている魔物のせいだ。第7階層の奥の方にでるという魔物、ジャイアントスパイダーである。
「わ、私、蜘蛛はダメなのよ……」
レッドスコーピオンとは普通に戦っていたはずのティナは蜘蛛が苦手だという。
「大丈夫だよ。対処法もきちんと聞いてきたからね」
松明をもったヨハンが言う。待て、どうせお前は戦わないだろう。
「あ、見えてきましたよ」
先頭で通路を歩いていたミルトが指差した。その指の先には白い糸状のものが見える。通路の丈夫に張り巡らされた糸、蜘蛛の巣だ。
「結構太いですね。あ、触ると振動が伝わってジャイアントスパイダーが来てしまうので皆さん気を付け……なんですかね、このべっとり足についてるやつ……」
そしてミルトが思いっきり床の付近にあった糸を踏んでいる。外そうとして巣全体が揺れたのも確認した。まあ、いつもの事だ。
「はいはい、来るぞー」
もう、何も考えなくなったパーティーの一向がジャイアントスパイダーに対して身構える。
「後ろにも注意なー」
コスタに光源を後方にも放るように指示して蜘蛛の巣の先を注視した。一方通行の通路だったために後方から何かくるとは思えないが、ここは迷宮である。何が起こってもおかしくない。
すると、通路の向こう側でなにかが動いた気がした。明らかに1メートル以上はある真黒な物体。ジャイアントスパイダーである。
「防御!」
ティナ張った防御障壁にジャイアントスパイダーの吐いた糸が絡まる。あれに捕らわれると身動きがとれなくなりそうだ。ジャイアントスパイダーの主力と言っていい攻撃である。だが、それが弱点にもなりうる。
「ふふふふふ、ついに俺の魔法が活躍する時が!」
「ええから、はよせい。お前さんの魔法でもたおせるが松明でもええんじゃぞ?」
「うるせえな、……炎!」
俺の手から放出されるこぶし大の炎。それが先ほど吐いたジャイアントスパイダーの糸に着火される。周囲の巣にも延焼した炎は次々と蜘蛛の糸を焼き払っていく。
「げほっ、げほっ! 意外と煙たいな」
煙が思ったよりも多い。通路の先が見えなくなるほど焼けたようだ。
「ヒビキ、ドワーフの人が言ってたんだけど、蜘蛛の糸焼いちゃうとその日は煙でその先に進めなくなるってさ」
「マジか、早く言えよ……いや待てよ?」
さすがに迷宮の中は換気が悪いようだ。煙で他の魔物も死滅してくれる事を祈るばかりである。しかし、できれば先に進んで地図の作成くらいはしておきたい。
「コスタ! 風で煙を奥に!」
「了解です!」
こうしてジャイアントスパイダーの巣を焼き払った俺の炎は第7階層の奥側に広がった巣をほとんど焼き払い、さらにはそこにいた魔物のほとんどは煙に巻かれて死んでいた。
「ヨハン、この方法、結構使えるんじゃない?」
「ヒビキ、煙が逆流したら僕らも死んじゃうからあんまり使うのはやめようよ」
そろそろ書き貯めがなくなってまいりました。
意外と書けないもんですな。
更新が滞る事になりますので、ご了承くだされ
とりあえず38までは毎日更新予定