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第92話:森の中へ

 森がギリギリ見える所で止まり、休んでいた1番と3番チームが騎士と共に森に先行する。


 その間俺達は馬車付近で、待機兼休憩の時間となる。

 

「ここまでは何も起こりませんね」

「そうですね。ですがもしも、ミリーさんに調査をお願いしていなかった場合、森の中で大変な事となっていたでしょう」


 俺の持っている物資の中には中級のポーションがあるので、打撲や骨のヒビ程度ならばすぐに治す事が出来る。


 ミリーさんが言っていた通りの魔物しかいないなら、この中級ポーションで事足りる。


 今回の護衛を通して、色々な事を知ることが出来ている。


 この経験は王国へ行く時に、必ず役立つだろう。


「そうですね。……そう言えば、エメリッヒ様ってどんな人か見ましたか?」

「いえ。見ていないですね」


 メイドは馬車の御者をしているので分かるが、執事とエメリッヒはあまり外に出ていないので、出発してから一度も顔を見ていない。


 エメリッヒに限っては、出発の段階で顔すら見ていないがな。


「結構可愛らしい顔立ちでしたよ。確か今年帝都かホロウスティアの学園に入学するとか」

「そう……ですか。まだお若いんですね」

「はい。それと、結構な天才らしいってお父さんが言ってました」


 普通に二十代か三十代くらいと思っていたが、まさか子供だとはな……。


 どう考えても今回の遠出は悪手だろうに、何で受けよと思ったんだ?


 公爵家ならば王国の件についてそれなりに情報は持っているだろうし、自衛も難しい子供を外に出すとは…………。


 ――ふむ。ミリーさんの忠告を踏まえて考えるに、もしやこの体験入団が囮なのか?


 いや、それならば何も起こらずに終わる可能性の方が高いだろうし、一々ミリーさんが忠告してくる必要も無い。


 …………もしや思いの外、色んな思惑が交差しているのだろうか?

 

「天才ですか。それでしたらホロウスティアの将来は安寧ですね」

「はい。ただ、どうしてこんな事に付き合っているんでしょうね? 入学まで後ほとんどないので、忙しくないのでしょうか?」


 本当だよ。態々こんな馬鹿な事をしないで、大人しくホロウスティア内で待っていれば良いんだよ。


 何も知らなければ不思議と思う程度で済むが、裏事情を知っていれば、面倒事の匂いしかしない。


 これだからお偉いさんってのは嫌いなんだよ。


「入学前の息抜きかもしれませんね。学園は忙しいのでしょう?」

「うーん。忙しいと言えば忙しいですね。勉強も大変ですし、訓練とかもありますから」

「なるほど。教えて頂きありがとうございます」 


 訓練が普通にあるってのが、流石異世界って感じだが、日本で言う部活と考えれば納得できる。


 勉強と部活の両立は大変であり、良い学校程著しい。


 俺も中学高校では陸上部で、大学はテニスサークルに所属していたが、結構暇のない生活をしていた。


 大学の場合はバイトをしていたのもあるが、丸一日休み何てほぼ無かったな。


 さて、ここまでミシェルちゃんと普通に話しているが、現在ミシェルちゃんは俺の横にピッタリくっ付いている。


 一応休憩だから良いだろうが…………やれやれ。


 それから一時間程待っていると、森に向かっていたチームが帰ってきた。


 鎧には血が付着しており、魔物と戦ってきた事が分かる。


 この後の日程は…………昼飯を食べた後に、森に入るエメリッヒの護衛だな。


 確か1チームが護衛に付き、残りの3チームは森に展開して、異常が無いか探る役割をするとかなんとか。


 その後は森の中で一泊して、明日昼くらいに帰る流れだったかな。


 森に入ってからが本番となる訳だが……ミリーさんの忠告が外れるわけないよな…………。


「今から一時間休憩とする! 各自、昼食を食べた後に集合するように!」


 ピリンさんの号令で、昼食の時間となる。

 

 これ以上ネガティブになるのもあれだし、飯を食べて気分を変えるとしよう。


「それでは、お昼を頂きましょうか」

「はい!」


 五人で集まり、物資から食料を取り出して渡す。


 異世界と言えば干し肉とパンとかだが、お湯を注いで作るカップヌードル的な物が用意されている。


 流石実験都市ホロウスティアだと、感心させられる。


 






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「集合したな。分かっていると思うが、これから森に展開するチームと、護衛するチームに分かれてもらう。チームは公平性を重視し、エメリッヒ様に選んでもらう」


 昼食を食べてから少し休んでから集合すると、馬車から執事と少年が降りてくる。


 俺以外からしたら、公爵家とお近づきになれるチャンスかもしれないが、これは罠なのだ。


 もしも護衛チームとなれば、襲われる可能性はかなり高い。


「諸君。ここまで護衛の任務ご苦労。僕と共に森に入るチームだが……」


 ぐるりと全員を見渡したエメリッヒは、ミシェルちゃんの所で視線を止める。


「そこのチームにしよう。他の者達も離れてしまうが、宜しく頼む」


 ……さてはこいつ、女好きか?


