第23話:愛の告白
前回のあらすじ!
問題が山積みである中、ヒビキは気分転換に町の酒場へと繰り出した。
さっさと潰れて寝てしまうコスタを放っておいて飲んでいると、となりの席の女性に話しかけられる!
「ヒビキ様、エオラって呼んでくれないかなぁ」
こうしてヒビキはこれから先、エオラヒテ=アクツの事をエオラと呼ばなければならなくなったのだった!
「行きたくねえ……」
「なんじゃい、朝からそんな顔をして」
昨日の出来事をジジイに説明したところ、腹を抱えて笑われてしまった。とくに愛称の件がツボにはまったようだ。
「とことん、相性が良いのう」
「良いのだろうか……」
だが、エオラは見た目は可憐な少女であるが不死を使った老婆である。考え方などもそれなりに年を重ねた人物のそれなのではないだろうか。もはやそれは子供がどうとか関係なく越えられない壁だと思っている。
「ほらほら、そんな事を言っておっても迷宮に潜らねばならんのじゃぞ」
若干笑い過ぎで涙目のジジイに正論を言われてすこしむかついた。
「エオラヒテ=アクツも警戒する必要がありますけど、オルガ=ダグハットもですわよ」
他のメンバーにはあまり詳細ははなさずにコスタがつぶれた後に酒場にエオラが現れた話をした。すぐに転移で逃げて行ったから被害はないと伝えてある。本当は精神的にやられているけども、お互いに。そして現実的にはティナの言う通り、オルガの襲撃に備える必要があった。
「すでにオルガのパーティーは迷宮に潜っているようです」
コスタがギルドの記録を教えてもらってきた。朝早くから迷宮に潜ったそうだ。俺たちが迷宮に潜るのを中止したらどうするんだろうか。
「今、迷宮に潜るのをやめたらオルガは馬鹿だとか思ったじゃろ?」
「あ、分かる?」
「しかし迷宮には潜らないとだめなんだよう」
ヨハンが泣きそうな顔で言う。そうだ、こいつの任務のためにも迷宮を突破する必要があった。
「うう、仕方ない」
そして今日も迷宮に潜る。問題は解決していないが、正面から突破すると決めたんだ。
***
「この先で誰かが戦っているようです」
第1階層のすぐのところでミルトが言った。ちょっとした音も聞こえてくる。
「先行したパーティーのどれかだと思うけど、ちょっと戦闘の様相が激しそうですね。もしかしたら相手は魔物じゃなくて、パーティー同士なのかも……」
ミルトによると、第1階層では使うことのないような規模の魔法が炸裂しているようだ。とするとそれを使わねばならないほどの相手がいる事となり、それは魔物ではなければ冒険者同士の戦いではないかと。
「慎重に近づこう。第2階層までの階段までの道はそこしかないだろうからな」
最悪は第4階層までの滑り台から降りるという事を考慮しても良かった。いざこざに巻き込まれるのは勘弁である。
だが、そこには本当に予想外の光景が……。
「だから、立ち去りなさいと言っています! ヒビキ様の邪魔をする者は許しません!」
「何故だエオラ! 私はあなたと出会って分かったのだ! 私はこのために生まれて来たと! あなたこそが私の女神だ!」
「私をエオラと呼ぶな! だから神官は嫌いなんです! 火山!!」
「「「防御!!」」」
「エオラ! 私はあなたの全てを受け止めよう!」
「いりません!」
「…………」
「のう、お前さん、厄介な奴らに絡まれたのう」
「言うな、ジジイ」
遠巻きに見てみるとそこには知った顔の連中が戦っていた。迷宮の主の火山を集団による防御魔法で防ぎきる神官団と、その迷宮の主に愛の告白をしている神官長。なぜ戦いになっているのかは謎であるが、どうも一方的にエオラがオルガたちを攻撃し、オルガたちは防戦一方の割にはエオラが押されているようなよく分からない状況である。
