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第21話:世の理不尽

前回のあらすじ!


王都神殿神官長オルガ=ダグハット。彼は誰しもが次期教皇候補として認めるほどの男だった。

だが、そんな彼に危機が訪れる。それは予知見の巫女による王国崩壊の予知だった。

だが、オルガは知ってしまった。その予知見の真相を。そして葛藤が生まれる。


オルガ=ダグハット32歳、独身。必死に生きてきたために結婚の機会がなかったが、それをここまで後悔することになるとは思わなかった。彼は戦う。今まで人のために生きてきた彼が、初めて己の私欲のために全てを言い訳に塗り替えて、戦う。全身全霊を賭けて。


 殺気の込められた鋼鉄製の棒がかなりの速度で振り下ろされる。その握りの根本の部分には鎖が付いており、さらにその先にはゴツゴツとしたとげのついた鉄球と言うべき球体が繋がっていた。利き手である右手はメイスと呼ぶべき鋼鉄の棒を持ち、もう片方の左手は鎖を握って離さない。


 華美な装飾などは皆無である。機能性のみを追求されているそれは、相手を威圧するためにつけられている鉄球部分のとげであってすら落ち着いた形状をしている。だが、ひとたび性能を発揮すればそれらが全く必要とされない物だという事が分かるだろう。完璧に計算された重心と、どのような武器にも勝る耐久性、オリハルコンと数種類の金属の合金で作られているそれは、持ち主によってその性能を最大限に発揮された時に機能美と呼ばれる究極の美しさを現わす。

 もし、剣などで上段から斬り下ろされたときはこの鎖を張る事によってそれを受け止め、衝撃を少し和らげる事で鎖が分断されるのを防ぐ。更には反動をつけて剣を押し返してメイスの部分で反撃することも可能だった。さらに、それが避けられでもしたら……。


「ジジイ! 鉄球が来るぞっ! 避けろ!」

「無茶を言うわい!」


 ライオスの剣を鎖で受け止めた神官は、右手のメイスでジジイに反撃をした。なんとかそれを回避したライオスであったが、神官のメイスはライオスがいた部分の地面を大きく砕いており、その力が尋常ではないものを感じる。そして、戦士というのは敵に背を向けることが禁忌とされているが、この神官はあえてジジイに背を向けた。その違和感は鎖という物体を通して自身の遠心力を鉄球に伝わることで解消される。左手に持った鎖を大きな反動をつけて振り回したのだ。視界の外から迫る鉄球。ライオスが反応できていなかったら頭をかち割られていたであろう軌道で、かなりの質量の金属の塊が通過し、反対側の地面に大きくめり込んだ。不死イモータルを使っていなかったヨボヨボのジジイだったら確実にあの世に行っていた攻撃である。


「モーニングスターか……厄介な」

「風よ、我らの敵から我らを護り給え、風刃ウインドカッター!!」

「ええい、何でもありか!? 鬱陶しいわ!」


 あまりにも攻防に余裕のないジジイが剣で斬るしぐさをしながら風刃ウインドカッター魔法障壁マジックバリアでかき消す。傍目にはジジイの剣が魔法を撃ち消す何かが施されているかのように見えた。


 完璧なタイミングでの奇襲だった。それを察知できていたのはちょっとした幸運と、事前に手に入れていた情報のためだろう。


「まさか避けられるとはな」

「もうちょっと余裕があると思っとったんじゃがの」


 明らかにヨハンを狙った奇襲だったのも情報通りだろう。俺たちがこの迷宮の最深部に到達するのを邪魔しに来たという情報だ。


「人を後ろから襲うなどという事はしたことがないものでな」

「その割には手際が良かったのう」


 ぱっと見た目はこいつらが僧侶であるなどとは思えない身なりをしている。しかし、ところどころにそれなりに高価な装備を身に着けており、ただの冒険者ではない事は明らかだった。