 どう見ても一番弱そうなチームを護衛に選ぶ理由なんて、それくらいしか考えられない。


 ミシェルちゃんは可愛らしいと言っていたが、どう見ても小生意気な顔にしか見えないな。


 剣を携えているので、戦うことは出来るのだろうが、期待は出来ない。


「よし、4番チームは残り、残りは森に散開しろ。位置や流れは騎士と確認し、何かあれば冒険者を頼ると良いだろう」


 他の3チームは先に森へと向かい、少し待ってから俺達も出発する事になるのだが、待機している俺達の所にエメリッヒが近寄ってくる。


「知っていると思うが、僕はエメリッヒ・プライドだ。改めて今日はよろしく頼む。良ければ、全員の名前を教えてくれないか?」

「わ、分かりました!」

 

 そこは承知しましたと言うべきだろうが、緊張してしまっているミシェルちゃんでは難しかろう。


 ミシェルちゃんから始まり、リーザン。ドリン。バザニア。俺の順番で自己紹介する。


 俺を見るエメリッヒの視線が妙だが、何かあるのだろうか?


「うむ。覚えておこう」

「森での流れについては、私から説明いたします」


 エメッリヒと入れ替わるように執事が前に出てきて一礼する。


「今回我々が森に来たのは、公爵家に伝わるとある素材を採取するためです。詳細は明かせませんが、森の中腹までは進む予定です。皆様宜しくお願いします」

「エメリッヒ様を中心として、円形に広がって護衛する。後ろには私が付くがそれ以外はチームで判断しろ」


 最後にピリンさんが締め括り、軽くミシェルちゃん達と打ち合わせして出発となる。


 円の先頭はドリンで、そこから三角形に広がり、ミシェルちゃんとリーザンが続く。


 そして俺がミシェルちゃんの後ろで、バザニアがリーザンの後ろとなる。


 因みにいつも一緒のミリーさんは、今回一緒ではない。


 冒険者三人は先行組と一緒に森へ行ってしまっている。


「森に現れる魔物で強力なのはいないが、常に注意を怠るなよ。それでは、出発!」

 

 ピリンさんの号令で、森の中に入る。


 鳥のさえずりや、木々の擦れる音。


 護衛が終わるまで、平和な時間が続けば良いな……。

 

 因みにエメッリヒ達と一緒に来たメイドと、騎士が二人お留守番となっている。






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 サレン達が森へ入った頃、森の中で蠢く影があった。


「予定通り、森の中にターゲットが入ったみたいだ。人数は多いが、冒険者三名とピリンって女騎士だけは注意しろとさ」

「そうは言っても、どうせ分断したら逃げるんだし、大丈夫だろう?」 

「この魔導具だって信用できるもんじゃない」


 男達の数は五人。全員森の中で目立たないように迷彩衣服を着ており、形は違うが全員、魔()()()と呼ばれる道具を持っている。


「ナンバー4と5は、魔導具を設置したら攪乱しろ。殺しても構わないが、証拠を残すなよ」


 呼ばれた二名は頷いた後に、音もなく森の中へと消えていく。

 

「しかし、ここまでする必要があるんですか?」

「さあな。だが、この作戦が成功した場合、王国と帝国は戦争に突入することとなる。そうなれば……」

「人心は神を求める……ですか」  

 

 サレンが心配している王国の暗躍だが、王国の目的はあくまで帝国に恩を売る事であり、今回の様な公式の作戦には、関わろうとしていない。


 帝国の騎士を正面から相手取るのが、悪手だと分かっているからだ。

 

 だが今の状況を、利用しようとしている者たちが居た。


「そうだ。今の拮抗している状態を脱するためには、火種が必要だ」


 火種……戦争が起これば人と人が戦い、死人が出る。


 死んだ者には親が居るかもしれないし、子がいるかもしれない。 

 

 嘆き悲しんだ人は、心の拠り所を求めるものだ。


「やれと言われればやりますけど、俺達の仕業だとバレないんですか?」

「そのために態々王国から魔導具を盗んできたのだ。一部は既にホロウスティア内で王国が使ったと、報告を貰っている。それに、実際に手を出すのは俺達ではないからな」


 男達が持っている魔導具は、全部で三種類ある。その内一種類はサレンが使われた転移の魔導具だ。

 

 先日使われた物が王国のものだと、ホロウスティアでは調べられおり、もしもまた同じものが使われれば、最初に疑われるのは王国となる。


「確か転移でしたっけ? それで結界内に閉じ込めて魔物に襲わせる」

「ああ。悟らせないために多少攪乱をする必要があるが、あの二人ならば問題ないだろう。お前ももうそろそろ行け。俺とナンバー2は時間になり次第回収へ向かう」  

「了解」


 話していた二人と、黙って聞いていたナンバー2は、溶ける様に森の中へと消えていき、再び静寂が戻る。


 穏やかな木漏れ日が木々の合間から差し、少しだけ冷たい風が通り抜ける。


 これから起こるのは……。

 

サレン「森のミリーさん……似合うな」ボソ

ミシェル「あれ? 今何か言いました?」

ミリー「へっくしょん!」

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