第14話:第1階層の地図
前回のあらすじ!
武器屋で新たな杖を特注したヒビキ。材料はオリハルコンでありかなりの値段であったが、特殊な魔法の負荷にも耐えられるに違いない! 特殊な魔法の! 魔法の!
「まあ、どうみてもハンマーだな」
「いやいや、杖だ。魔石埋め込んであるし、握りの部分も違うし」
購入したオリハルコンハンマーは、その貴重な鉱石を使うために他のハンマーと違って頭の部分が小さくできていた。柄の芯にも使用されているオリハルコンはそこまで多量に使わなくても強度は十分らしい。というよりも希少なためにそんなに使えない。重量ではなく速度で振り回す、今の俺にぴったりのハン…………杖である。そしてその頭の部分に魔石を埋め込んだため、これは立派な杖として生まれ変わったのである。
「いやいや、無理があるぞ」
「うるせえ、文句があるならギルマスの豊富な資金で特注品作れ」
ギルドでできあがった杖を受けとる時にツアに小言を言われるが無視する。誰が第3階層のサーベルマスティフを倒して、第4階層のホブゴブリンの巣とオーガをなんとかしたと思ってるんだ。そして、そんな事になったのはツアが紹介したミルトのせいなんだぞ?
「今日は第1階層の地図を作るんだって? ミルトに聞いた」
「一昨日もそのつもりだったんだよ」
いくらミルトでもあの罠にはさすがにもう引っ掛からないだろう。多分。
「詳細のができあがったら買い取ってやるよ」
「売るとしても第1階層だけな」
「いやいや、そんな事言うなって」
「ダメだ」
いらない情報は流さない。ツアもゴダドールの地下迷宮に潜っていた時には同じ意見だったくせにギルマスになると手のひら返しやがって。立場が人を変えるとはよく言ったものだ。
「そんじゃ、今日は第2階層には降りずに第1階層を重点的に探索していくぞ」
「まだちょっと腰が……」
ジジイの腰は微妙に治ってないようだ。回復魔法は山ほどかけたというよりかけられたらしいが。
「第1階層だからそんな大変な戦闘にはならんよ」
俺の物理炎もあるしな。
「じゃあ、頑張って行きましょう!」
ミルトよ、あの罠だけは絶対に押すなよ。絶対だぞ!?
「知ってるんじゃぞ? それは前フリというやつじゃな?」
ジジイがアホな事を言っているが無視して俺とヨハンは第1階層の地図を作り出している。前回ミルトが発動させてしまった罠の周辺には近寄らないつもりだ。絶対押すなよと言うと押したくなるジジイがいるからな。
「こんな事をしなくてももっと深い階層で魔物を討伐すればよろしいのではなくて?」
ティナが言う。確かに金が目的ならばその方がいいのかもしれない。
「まあ、これを全ての階層で行うんだ。それが後からものすごい効果を生み出すんだよ」
ヨハンが経験を元にして言う。ゴダドールの地下迷宮を突破した「救国の騎士」が言うんだから説得力があるはずだったが、前回の探索で全く戦おうとしなかったヨハンはちょっと疑われていた。
「本当ですか? ライオスさんやヒビキさんが言うならそうなのかもしれないですけどね」
そして俺やジジイの事は前回のパーティーを裏で支えた仲間だと勝手に勘違いしていた。実力的にはそれ以上なんだけどな。
「でも、こんなに細かく描いていくんですね」
ヨハンの作成する地図はかなり細かい。盗賊のミルトが驚くほどである。その書き方を開発したのはヨハンであって俺ではないのだけれども、どういう趣旨で地図を作成するのかをきちんと理解しているからこそ描くことができるのだろう。この地図があれば初心者パーティーですら、ある程度は安全に潜る事ができるほどである。
「すでに冒険者ギルドの地図があるから楽だよねー」
ゴダドールの地下迷宮の深い階層では誰も到達した事のない領域ばかりだった。どんな魔物が出てくるかも分からず、不意打ちに会う事も多く、そんな中で地図を作成したのだ。あの経験はどのパーティーにも勝る。そして戦力を完全に把握した俺たちは第12階層以外ならば慌てることなく進むことができるようになり、ゴダドールの間へと到達することができたのだった。第12階層ともなれば1日では到達不可能な距離だったりするしな。途中で夜を過ごす必要もあり、安全な場所の確保が最優先だった。第9階層にベースキャンプを張ってからが、探索が加速した。ここでも同じようなベースキャンプが必要である。
