第24話:拘束
前回のあらすじ!
「エオラ! 私はあなたの全てを受け止めよう!」
「いりません!」
完全に話が嚙み合っていない二人の言い争いを聞いて、その場を静かに去るつもりの一向であったが、ミルトが盛大にずっこけてしまう。仕方なくオルガを吹っ飛ばしたヒビキだが、取り巻きの4人に手際よく回収されてどこかへ逃げて行ったオルガ=ダグハットは、ある事に気づいてしまった。
「じゃから、わざとではないと言っておろうに」
「ダメです! セクハラは1回500ゼニーですからね!」
「じゃ、ここに1000ゼニーあるからもう一回……」
「そういう意味じゃありませんっ!」
朝から冒険者ギルド内でイチャイチャしているジジイとティナを放っておいて、本日の探索計画を練る。ラウンジでは簡単な朝食が取れた。カウンターで一人お茶をすすりながらあれこれと考える。エオラはまだいいとしてもオルガ=ダグハットの襲撃には十分に備えて置く必要があった。そして第4階層のベースキャンプの件も片付いていない。エオラが邪魔をしなければ再度あそこにベースキャンプを作るのがいいだろう。俺たちが迷宮に潜るのをエオラはどう思っているのだろうか。
「ヒビキ様でしたら、いつでも来てくださっていいのですよ」
それはありがたい話だ。すくなくとも拒絶されていないという事が分かっただけでも心が軽くなる。
「私と話していると心が軽くなるんですか?」
いい情報はありがたい。エオラの事が解決してしまえば、あとはオルガ=タグハットである。あいつの襲撃に注意して、どこかで再起不能にさせてやらねばならない。だが、殺すのは避けたい。彼もこんな事がなければ人の役に立つ神官なのである。それもかなり優秀な。
「ですが、私は神官は嫌いです。頭が固い連中が多すぎですもの」
たしかに融通の利かない所は多い。前回のパーティーにいたオベールもそういう所がおおい奴だった。神官とは思い込みの激しい奴が多いのかもしれない。だが、それで救われる人も多いのは事実だろう。ティナも融通は利かないからな。
「今日は何階層まで降りる予定ですか?」
「そうだな、できたら第5階層を見ておきたいところだ。第4階層の地図ももうすぐできあがるし」
「でしたら、私の部屋に寄ってくださいな。最深部は第9階層ですけど、私、第5階層に普段はいるんです」
「ああ、是非とも…………って、エオラ?」
「はい? なんでしょうか?」
そこにはいつもの白のワンピースではなく、いつだったか酒場で出会った時の顔を隠したフードと魔術師のローブに身を包んだエオラがいた。パーティーの他の連中は全く気付いていないようである。
「あれ? いつからここに?」
「え? ヒビキ様が私にどう思っているのかと聞いてくださった頃からですけど?」
「あるぇぇ?」
落ち着け。落ち着くんだヒビキ。これはどういう事だ?
「前回、あの悪魔神官から私を守ってくださいましたよね」
いや、それは何か違う気がする。そして別に彼は悪魔神官ではない。
「お礼もできないまま、ヒビキ様は行ってしまわれたのでこうして会いに来たのです」
そう言ってじっとこちらを見つめてくるエオラ。見た目は20歳代の女性と言ってもいい。そして俺の好みドストライク。だが、中身はババ……。
「見つけたぞっ!! 貴様「予言の剣士」ヒビキだなっ!」
ギルド内に響き渡った罵声。それは王都神殿の神官長であるオルガ=タグハットのものだった。先ほど迷宮から出てきたらしい。夜は迷宮で過ごしたのだろうか。若干装備品に汚れが目立つ。
「昨日の攻撃を受けてはっきりした! 貴様のその杖! 実は何の魔力も乗せていないだろう! 条件反射で物理防御の防御を張ったために私は助かったが、貴様が魔法を使っていては何の効果もなかったはずだ! それが大きく威力を削がれたという事は! 貴様はゴダドールの地下迷宮を突破したヨハン=シュトラウツのパーティーの実質的リーダーである「予言の剣士」ヒビキに違いない!」
止める間もなくまくしたてられた。反論する時間もなければ隙もない。事実であるからだ。
「おい、「予言の剣士」って、あのフルプレートのか?」
「たしかにヒビキって名前だったな……あんな顔してたのか」
「待てよ、ゴダドールの間のアントシーカーとの戦いで戦死したんじゃなかったのか?」
「いや、でも「救国の騎士」ヨハン=シュトラウツが一緒に行動しているしな……」
