第16話:ゴダドールの伝説
前回のあらすじ!
コス「よく聞け! このコスタ=ウェリントンは世間から「ゴダドールの再来」と呼ばれているのだ!」
ライ「…………(なんてこったい、よりによって)」
ヒビ「ぶふぅ!!!!」
ツア「……腹痛い」
「光源」
光が俺の右手から溢れてきて球体になる。それがポウッと音をだして上空にあがると周囲を照らした。自分の意志である程度の距離を移動させることができるのが分かる。
「ようやくできおったか」
「ふふふっ、自分自身から溢れる才能が怖いぜ」
「炎と光源しか使えんくせに。才能は皆無じゃのう」
「うるせっ」
第2階層はレンガ造りの迷宮だった。ところどころに通路と広間があり、広大な面積が魔物の巣と化している。
「こういう通路は書きやすくていいねえ」
「実は直角に曲がってない通路とかもあるから気をつけろよ」
ヨハンの地図作成も順調である。
「ミルト! あなたまたその罠にひっかかるつもり!?」
「あぁ、ごめんなさい!」
「盗賊なんだから、しっかりしなさいよ!」
光源で照らし出された床に罠があったのをティナが見つけた。それを踏もうとしたミルトを止める。本来は立場が逆なんだがな。
「ティナよ、そんなに大声をだすと魔物に気づかれるのじゃぞ?」
「あっ、ライオス。ごめんなさい」
そしてジジイの言う通りに通路の向こうから集団が近づいてきている音がしだした。
「ふむ、仕方ないのう。ここはワシが……」
ジジイが剣を抜く。今日は腰の調子がいいみたいだ。しかし、その剣が使われることはなかった。
「火炎爆発!!」
20匹をこえるゴブリンたちが焼き尽くされていく。断末魔の声と肉の焼ける臭いがかなりきつい。
「どうです!? 師匠!」
いやいや、待て待て。お前はなんでしれっと俺たちのパーティーに加わってんだ?
「師匠には負けましたが、僕は「ゴダドールの再来」と言われる魔術師ですからね!」
コスタ=ウェリントン。あの冒険者ギルドの一件からずっと俺たちに付きまとっている。
「しつこい」
そして未だにミルトには嫌われている。
***
「依頼?」
「そうだ。ギルドが依頼料を払って様々な物を迷宮に取りに行ってもらうんだ。その中には迷宮でしか採取できない物もあれば、強力な魔物の素材というのもあってな」
冒険者ギルドは王国からかなりの額の補助金が出ている。それを使って冒険者のレベルを上げるというのがツアに課せられた使命だった。だが、ツア本人はそんな事しなくても俺たちが最深部まで到達できると考えているようで、更にその先を見据えるのだとか。よく分からん。
「単に買い取るだけではなく期限をつけて、その分高額で依頼を出したほうがお互いのためになるんだよ」
「まあ、冒険者たちからすればそうか」
今でこそ金の心配はなくなっているが、ゴダドールの地下迷宮に潜り始めの頃は金欠が続いたもので、ヨハンの貯金を切り崩して装備や生活費をなんとかしていた。その時にこのような依頼があればもう少し楽に金稼ぎができたかもしれない。
「王都と連絡を取って迷宮から取ってきてほしいものを募ってもらっている。ゆくゆくはギルドに依頼が直接来るようになれば冒険者ギルドは独自の経営ができるようになるな。国からの補助金も永遠にあるわけがないし」
「ああ、そうか。なるほど、分からん」
ツアの説明を聞いたがいまいち理解に苦しむ。
「つまりは、その「依頼」とやらをこなして金をもらえばいいんだな?」
「ああ、まあ、そうだな」
なんだよ。頭使うのは苦手なんだよ。
「それで、何の依頼を受けたのじゃ?」
「ああ、まずは適当にツアに選んでもらったんだけど、まだ目を通してねえ」
ツアにもらった羊皮紙の束を渡す。依頼を数件見繕ってくれたと言っていた。俺たちのパーティーの事を分かっているだろうから無茶なものはないだろう。
「ふむ、ポイズンマッシュルームの採取……この前第3階層で食った奴じゃな。それにオーガの角か。第4階層に行けばなんとでもなるじゃろ。そして……? 第2階層の地図の作成。おい、第2階層の地図は渡さないんじゃなかったんか?」
「あれ?……ツアの野郎!」
「まあ、よろしくなくって? 依頼料も8000ゼニーですわよ」
「これだから守銭奴は。第2階層とはいえ地図がその程度の値段だと安すぎるだろうが。それにお互いに敬意を払っているとは言え冒険者同士はライバルだ。情報はそんな安いもんじゃないぞ?」
ティナの話にコスタが噛みつく。そして喧嘩が始まる。最近のおなじみの光景だ。というよりも君らしれっと俺たちのパーティーに潜りこんでいるよね?
