第32話:死闘
前回のあらすじ!
無理矢理パーティーに入ってきたエオラを加え、一向は第6階層の地図の作成にとりかかった。そして、第6階層にいた魔物の名はガダゴ。それは飛ばない鳥の魔物であり、巣にあったのは卵であった。
「さあ、これでアレが作れるね! 地上から砂糖と牛乳を運んできた甲斐があったよ」
アレとは俺が教えた、あのスイーツである。卵と砂糖と牛乳で作るのは、プ……
第6階層の奥には泉があった。その周囲に岩以外に何もない空間が広がっている。さらに進めば食べることのできる植物が群生している場所もある。普段はほとんど魔物すらいないこの空間で、似つかわしくない爆音が響く。
「火炎爆発!!」
辺り一面が焼き尽くされる中、俺はローブを脱ぎ捨てる。中には楔帷子を着込んでいるが、それすらも動きの邪魔に感じた。火炎爆発の効果の範囲外に避難するのにはかなりの瞬発力を要求されたが、ダメージは全くない。オリハルコンハンマーを握りなおす。
「今日という今日は許さぬ! 死ぬがよい!」
「それはこっちのセリフだ!」
岩陰に隠れながら死角を進む。たまに風刃が岩ごと切り裂いて来るが、当たるような動きはしていない。
「ええい、まどろっこしい! 召喚!」
ジジイが魔物の召喚をした。なかなか攻撃が当たらない俺を拘束するためにガルーダという怪鳥を召喚したようだ。上空から、急降下で俺を狙ってくる。迎撃した時にタイミングを合わせてガルーダごと攻撃するつもりだろうが、そうはさせない。
「ふっ!」
近くに落ちていた石を投擲する。石つぶてがガルーダの首に激突し、怪鳥を地に落す。その間にジジイとの距離を詰めた。迎撃の魔法を詠唱させる隙は与えない。
「ちっ、防御!」
防御魔法は攻撃と違って即発動する。ジジイを防御ごと殴るが、オルガのように吹き飛びはしなかった。魔力が違うのだろう。反対にこちらが舌打ちをしなければならない事態だ。
だが、防御を解いて攻撃魔法を詠唱するまでには時間がかかる。その数秒の間に次の攻撃を仕掛けることで反撃をさせるつもりはない。
「オラオラッ!」
オリハルコンハンマーを叩き続ける。いくらジジイの魔力が膨大だといえ、何度も戦士の強撃を受け続けると防御で張った防御障壁にヒビが入り、割れそうになる。
「ふんっ、あまいわい!」
だが、ジジイは俺の攻撃に合わせ防御をわざと解いた。それにより空を切るハンマー。思わず体勢がぶれる。
「風刃!」
そこに魔法を撃たれてしまう。避けるためには距離を置かねばならなかった。ジジイはさらに後方に距離を取る。さらには石つぶてでダメージを追っていたガルーダが復活して後ろから襲い掛かろうとしていた。
「浮遊!」
ジジイは空へと逃げる。後方から襲い掛かってきたガルーダの嘴と爪を避け、ハンマーを脳天に叩きこむ。だが、ガルーダが沈黙した時にはジジイの詠唱が完了していた。
「死ぬがよい! 雷撃!」
最強破壊魔法「雷撃」。ジジイが現役のころはこの魔法を耐えたものはいなかったという。それが俺に直撃しようとしていた。だが、俺は現代日本の知識がある。
「うらっ!」
投げたのはオリハルコンハンマーであり、近くの地面に刺さる。爆音と共に即席の避雷針に吸い込まれる雷撃。しかしオリハルコンハンマーは電気を通しても変形はしなかった。
「何じゃと!?」
最強魔法を防がれた動揺があったのだろう。浮遊である程度の上空にいたのだが、俺の接近に反応するのが遅れる。無手であろうが戦士に組み伏せられたら魔法使いはなす術がないはずだ。
「逃がさんっ!」
「ええい! 離せ!」
跳躍してジジイの右の足首を掴む。そのまま地上に引きずり降ろそうとしたが、ジジイの浮遊は魔力の関係上力が強い。俺ともども上空に浮かせてしまうようだ。だが、別にそれは問題にならない。