「エオラ!」
「だから、あなたにそう呼ばれる筋合いはありません! その呼び方をしていいのはヒビキ様だけです!」
いつのまにやら俺だけがエオラをエオラと呼んで良いことになってしまったようだ。
「だが、見ろ! この神聖魔法を! あなたを女神として信仰することで私の神聖魔法は以前の倍以上の威力を持った! これは奇跡だ! 貴方こそが私の女神だ!」
思い込みが激しいと神聖魔法は強化されるらしい。
「ヒビキ様の邪魔をするあなたは私にとっての敵です!」
「あなたをその男の呪縛から解き放ってみせよう!」
いかん、完全に話が嚙み合っていない。そもそもエオラもオルガも思い込みの激しい性格をしてそうである。その二人の意見が合わないとこうなるという事は明白だった。
「なあ、迂回しよう」
「そ、そうだね」
後ろからその様子を見ていたヨハンたちにも同意を得る。あれに巻き込まれるのは勘弁だ。気づかれないうちにゆっくりと後退して滑り台から第4階層に降りてしまおう。第4階層の地図を書き直さないといけないしな。
「ぶべらっ!」
と、ここでミルトが盛大にこける。まあ、分かっていたんだが……。
「ヒビキ様!」
「貴様ら!」
そして見つかる。……ああ、もうどうとでもなれ。
***
「それで、とりあえずオルガ=ダグハットは吹っ飛ばして来たけど、モジモジするエオラヒテ=アクツはどうすることもできなかったから撤退してきたと」
冒険者ギルドのラウンジで拗ねているとツアがやってきた。顔のニヤニヤが止まらないようだ。
「もう……知らん……」
俺に襲い掛かるオルガ=ダグハットとそれを阻止しようとするエオラの火山、そしてその火山を阻止しようとする神官団の防御。さまざまな魔法が交差する中で俺の物理炎が最大限の効果を発揮したのは当たり前なのだが、オルガのモーニングスターの鉄球部分を砕き、もう一歩というところで鎖にからめとられてしまった。仕方ないので…。
「物理引力!」
と叫びながら鎖を力任せに引っ張るとオルガごと引き寄せられたので腹部に蹴りを入れて杖で下から打ち上げてやったのだ。だが、さすがに神官長、とっさに防御を唱えたらしく、神聖魔法の防御結界ごと吹き飛んでいった。あれを生身で食らえば死ぬしかないはずだが、多分生きてる。その神官長は取り巻きの4人に手際よく回収されてどこかへ逃げて行った。そして残ったのはモジモジしているエオラだけである。取り扱いに困ったから撤退することにした。
「しかし、ヒビキは魔法使いなのにオルガに蹴りを入れるとか体術もできるのね」
ティナが酔っ払いながら言う。あまりつっこんで欲しくない話題だ。
「さすがですぅ、師匠~」
コスタはもうそろそろ潰れる頃合いだ。昨日も酔いつぶれていたよね?
「面白い見世物じゃったのう」
「だめですよライオスさん、からかっちゃ」
「すまんのう、ミルト。じゃが、ミルトも顔が笑っておるぞ?」
「えっ!? これは、その……」
もういいよ、くそう。ジジイも手を貸さずに高みの見物してやがったな。
「まあ、とりあえずはオルガも撃退したし、エオラヒテ=アクツもこちらへ攻撃してくるような素振りがなかったから問題解決でいいんじゃないかな?」
ヨハン、パーティーの問題は解決したかもしれないが、俺の問題は山積みだ。
「明日からまた本格的に地図の作成に入ろうね」
ヨハンのパーティーは順調である。俺を除いて。
「おのれぇ、ヨハン=シュトラウツにヒビキとやらめ! …………待てよ、ヒビキだと?」
その日、迷宮の第2階層で野営をしていた神官団のパーティーでは傷を魔法で癒した神官長が何かに気づいたようだった。そしてこれが大きな事件のきっかけとなっていく。
ネタ切れ!