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第72話:噂をすれば何とやら

「確かサレンちゃんが助けたパーティーの子だっけ?」

「はい。スフィーリアと申します。あなたは?」

「サレンちゃんの先輩のミリーだよ。とりあえず、座って座って」


 恐縮しているスフィーリアを、ミリーさんは隣に座らせる。


 俺に用があるみたいだが、全く心当たりがない。


 スフィーリアが属している教会が何か言ってくる可能性もなくは無いが、それならば木っ端では無くて、最低限話の出来る人間が接触してくるはずだ。


 ミリーさんを邪険にしていないのを見ると、そこまで重い話ではないと思うが……。

 

「それで、私に何か用でしょうか?」

「実は、勤めていた教会の方を辞めまして、出来ればイノセンス教に入信できればと思い、やってきました」 


 ああ……ミリーさんの話が無ければ、手放しで喜べたのに。


 どのような理由であれ、今の状況で所属していた宗教を辞め、新たな宗教に入るのは非常に目立つ。


 それなりに大手の宗教としか聞いていないが、大手という事は先程話した、三つの国のどれかに属しているはずだ。


 断るのも手かもしれないが……先ずは話を聞いてみるか。


「確か他の宗教に身を寄せていたと思うのですが、何かあったのですか?」

「思想の違い……私は、沢山の人々を助けるためにこの道を選んだのですが、金の亡者の様な教会に嫌気が差したのです」

「教会ねぇ。一体どこの宗教さ」

「サタニエル教の下部宗教である、デルカリア教です」


 ミリーさんは自分で質問しておいて、とても嫌そうな顔をした。


「よりにもよってサタニエル教かー。あそこは代替わりしてから、拝金主義極まりだからね。理念も人を高みへ押し上げるーとかだから、上納金とかもあった気がするね。人を助けると言うよりは、いらない人間は捨て去るって感じだから、スフィーリアちゃんの思想とは合わなかったんだろうね」

「そうですね。入った当初は何も知りませんでしたが、ここ最近は……」


 分かるよーと言った感じにミリーさんは相槌をするが、聞いているだけでも面倒そうな宗教だな。


 人間を高みへってのは、転生した神が人から神に舞い戻る事を指していそうだが、ライラの髪について気にしていなかったのを見ると、違うのかもしれないな。


 まあ宗教内の事は分からないが、崇めている神についてならば知れるかもしれない、

 

(サタニエル教について何か知っているか?)


『知っておる……と言いたいが、どうもおかしいな。奴は所謂土地を司る神であり、諍いには興味がなかったはずだ。それに、あやつは人を育てる事に興味はあったが、人そのものには関心を持っていなかった』


(心変わりした可能性は?)


『あるかも知れぬが、人と違い、神は簡単に変われるものではない。注意しておいて損はないだろう』

 

(了解だ)


 まあホロウスティアに教皇や聖女が来る筈も無いだろうし、そこまで気にしなくても良いかもしれない。


「サレンさん個人に好かれたのも有りますが、イノセンス教の理念は私に合っていると思いまして……駄目でしょうか?」


 初めて会った時は気が強そうな少女だったが、今はしおらしくなっている。


 気乗りはしないが、王国に行っている間の件もあるし、イノセンス教の神官になってもらおう。


(加護ってどうやって与えれば良いんだ?)


『これまでと同じく、適当にやれば大丈夫だろう。だが多少派手になるだろうから、場所は選んだ方が良かろう』


 適当とは心外だが、シラキリを治した時からその場その場で適当にやって来たので、反論できない。


 場所については、案内も含めて廃教会でやるとしよう。


 もしも廃教会を見てやっぱり止めておくと言うならば、それまでの決心だったって事だ。

 

「私としては構いませんが……そうですね。先ずは私が実際に拠点にしている場所で話すとしましょう。ミリーさんはどうしますか?」

「うーん。面白そうだし、付いていこうかな。興味もあるし」


 その興味は俺へなのか、それともイノセンス教へなのか……。


 にへら~と軽そうにしているが、本当に侮れない人だ。


「分かりました。それでは行きましょう」

「……はい」


 不安を拭いきれていなスフィーリアはゆっくりと立ち上がり、俺の後を付いてくる。


 今更だがスフィーリアの服は、神官服から普通の服になっていた。


 もしもイノセンス教に入信するなら、此方で服を用意しないとだな。


 職場の制服を支給するのは、会社側の義務みたいなものだ。


 ……そう言えば、俺が着ている神官服と同じものを見たこと無いな。


 俺が着ているのは、かなりシンプルなものであり、前かけ的なものに内ポケットがあるくらいしか、おかしな点はない。


 これまで見てきた神官服は、結構派手……と言う程ではないが、主張が激しいものが大半だった気がする。


 スフィーリアが着てきたのも、ゴシック調の服となっており、女性らしい服と言った感じだった。


 まあそこら辺は異世界ならではの宗教だから、俺が違和感を感じているだけで、異世界では普通なのだろう。


 ギルドから出て馬車へと乗り、廃教会を目指す。






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 廃教会最寄りの馬車停で降りて、しばらく歩いていると、スフィーリアがキョロキョロと辺りを気にしはじめた。