「うりゃうりゃ!」
反対の足首も掴む。ジジイが付け焼刃の剣で手を払おうとするが自分の足も傷つけそうで思い切って振ることができていない。その間に腹筋に力を入れ、足をジジイの肩に絡ませる。
「ぶはっ!」
さすがに集中も途切れてしまい、二人して落下することになるが、こうなればこっちのものである。ジジイが起き上がるまでに拳を叩きこむ。しかし…。
「鋼鉄体!」
一瞬にしてジジイの体が硬く硬直した。叩きこんだ拳の方が壊れそうである。
「ふはははっ、これならお前さんの攻撃は効かん!」
「なんてでたらめだっ!」
だが、俺も手がないわけではない。すぐさま避雷針に使っていたオリハルコンハンマーを回収する。かなり熱を帯びているが火傷をするほどではなさそうだ。ぐっと我慢する。ジジイは鋼鉄体を唱えている時は他の魔法を詠唱できないようだった。魔法使いは基本的に一つの魔法しか詠唱できないからな。
「いつまでその体がもつかな!?」
思いっきりハンマーを振り回す。直撃したジジイが吹き飛ぶが、鋼鉄体の体には全く傷がつかない。だが、俺はお構いなしにジジイを吹き飛ばしまくった。
「おのれぇ! いくらダメージがなくともムカつくのう!」
しかし鋼鉄体を解くわけにはいかない。先ほどから俺が執拗に攻撃を加えるものだから魔法を解くタイミングを完全に逸している。ここからは我慢比べか。ダメージがないとはいえ、一方的に殴り続けるのはストレス発散にはなるがな、ふはは。
ゴン、ガン、ボンという音が第6階層に響く。たまにジジイが避けようとするが鋼鉄体をかけた事により動きがかなり鈍い。追撃して吹き飛ばす。高価なだけあって、オリハルコンハンマーの耐久力は申し分なかった。だが、このまま俺の体力が尽きるかジジイの魔力が尽きるかだと俺の体力が尽きるのがさきだろう。しかし、それには対策がある。
「むっ! 貴様、まさか!?」
「そのまさかだ! 行ってこい!」
鋼鉄化したジジイをハンマーで吹っ飛ばす。吹き飛ばされた先には泉があった。水に沈めてしまえば魔法を解くしかないだろう。水柱が立って、ジジイが泉に沈む。浮き上がってきた時が勝負だ。だが、ジジイが浮き上がるのに少し時間がかかっているようだった。もしや、水中で何かできたのか!?
「甘いわい!」
浮き上がってきたジジイは水中でクラーケンを召喚していたようだった。巨大なイカの魔物が姿を現す。そしてその上に乗っているジジイ。触手が俺に巻き付こうとしてくる。ハンマーとの相性はものすごく悪い相手だ。
「やれぃ! クラーケンよ!」
悪者の親玉のようなセリフをジジイが吐く。だが、俺はクラーケンの触手をなんとかかわすと唯一軟体動物のイカの硬い部分である嘴に下からハンマーを叩きこんだ。衝撃が脳に伝わり、一撃で沈むクラーケン。浮遊でクラーケンを乗り捨てるジジイ。
「ヨハンさん? なんであの人たちは本気で殺し合いしちゃってるわけ!?」
「うーん、何と言うか……ティナも食べたでしょ?」
「まさか……」
「そう、ヒビキがあとで食べようと思ってたプリンをライオスが食べちゃったの」
「…………あっ、今度はヒビキが石を投げ始めたわね。ハンマー届かないから」
「うーん、あの二人が喧嘩すると僕じゃ止められないからねえ。疲れるまで待つしかないんじゃないかなあ」
「その前にどちらかが死ぬんじゃなくて?」
「そうかもね。でもどうしようもないからねえ……」
「…………」
結局、騒動を聞いて駆け付けたミルトに怒られるまで俺たちは戦い続けたんだが、何故よりによってミルトに説教されるなんて事態になったんだ? こんな時にかぎってコスタは空気のようであったけども。
次回のお話は紬の嫌いな閑話的な話なんですけど、ないと物語進まんないし、仕方なくー