「第4階層のホブゴブリンの巣は意外とベースキャンプに使えるかもよ?」
「たしかにな。あれが召喚で沸いて来るような魔物じゃなかったら防衛にも使える壁もあったし、こっちの迷宮ではベースキャンプとしてギルドの人間に常駐してもらうってのが一番いい。落とし穴からすぐの場所だし」
ヨハンの考えではミルトが発動させた落とし穴を第4階層までのショートカットとして使ってしまおうという事らしい。そうすれば第2、第3階層を通って荷物を運ぶ必要がないからベースキャンプに必要な物資を運び込むことができる。帰りは知らんけど。
「当面は地図の作成とベースキャンプの設営か? 難儀なことじゃな」
ジジイが興味を失い出した。ジジイの性格には合わないのだろう。
「ライオスさんも手伝ってくださいね!」
「うむ、ミルトのためなら頑張るぞい!」
しかし天然のミルトが上手い事誘導している。そのつもりがないからこそジジイも簡単に引っかかってるな。このまま放っておこう。
「丸1日かかったけど、なんとか第1階層は全部描けたね!」
ヨハンが作成した地図を持って笑っている。地図を作る際中にも何匹かの魔物が襲い掛かってきたが、俺の物理炎の前に倒れることとなった。ホーンラビットはヨハンによって今は目の前で美味そうな串焼肉に変化している。
「やっぱり階層ごとに特色が違うのは、主がそうやって作ったからなのかな?」
第1階層は洞窟のような空間が広がっており、第2階層になるとレンガ造りの迷宮だった。第3階層にいたっては樹木と草原の空間であり、第4階層は地底湖というところか。
「たぶん、わざとじゃな」
迷宮に詳しいジジイが言うのだから間違いないだろう。
「さあ、一旦地上に帰ろう」
酒が飲みたくなってきた。
***
ギルドに戻った俺たちはツアに地図の写しを売りつけに行った。
「5000ゼニーってところだな」
「5000ですって!?」
もっと安いと思ってたティナが変な声を出す。
「あれ? 足りんか。じゃ、6000ゼニーでどうだ?」
「……ああ、いいぜ」
6000ゼニーを皆で均等に分ける。これでミルトやティナからすればかなり高額な収入らしい。
「いやいや、一昨日はもっと儲かっただろ?」
「あれはサーベルマスティフとかかなり危険な相手でしたのよ!? 今日は第1階層をうろうろしていただけではないですか!?」
ティナの言い分も分からんでもない。でも……。ヨハンがティナに説明してくれる。実は俺もよく分かってないけどな。
「よーく、考えてみてよ? ギルドの地図って1枚いくらだと思う?」
「え? 400ゼニーくらいでしたけど」
「そう。第1階層分が400ゼニーなんだ。まだ他の階層は詳しく描かれてないから安いけど。で、これからが本題。このギルドにはどのくらいのパーティーが活動していると思う?」
「……だいたい30~40ってところですか?」
「そのくらいだね。入れ替わりも激しい。じゃあ、年間に新しく来る冒険者のパーティー、つまり地図を買う奴らはどのくらい?」
「100を超しますわ」
「100×400で40000ゼニーだね。信頼できる詳細な地図に6000ゼニー払った所でむしろ安いくらいだと思わないか? 第1階層はほぼ全員が買うから実際はもっと売れてるし。ギルドにとっては第1階層を安全に探索してもらったほうが危険が少なくていいし」
「あ……」
これは迷宮都市ペリエのギルドでも使った稼ぎ方法の一つである。既に沢山の冒険者が降りてしまった第4階層くらいまでの地図はこうやって売りつけたのだ。第5階層から下はあまり他のパーティーには知られないようにしていたけども。ヨハンはその辺の計算とかが意外とできる。
「さあ、お金も入ったことだし、お酒でも飲んでゆっくりしよう」
すでにジジイとミルトは2階にあるラウンジに先に行っていた。俺も早く酒が飲みたい。だが、ラウンジでちょっとした騒ぎが起こっているようだった。
「おのれ貴様! 勝負だ!」
「なんじゃ、鬱陶しいのう」
あれ? どっかで聞いた事のあるジジイの声なんだけど?
ネタ切れ!