第83話:夕飯と来ないミリー
自己紹介と言えば、名前や年齢。ちょっとした自己アピールが基本だろう。
俺ならば楽器が弾けたり、最低限見られる絵を描けたり、多少だが料理や裁縫も出来る。
浅く広く色々と手を出してきたので、出来る事は色々とある。
今は身体のスペックも上がっているので、技量が向上しているのは、ピアノの演奏と裁縫で確認済みである。
まあ俺の事はいいとして、異世界なので自己紹介の仕方も少し俺が知っている物と違った。
年齢と名前。ここまでは流石に変わらないが、この後人によってまちまちとなる。
通ってる学園の事を話す奴も居れば、家柄を話す奴。
それとこれは異世界ならではだろうが、使える魔法についても話している。
そう言えばマチルダさんがパーティーを組む時に、使える魔法について話すとか言っていたな。
人によってどの程度まで魔法が使えるかの目安として、初級とかのランク付けもされているので、どの程度まで戦術に組み込むことが出来るかが最低限分かる。
それに火の魔法を使えるならば焚火の火種として約立つし、水の魔法が使えるなら洗い物や汚れ落としなんかに使える。
隊を組む時にバランスよく分けておけば、戦略の幅なんかも広がるだろう。
まあ、流石に戦いはしないと思うがな。
そんな事を食べながら考えている内に、ミシェルちゃんの番となり、席から立ちあがった。
「ミシェル・ラムレスと申します。年齢は十五歳。今はトワイライト学園に通っています。水の魔法が使え、簡単な中級までは使えます。よろしくお願いします」
緊張した面持ちで自己紹介を終えたミシェルちゃんはサッと席に座り、拍手をされる。
さて、ミシェルちゃんの番が終わったってことは、俺の番となるのだが、どうしたものか……。
スッと立ち上がると、此方に視線が向く。
基本的に畏怖を含んだ視線が多い気がするが、ジェイルさんが胃をさすっているのが気になった。
「サレンディアナ・フローレンシアと申します。歳は十七歳で、イノセンス教のシスターをしています。今回はとある方の勧めがあり、知見を広めるために参加させて頂きました。生憎魔法を使う事は出来ませんが、よろしくお願いします」
最後にペコリと頭を下げてから座る。
魔法を使えないと言った時に少しざわつき 侮蔑と言うほどではないが、格下を見る感じの視線を感じた。
そう言えばこれまで魔法を使えないって人に会った事なかったな。
マチルダさんの言い方では魔法を使えない人も一定数居るらしいが、それにしては妙な反応だ。
もしかして、エルフらしく昔の常識で話していたのだろうか?
まああくまでも魔法を使えないのは俺であり、中に居るルシデルシアは使える。
人前で入れ替わることは出来ないが、どうしても魔法を使わなければならなくなったならば、ルシデルシアと代わればいい。
「……サレンさん。訓練場のあれって、生身でやったんですか?」
ミシェルちゃんも驚いたみたいだが、他とは違う方で驚いていたみたいだ。
「あれは一応そうなりますね。出来ればあまり話題にしていただけると助かります」
「わ、分かりました。あっ、魔法が使えないっていうのは、もしかして加護とか……あれ?」
…………あっ、そうか。マチルダさんの説明が少しややこしかったせいで失念していたが、加護も一応魔法に含まれているんだったな。
イノセンス教というか、俺は回復や補助系統の魔法とかしか使えないせいで、別物と考えてしまっていた。
スフィーリアから聞いた話だが、他の宗教では土地を植物が育ちやすいようにする魔法や、本人が火の魔法を使えなくても、火の魔法が使えるようになったりなどがある。
つまり、加護もれっきとした魔法だ。
つかミシェルちゃんよ。重力上げの時に治して上げたのを忘れたのかかい?
他の面々もだが、誰かツッコンでくれないものだろうか?
もう座ってしまったし、今更自分からは訂正も出来ない。
「加護は使えますが、その加護も回復や補助だけとなります」
「それじゃあ身体強化とかも出来ないんですか?」
「そうですね」
何か言いたげにミシェルちゃんは変な顔をするも、ぐっとこらえてくれたようで、それ以上は何も聞いて来なかった。
そんなこんなで全員の自己紹介が終わり、この部屋に居る五人の騎士と、二人の冒険者の自己紹介に移る。
騎士は第一騎士団の副隊長であるジェイルさんと、第五巡回班長であるピリンさん以外は平の騎士だが、平と言ってもしっかりしていて、頼もしい感じがする。
まあ、一名だけ微妙そうな奴が居るが、どうせ体験入団さえ終われば関わる事もないだろうし、覚えなくて良いだろう。
冒険者の方はミリーさんが言っていた通りレンジャー系の専門らしく、どちらもBランクだ。
マチルダさんが教えてくれた情報で言えば、それなりに凄い人達となる。
だが俺と視線を合わせた瞬間に、逸らしたのはいただけない。
ミリーさんとの賭けの関係で、俺の持ち上げた重さを知っているから関わりたくないのは分かるが、あからさま過ぎるぞ?