まずい、迷宮都市ペリエにもいた連中が俺の事を知っていたようだ。ここで俺の正体がバレてしまってはまずい。
「おい、いくら王都神殿の神官長と言えどもギルド内で問題を起こしたら一般冒険者と同じように対処するぞ?」
いつの間にかツアがやってきていた。
「ギルドマスター。君もヨハン=シュトラウツのパーティーの一員だったな。「予言の剣士」を死んだ事にして何を企んでいる? 陛下はこの事を知っているのか?」
「論点をずらすなよ。ここで暴れるようなら拘束する。貴様らがいくら優秀な神官たちだと言っても俺らを舐めると痛い目を見るぞ?」
一触即発の雰囲気である。周囲をギルドの職員たちが取り囲みだした。中には職員に誘導されて入り口付近を固める冒険者たちもいる。
ん? ちょっと待てよ。このいきなりな状況で混乱したけれど、ジジイがゴダドールだとバレなかったら別に構わないんだよな。だとしたらいくらでも切り抜ける方法はあると思う。
「エオラ、あいつにばれると面倒だ。顔は隠したままで」
「分かりました」
エオラに耳打ちする。ここでオルガがエオラに反応すると話しがかなりややこしくなってしまうからな。
「オルガ=ダグハット。俺はお前の言う「予言の剣士」ではないが、物理炎の原理の一部を見破ったことは誉めてやろう。だが、俺の物理は筋力で作り出すものではなく物理的な力を生み出すオリジナルな魔法だ。貴様の対処法は正しかったが、魔法使いである俺が自分の筋力だけでお前を吹っ飛ばすことができると思うのか? それに俺が剣士だったとして、そこにいるコスタ=ウェリントンとの決闘はここにいる多くの冒険者たちが見ている。その「予言の剣士」とやらは魔法が使えたのか? ん?」
我ながら、かなりの屁理屈である。しかし、ジジイがゴダドールで俺の補助をしているという大前提を知らなければ、解答にたどり着くことはできないはずだ。
「うぐっ……」
「その前に、貴様はいくら王都神殿の神官長という立場にあろうとも、迷宮内で同じ冒険者である俺たちを襲撃した。ギルドマスター、拘束の許可を」
「怪我させるなよ」
「大丈夫だ」
「何? 私を拘束できるとでも思っているのか? ここにいるのは王都神殿の最精鋭だぞ?」
オルガと取り巻き立ちが武器に手をかける。オルガのモーニングスターは破壊したが、メイスの部分だけを外して使うようだ。だが、そんな事は関係ない。
「私はエオラに出会って更なる力を得た。この力がある限り、私の邪魔は誰にもできな……」
「黙れ、牢獄!」
さっきからジジイが後ろでひょこひょことこっちにアピールしてきてたんだよ。そして念話の魔法まで使って送ってきた計画がこれである。俺の詠唱に合わせて牢獄の魔法が神官たちを拘束する。かなりの魔力差がなければ成功する事のない魔法だ。だが、本当に唱えたのは魔術師ゴダドール=ニックハルトである。
「牢獄だと! そんなものが効くわけが……モガガ!?」
自分の魔力量を過信していたオルガ=ダグハットはその魔法に抵抗することもできずに拘束された。体が硬直して、その場に倒れこむ。
「オルガ=ダグハットに牢獄が成功した!?」
「なんて魔力量だ!」
「何者なんだ、あのヒビキってやつは……」
「どう考えても「予言の剣士」ではないな。だが、同じくらい凄い奴だ」
若干目立ってしまった。だが、このくらいは仕方ないだろう。牢獄で拘束したオルガ達をギルドの職員たちが縛っていく。詠唱ができないように口の中に何かを詰めているな。完了したところで牢獄を解く真似をした。ジジイが詠唱を止める。
「こいつらは王都に送り返す。すぐに戻ってくるだろうがな。ギルドの権力じゃそれが精いっぱいだ。せめて輸送には足の遅い老馬を使うこととしよう」
「それだけでも助かるよ。こいつらも王都神殿では人の役に立ってるんだろ?」
いつの間にかエオラがどこかに行ってしまっていた。まあ、その場にいたとしても説明が難しいのだが。
「ヒビキ! 大丈夫ですか!? 回復は1回20ゼニーですよ!」
「ヒビキさん! すごいです!」
ティナとミルトが駆け寄ってくる。ヨハンは隅っこの方でこっちを眺めていたようだ。酒場の反対側からゆっくり歩いて来るのが見えた。隠れてたな、こいつ。
そして……。
「さすが師匠です!」
という声が絶対かかるものと思っていた。だが、それはなかった。
「ゴダドールの再来」コスタ=ウェリントンは、何も言わずにじっとジジイの方を見ていた。
ネタ切れじゃい!