「まさか、本当にオルガ様ですの!?」


 ティナの叫びに後ろに控えていた数人の中から舌打ちをした音が聞こえる。オルガという神官の素顔を知っている者がヨハン以外にいるとは思わなかったのだろう。そしてその顔は仮面で隠れているというのにだ。


「ほう、私が襲ってくるという事がバレていたか。まだ精進が足りないな」


 そういうとオルガは仮面を外した。


「本当にオルガ殿だね」


 ヨハンがその顔を確認する。となると、ツアが仕入れて来た噂は本当だったのだろう。


「……そんなにあのぶっさいくな巫女様と結婚するの嫌なんだ」

「うるさいっ!!」 


 さきほどまでの涼しい顔が一変し、オルガが必死の形相でモーニングスターの鉄球をヨハンへと投げつける。それを俺のオリハルコンの杖で叩き落とした。


「えっと、物理フィジカル!」


 危ない。詠唱を忘れるところだった。



「何なのだ! 貴様は! どう見ても騎士としての実力はそれほどでもないというのに、その不思議なパーティーメンバー! さらにはゴダドールの地下迷宮を突破するほどの実力ある者たちとの繋がりは!?」


 完全に余裕をなくしたオルガがわめきたてる。後ろの取り巻きも奥歯を噛み締めて何かを耐えているようだった。……そんなに予知見の巫女はブサイクなのか。


「人は見た目ではないっ! だが、中身も伴っていないというのはどういう事だ! 何故神はあのような者に歴代最高のっ……!」

「オルガ様っ! それ以上はなりません!」


 後ろから羽交い絞めにされるオルガ。ちょっと見てていたたまれなくなってきた。


「ええいっ! 離せっ! 私はお前が許せない! ヨハン=シュトラウツ!」




 あれから、ギルドでウジウジしててもしょうがないという事でエオラヒテ=アクツの警戒をしつつ迷宮の様子を探る目的で第1階層にだけ潜ってちょっとした採取の依頼をこなそうという事になった。コスタが頑なに酒を飲ませてくれなかったのもあって、依頼をこなして早く飲もうとジジイと相談した結果だった。


 だが、ツアがもたらした僧侶の集団がヨハンの事を嗅ぎまわっているという噂、そして王都での情報を合わせた結果の予想。結果としては全て合っていたのだが、一つ誤算があった。

 それはオルガ=ダグハットの余裕のなさである。ここまで取り乱すような人物とは言われていなかったのだ。だが、実際に奇襲してきたオルガは感情に任せた攻撃を行い、ジジイにそれを防がれていた。そしてこの攻防である。近距離、中距離、遠距離と全ての間合いで攻撃が可能である万能僧侶が、攻めの決め手に欠ける攻撃しかできなかった。だが、それはすぐに理由が分かることとなる。


「オルガ様! 落ち着いて下さいっ!」

「ええい、これが落ち着けるか!?」

「お気持ちは分かりますが!」


 部下に制止されるほどの錯乱状態である。


「な、なんか僕、そんなに悪いことしたかなぁ?」


 ヨハンにはそこまでうらまれる身に覚えがないようだった。


「あ~、なるほど……いや、でも……」


 コスタが何かを思いついたようである。


「どうした? 何か分かったのか?」

「いえ、師匠。あくまで予想なんですけど……」

「うおおおぉぉぉぉ!!! 離せぇぇぇぇぇぇええええ!!!!」


 イケメンの僧侶が取り乱す。ちょっと哀れだ。



「多分、こっちのパーティーに超美人のミルトと顔だけはまともなティナの二人がいて、彼の中で何かが弾けたんじゃないですか? まあ、ミルトに関しては僕に矛先を向けるべきなのですが」


「なぜぇぇ!? 私の周りにはむさくるしい男とブサイクな巫女しか集まらぬのだぁぁぁぁ!!! ヨハン=シュトラウツめぇぇぇぇえええええ!!!」



 辺境の迷宮の第1階層に次期教皇候補の将来有望な神官長の叫びが広がったが、俺たちはものすごい疲れを感じていた。

ネタ切れ!

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