――あっ。
「少し気になったのですが、もしミシェルちゃんが身体強化した場合、何キロまで持てますか?」
「えっ? ……多分130位かな?」
……少し勘違いしていたと言うか、間違いなくミリーさんやライラのせいだが、身体強化は俺が思っている以上に、優秀ではないようだな。
つまりだ、俺が持ち上げた後に持ち上げようとした冒険者だが、持ち上げようとしている時に、違和感を感じだ。
あれは多分身体強化をしたのだろう。そして、持ち上げることが出来なかった。
それならば、先程自己紹介の時に目を逸らすような事をされた理由も頷ける。
身体強化をしても、身体能力で勝てない。それが俺なのだ。
恐れるのも仕方あるまい。
最初から普通では無いライラやミリーさんの相手をしていたせいで、やはり俺の常識は少しおかしくなっているようだ。
あれ程気を付けていたというのに、ままならないものだ……。
唯一の救いであるシラキリに、頑張ってもらいたいものである。
「自己紹介は済んだな。明日は本格的な訓練をする予定だが、五人一チームで行動して貰う予定だ。そのチーム分けを、今から行う」
明後日からではなく、明日からか。
予想はしていたが、街で見る巡回している騎士なんかも、数人で行動している。
訓練自体が、複数人で動く事を想定しているのだろう。
しかしチームを組むのは良いが、少し嫌な予感がするんだよな……。
先程の自己紹介で、捉え方では俺は魔法が何も使えないと思われているだろう。
仮に加護が使えるとしても、シスター程度では凄い奇跡は使えないのが常識だ。
対アンデッドとしてならともかく、それ以外では魔法が使えない俺は役立たずと思われているかもしれない。
「勝手にチームを組めと言うのも酷であるので、此方でメンバーは決めてある。また、各チームには騎士を付け、この後明日のためのミーティングをしてもらう」
流石に自分たちで考えて、チームを組めとは言わないか。
もしそうなっていたら、ハブられていた可能性がある。
「とは言っても、まだ食べ足りない者も居るだろうから、今はゆっくりと食事をしてくれ」
どう見ても食べたりない人物筆頭のミシェルちゃんは、皿に大量の食べ物を載せて食べている。
緊張してさっきまでは箸が進んでいなかったが、自己紹介が終わった端からこれである。
まあいい。折角の料理だし、色々と食べて自分の作る料理の糧にしよう。
調味料の味を知らなければ、使う事も出来ないからな。
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全員の箸が止まるのを見計らってジェイルさんは立ち上がった。
「皆食べ終わったようだな。それではチームの発表をしよう。名前を呼ばれたものは、騎士と一緒にミーティング用の部屋に向かってくれ」
ジェイルさんの声を聞き、ピリンさん達四人の騎士が立ち上がる。
まるで高校の合否を確認しに行った時みたいな雰囲気だな。
ピリッとした空気が漂ってきた。
「どうなりますかね……出来ればサレンさんと一緒が良いですが…………」
「そうですね。最低限バランスの取れたチーム分けをするならば、離れる可能性もありますが……」
「ううぅぅ……」
まあネグロさんの手が動いているならば、まず間違いなく俺とミシェルちゃんは、同じパーティーになるだろう。
不安そうにミシェルちゃんはしているが、その事に関しては俺に不安はない……。
一人ずつ名前が呼ばれ、五人呼ばれた所で騎士と一緒に食堂を出て行く。
そして俺を含めて残された五人と、騎士であるピリンさん。
ミシェルちゃんは俺と組めると分かった時点で喜びを露わにし、残りの三人は不安そうにしている。
因みに冒険者は、どのチームに顔を出しても良い事になっているので、おそらく明日はミリーさんも一緒に居るだろう。
「残りの五人は私と共に第五会議室へ移動してくれ。場所は今日の朝集まった場所の廊下だ」
「サレンディアナは残りたまえ。少し話がある」
ピリンさんと一緒に食堂を出ようとしたら、ジェイルさんに呼び止められてしまった。
何もしていないはずだが、一体何の用だろうか?
「分かりました」
不安そうに見つめてくるミシェルちゃんを丁重に追い払い、椅子に座ったまま待つ。
集まった全員が去った所で、ジェイルさんが場所を移動すると言ったので、立ち上がって付いて行く。
心なしか気落ちしているように見えるが、本当に何なのだろうか?
とある冒険者A「(あれでシスターとかおかしいやろ!)」
とある冒険者B「(シスターと言うより、ビルダーとかだろ)」