 大通りから外れ、徐々に人気の無い場所に向かい始めれば、誰だって怖くなり始めるだろう。


 スフィーリアがホロウスティアにどれだけ居るのか知らないが、スラムになんて来たこと無いだろう。


 石畳の道が途切れ、踏み固められた土の道へと足を踏み入れる。


「あの……本当に此方なのですか?」

「はい。もうじき着きます」


 流石に耐えられなくなったのか、スフィーリアが聞いてきた。


 端から見れば、どう見ても良家の娘さんを騙して、誘拐している三人組だ。


 酷い絵面である。


 因みに心配そうにスフィーリアとは対称的に、俺はミリーさんとお酒について楽しく会話している。


 まだ二度しかミリーさんが薦めてくれた酒場には行けてないが、メニューに書いてあった酒はコンプリートした。


 なのでどの酒が良かったとか、どんな酒が好きとか、次は違う店に行こうなどと話している内に、目的地に着いた。


「……朽ち果てた……教会?」

「はい。ここがイノセンス教の拠点となります」


 少し広めの広場にポツンとある、ボロい教会。


 一応壁に空いていた穴は全て塞ぎ、ちょっとだけ調度品を追加したが、外見は相変わらずお化け屋敷にありそうな教会だ。


 そう言えば椅子を買おうと思っていたが、忘れていたな。もう自分で買わないで、アーサーにでも頼むとするか。


 俺には目利きなんて出来ないし。


「少々色々とありまして、スラムにあるこの廃教会で活動をしています。驚きましたか?」

「……はい……いえ。確かに驚きもありますが、新興と聞いていたので、何と言いますか……しかし、こんな場所があったなんて……」

「ちょっと気になって調べたんだけど、この教会ってかなり昔からあるそうだよ。スラムだから結構な人がここで暮らそうとしたみたいだけど……いつの間にか姿を消して、それ以降姿を見た者が居ないとか……」

「ヒッ!」


 ミリーさんがスフィーリアを脅しているが、元凶については既にルシデルシアが退治しているので、普通に暮らしていても問題ない。


 元凶について知りたくはないが、危険度で言えばかなり高かったのだろうな。


 まあこの話は続けなくても良いだろう。スフィーリアを怖がらせるのも、悪いからな。

 

「それなりに長く暮らしていますが、何も起きてないので大丈夫ですよ。もしもイノセンス教の神官になるのでしたら、此処で奉仕活動をする事になりますが、宜しいですか?」

「……はい。見た目なんて飾りだと知っていますので、問題ありません。中身こそが大事だと教わりましたから」

 

 決意を込めた目でスフィーリアは見つめてくるが、どうやらスフィーリアの心境を変化させる何かがあったようだな。

 

 まあ俺なんかと違って住むわけじゃないし、そもそも学園に通っているので、常に一緒に居るわけでもない。


 更に言えば後々一人で此処の管理をお願いする事になるかもしれないが…………とりあえずさっさと加護を与えてしまいましょう。


 やるのは、あの壊れかけの女神像の前で良いだろう。


 流石にあれをポイっと捨てるのは憚られたので、新しいのが来るまではそのままにしておこうと放置してある。

 

「分かりました。ここでやるのも何ですし、中で加護を与えましょう」

「――はい」

 

 廃教会に入り、女神像の下に向かう。


 ルシデルシアは問題なく出来ると言っていたが、正直不安である。

 

 出来る出来ないの心配ではなく、どの程度の加護になるかの心配だ。


 一応治療だけが加護という事になっているが、これは俺に限った事だ。


 魂が混ざり合い、その副作用として俺はディアナの力の一端を回復魔法として使えている。


 正確にはターンアンデッドモドキや武器への付与も使えるので、補助系の魔法も使えるには使える。


(そんなわけで、加護を与えた場合ってどうなるんだ?)


『前は回復魔法のみになると言ったと思うが、正直分からん。過去で奴は他人に授けるようなことはしなかったし、そもそも信仰の対象は余であった故、有象無象に力を貸す気など毛頭ない』


(なるほど、やってみなければ分からんって事か。因みに、予想ではどうなると思う)


『ふむ。そうだな……我の力か、ディアナの力だとは思うが、多少の治療と何かしらの戦闘技能程度となろう。まあ、加護の強弱次第だろうが、そこいらの聖職者より強力なものとなろう』


 まあ俺自身の事を考えれば、弱くてもそれなりのものになりそうだ。


「それでは始めましょうか。記憶を無くしてから初めての事ですので、至らない点がありましたらすみません」

「いえ……」


 女神像の前で止まり、スフィーリアを跪かせる。

 

 ミリーさんは少し離れたところで見守り、隣にはアーサーもいる。


 それでは――始めるとしよう。


 眼前で手を組み、軽く目を閉じる。


 これまでと同じなら、強烈な光が起こるだろう事が予想できる。


「御霊を分けし我が神よ。御身の神威を、我が僕に下賜与えたまえ」


『ほうほう。これがそうなのか。話しには聞いてきたが、実際に目にすると面白きかな。――認可だ』


 目を閉じているのに、光が目蓋を貫通してくる。


 予想と通り、目を閉じておいて正解だったな。




 


  

「目がーー!」





 


 

 …………ミリーさん達に注意するの忘れてた。

ミリー「(シスターなのに加護…………ねぇ)」

アーサー「(なんと神々しい姿なのでしょうか……)」

スフィーリア「(これで私は……)」

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