第17話:白のワンピース
前回のあらすじ!
コスタ=ウェリントン。あの冒険者ギルドの一件からずっと俺たちに付きまとっている。
「しつこい」
そして未だにミルトには嫌われている。憐れ
第4階層に来ている。ここはもともとホブゴブリンの集落があった場所だ。ホブゴブリンはジジイが以前に殲滅した。
「なるほど、ここを拠点とするわけですね、師匠!」
コスタがはしゃぎまくっている。色々と問題もあるやつであるが、パーティーに無理矢理加わってから戦力としてもその他にも役立つ事も多く、助かっているのは事実だ。ミルトが嫌な顔をしているのと、たまにティナと喧嘩する事に目を瞑れば。
「魔法に対する姿勢は「ゴダドールの再来」じゃのう」
とジジイからお墨付きを頂くほど、魔法を極めようとする姿勢が強い。実際にあの年ではありえないほどに色々な魔法を習得しているし、魔力量もかなりのものだった。一般の冒険者の中に混ざれば一流と言われていてもおかしくない。
「さて、今後はどうしていけば良いのやら」
「隠し通すのも難しいかもね」
「ワシはどっちでもいいぞ?」
ジジイがゴダドール本人だとばらし、俺の本職が戦士だと言うのは簡単だが、その情報が少しでも漏れれば俺たちだけではなくヨハンのパーティー全員に迷惑をかけることになる。何せゴダドールを生かしたまま放置しているのだから。実際はジジイが暴走しないように見張っているという役割をこなしているつもりだが。
「やはり隠し通せるのならば隠しておいた方がいい」
「そうだよねえ。王様とか怒りそうだもん」
「王国の騎士団なぞが来ても返り討ちじゃがのう」
「だからダメなんだよ。大人しくしてろ」
物騒な話になってしまった。だが、今ここにいるのは王国のためであるはずだ。多分。
「第4階層にベースキャンプができて物資の補給とかができればかなり探索が楽になる。今日はここの拠点で実際に夜を過ごして問題がないかを確認するんだ」
そのために皆にはたくさんのキャンプ用品を運んでもらっていた。ヨハンの荷物なんかあり得ないほどである。そしてその荷物の中から本日使うものをてきぱきと用意しだした。
「まずは水源の確保かな。ないなら水の魔法を使える人を常駐させないといけないからね」
「毒とか健康面を考えるとそっちの方が安心なんだけどな」
「魔法は有限だから」
その魔法使いがいなくなったら生活できませんでした。では、洒落にならないというのだ。ごもっともである。
「こんな事はほとんどデイライが上手かったから、全部まかせっきりだったなぁ」
「僕も手伝ったんだけどね。デイライは本当にサバイバルには強かったよね」
狩人の仲間であったデイライはその道のプロだった。どんな状況下でも食料と水がなくなる事はなかったし、第9階層のベースキャンプはほとんどデイライが作り上げたと言っても過言ではない。安全性の面からしてもあれほどの物はそうそう作る事はできないだろう。巨人族が襲来した場合でもすぐに迎撃できるように周囲に張り巡らされた罠は、引っかかった魔物たちには気づかれない状態でこちらにだけ近づいてきていることを知らせる事のできる優れものだった。
「問題はここをどれだけの魔物が通るかだ」
ベースキャンプにしたところで魔物の発生場所のすぐ近くでひっきりなしに襲撃を受けていたのではたまったものではない。せいぜい1日に1回程度。できたら魔物をやり過ごす事のできる場所が必要だった。
「ねえ、ヒビキ。ここを全部使うのかしら?」
ティナが聞いて来る。ベースキャンプというものがどういう物か分かっていないためにいまいち想像ができないようだ。
「いや、魔物とかから分かりにくいところに設置するんだ」
「じゃあ、あの奥とかがいいんじゃないですか? 少し入らないと中が見えないようになってますし!」
「さすがはミルトだ! 僕の選んだ人だけあるよ!」
「きもい」
1日に数回、コスタは玉砕するが全くへこたれる様子がない。この精神力はある意味すごい。
「うん、いいんじゃないか? できたら攻められた場合に逃げることができる道がもう一つあれば言う事ないんだが、まあギルドの職員が強ければ問題ないだろう」
この階層に出る魔物で最も強いのはオーガである。そしてホブゴブリンだ。この2種類以外はまったく大したことはない。ホブゴブリンはジジイがこの集落を殲滅してからというものほとんど見ていなかった。召喚とかではなく純粋に繁殖していた可能性が高い。オーガはもともとの数が少ないのだろう。今日は全く見かけていなかった。
「この階層にもホーンラビットがいるし、水が確保できたら食料には困らないだろう」
近くに地底湖がある。水の確保も特に問題なさそうだった。水路を引くかどうかはまた検討が必要である。
「ヨハン、やっぱりあれが必要だ!」
ベースキャンプの候補場所はなかなかの所だった。もともとのホブゴブリンの集落が廃墟になっているのだが、その奥まった場所に外からでは見えづらい空間があったのである。生活するには不便であったらしくホブゴブリンたちが使った形跡はなく、ただの空間といった感じだったが、後面は壁にかこまれ、入り口の近くには岩があって出口は2か所だった。これならば片方から攻められても最悪はもう片方から脱出する事ができる。水源は近くの地底湖まで取りに行ってもらうしかないが、死角となる廃墟や岩も多いためにそこまで心配する事はなさそうだった。オーガ1匹くらいならば走って逃げれば撒けるような地形である。
「そうだね。やっぱり、あれだね」
ゴダドールの第9階層で威力をもっとも発揮したものがある。ここも迷宮の中だった。つまりは雨が全く降らない。
「ベッドだ!」
ゴツゴツした床に布を敷いて寝るなんて体力が回復するわけがなかった。見張りを置いて皆でベッドで熟睡したからこそ、ゴダドールの地下迷宮は突破できたのである。
「お前さんらはワシの家に勝手にそんな事しとったんか」
「主のくせに知らんかったんかよ」
「いちいち家の中の様子を見て回るわけるまい。広いんじゃぞ?」
迷宮の主は色々な事ができるくせに、監視カメラのようなものはできなかったのか。
「いや、やろうと思えばできるぞ?」
監視カメラの説明にちょっと時間をとったが、ジジイの説明はそんなものだった。ただ、監視カメラを眺めたところで面白いものがとれるわけでもなければ侵入者の悲惨な状態が見えるだけということでジジイは全く興味がなかったらしい。最深部まで、誰かが降りてきても別にどうでも良かったのだとか。意外にもカマッテチャンだしな。
「ここの主がしてないとは限らないがのう」
この一言はのちのち忘れられなくなる。この時、おそらく迷宮の主は俺たちの事を見ていた。ベースキャンプが完成間近になり、あとはベッドをどうするかと考えていたころ、そいつは現れた。
「立ち去りなさい」
純白のワンピースに深緑の宝石をはめ込んだ杖。裸足なのは浮遊の魔法を常時使っているからだろう。ストレートで真っ黒な髪と黒い瞳は、前世の日本であったならば珍しくもないものであったが、こちらではほとんど見かけたことがない。
「もう一度言います。立ち去りなさい」
戦士の俺にすら分かる魔力が彼女の周りを覆っている。おそらくはわざと放出させているのだろう。華奢な体には不釣り合いな殺気が、俺たちを包む。気圧されていないのはジジイと俺だけだった。だが、俺はそれ以外の事を思っていた。
「そうか。そういう事か」
俺の中で全てが繋がったのはこの時だった。実は全然繋がっていなかったのだけれども。
ネタ切れ!