「だいたい魔法使いは足りてますのよ! 前衛がライオスしかいないじゃないですかっ! あなたみたいな二流はお呼びでなくってよ!」
「二流じゃないっ! 師匠が超一流なだけだ!」
「喧嘩を売って負けた相手の弟子に志願するなんて、どういった頭の構造をしてるの? 恥ずかしくないのかしら?」
「自分よりも優れた相手に教えを乞うことを恥ずかしいと思った事なんて一度もないね。それよりも自身の魔法に1回20ゼニーだとか言っているほうが恥ずかしいに決まっている!」
「なんですって!?」
「まあまあ、喧嘩はそこまで!」
ヨハンが2人を止める。一応2人ともにヨハンには敬意を払っているようだったが、魔物と戦わないのを見ていて複雑な表情もしている。その内バレるだろう。単純に臆病なだけだと。
「とりあえずはミルトが発見した滑り台から第4階層に降りて、戻ってくるってルートで探索に行こうか。もうかなり詳しくなったから半日あったら帰ってこれるよね」
第2階層の地図の製作も順調であり、第3階層は一つ一つの空間がデカい分、地図はあっと言う間にできそうだった。罠も少ない。そろそろ第4階層の探索に着手してもよさそうである。
「おし、とりあえずそれで行こう」
というわけで俺たちは第4階層でオーガを見つけて倒したあとに第3階層でポイズンマッシュルームを採取、第2階層へと帰ってきているのだった。
「いや、弟子はとらないからね」
俺がコスタに教える事のできるもんなんてない。ジジイに聞け。
「ダメです師匠! それほどの魔法の腕を後世に伝えないのはもはや罪です!」
ジジイが横で胸を押さえている。思い当たる事しかないのだろう。
「もしゴダドールが弟子を取っていれば、彼の功績は後世に永遠に語り継がれることだったでしょう! 未だに彼にしかできないと言われている魔法も多く、雷撃を初めとして歴史の闇に葬られてしまった魔法が多くあります! だからこそ、彼は魔法使いの中では批判の的とされるのですが、その功績は……」
「雷撃なら、ヒビキも使えるわよ」
……ティナ、話をこじらせる天才か?
「は? いや、師匠ならば……」
もはや少年の目で俺を見るコスタ。そして本当に使えるはずのジジイはさきほどのコスタの演説でライフポイントがゼロの状態となって地面にめり込んでいる。
「師匠! 是非! 是非! 僕にも雷撃をみせてくださぁぁぁぁいぃぃぃ!!」
ええい、うっとうしい! ひっつくな!
「おい、ジジイ、どうすんだよ?」
「知らぬのじゃ、もう何もかもどうでもいいのじゃ。どうせワシが悪いのじゃ……」
やばい、ジジイの精神がもちそうにもない。
「コ、コスタ。それよりもゴダドールの事をあまり知らなくてな。良ければ教えてくれないか?」
ゴダドールの信者ともいうべきコスタであればジジイの機嫌が治るほどの話をしてくれるだろう。だが、このお願いは完全に失敗だった。
***
「……ですので彼は……」
あれから数時間経った。すでにジジイ本人も含めてコスタの話をきちんと聞いている奴はいない。ヨハンがせっせと地図を作成する中、コスタは地上に帰ったあともゴダドールの伝説を語り続けたのだった。
「しつこい!」
「ミルト? なんで怒ってるんだ?」
ネタ切れ!