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第57話:ライラルディア・フェイナス・グローアイアス

今更と言いますか、毎度と言いますか、誤字脱字報告助かっています(土下座)

 廃教会へと帰り、余った保存食を食べてからシラキリの水で身体を洗う。


 その時にふと頭の角の事について、ルシデルシアに聞いてみたのだが、少し面白くも悲しい事を知ることが出来た。


 ざっくり言えば、この身体には三つの人格が宿っていることになる。


 基本的に表に出ているのは俺だが、俺の魂は肉体が変わる時に混ざり合った為、不具合が出ている。


 ルシデルシアが使えたはずの魔法は使えず、サレンディアナが使えた神の御業が使えない。


 頭の折れた角はルシデルシアの頭にあった奴の、名残として残っており、ルシデルシアが表に出ると伸びるそうだ。


 じゃあサレンディアナの名残は何なのかと聞いてみたら、どうやらこの眼らしい。


 サレンディアナは特殊な眼……魔眼的な物を持っていたそうだ。


 魔力の流れや、人の感情を読み取る事が出来るらしく、戦いにおいては先読みや相手の魔法を乗っ取ることも出来たとか。


 ついでに目付きは今の俺と同じく鋭かったそうだ。


 まさかのこの眼は魔王ではなく、聖女譲りだったとは……まあ、そんな魔眼を俺が使う事は出来ないんだなよな……。


 しかし顔が違うのだから、そりゃあ初対面で、ルシデルシアが誰か分かるはずもない。

 

 ルシデルシア曰く、顔の造形はサレンディアナ。身体はルシデルシアに似ているらしい。


 因みに俺の要素はゼロである。


 まあ混ざり合った結果俺は中途半端な能力しか使えないのだが、一応俺固有の物としては異様な筋力が挙げられるが、自分ならば魔力による強化で、その程度は余裕で出せるとルシデルシアは煽って来た。


 これは眠っている方のサレンディアナも可能らしく、俺のアイデンティティは一切無いと言われた。


 化け物二人に一般男性が勝てる筈などないのだ。


 また少し込み入った話となるが、サレンディアナが目覚めたとしても、転生は出来ないらしい。

 

 魂が混ざった結果三位一体となり、分離は不可能だろうとルシデルシアが語っていた。


 もしも転生しようとした場合、混ざり合って不安定な魂は、砕けて消滅する可能性があるらしい。


 サレンディアナがルシデルシアも知らない魔法を知っていれば別だが、三度目は無いだろうとの事だ。


 つまり、俺が死ぬまで三人一緒という事になる。


 中身は男の身としては、女性二人と一生を添い遂げるのは、ある意味冥利に尽きるかも知れないが、全く嬉しくない。


 魂が混ざった弊害だろうが、他人として扱うことが出来ない。


 そんな俺の寿命についてだが、ベースはただの人間であった井上潤だが、今はキメラとなっている。


 なので、ルシデルシアでは分からないとの事だ。


 サレンディアナなら分かるらしいが、短い事はないだろうとの見立てである。


 因みに老いについても不明である。


「ありがとうございました」

「いえ……その……助けられなくてすみませんでした」


 目が覚めてから今まで、ずっとシラキリは暗い顔をしていた。


 俺を助けられなかったことを悔いているみたいだが、あんな大きな鞄で蓋をされてしまったなら、どうしようもないだろう。


 悪いのはシラキリではなく、ルシデルシアなのだからな。


「あれは仕方なかった事です。シラキリには戦っていただいてましたし、あれは私を狙ったものでしたからね」

「――え?」

 

 おっと、シラキリの雰囲気が暗くなってしまったな。

 どうにかして戻さなければ。

 

 …………どうやって?


「記憶が無いので定かではないのですが、どうやら何者にか狙われているみたいなのです」

 

(そう言えば、何でダンジョンに入るとあんな目に遭うんだ?)


『うむ……平たく言えば、余がダンジョンの敵だからだな。余の時代にはダンジョンなぞ存在せず、エデンの塔と呼ばれる、ダンジョンの前身となるものがあったのだが、訳あって余が破壊した。ダンジョンとはエデンの塔の破片となるものであり、云わば子であるのだ。詳しくはまた今度話すとしよう』


 物凄く気になる内容だが、今はシラキリを元に戻すのが先だな。


「シラキリにしか見せたことがない、この頭の折れた角が関係しているらしく、あれは仕方のない事だったのです。気に病まず、いつもの元気なシラキリで居てください」


 シラキリの頭を撫でて、何とか機嫌を治す。


 自分で言っといて何だが、この内容は嘘ではなく、全て本当の事なんだよな。


 まあダンジョンにさえ入らなければ良いわけだし、三度目はないだろ。 


「……サレンさんを狙っているのって。誰か分からないんですか?」

「今の所は分からないですね。今日も水をありがとうございました。戻って休んでください」


 この後は、ライラが来る予定となっている。


 あの様子では、俺と一対一で話したいのだろうから、シラキリと一緒に居るわけのもいかない。


「……分かりました」

「良い子ですね。また明日」


 シラキリを帰し、一息つく。


 今回の依頼で結構な額を稼ぐ事が出来たが、ベルダさんへの支払いをして、シラキリを学園へ入れるための準備などをすれば、直ぐにまた無くなってしまだろう。


 稼いでもらっている額は結構なものだが、新たに生活を始めると、どうしても金が掛かる。


 俺が社会人になって引越しをする時も、家電やらなにやらを買ったら結構な額となった。


 流石に百万は掛からなかったが、妻や子供などが居たらそれ位掛かっていただろう。


 一応今回の依頼でギルドへの恩も売れたわけだし、稼ぐ事については大丈夫だろう。


 その後はこの廃教会を……。


 ベッドに座ったまま考えごとをしていると、扉を叩く音がした。


 この部屋も、少し物を増やさなければな。あまり気乗りはしないが私服を買ったり、この神官服も予備を作らないとな。


 ベッドとクローゼット以外では、廃材で作った机と椅子位しかない。


「空いてますよ」

「失礼する」


 部屋に入ってきたライラは、珍しく私服を着ていた。


 一応剣を装備しているが、七本からなる魔導剣は装備せず、最初に持っていた一本だけを腰に携えている。


「夜分にすまぬな」

「大丈夫ですよ。椅子は固いので、ベッドに座ってください」

「う、うむ」


 夜分遅く。部屋に少女と女性が二人。


 悲しいかな。何も起きる気がしない。


「それで、話とは何ですか?」

「……我の出生に纏わる話なのだが…………先ずは何も言わず、聞いてくれ」


 ライラによって語られたのは、中々に衝撃的な事だった。


 ライラ。本名はライラルディア・フェイナス・グローアイアス。ユランゲイア王国の元公爵令嬢である。


 ライラの持っている剣は公爵家の家宝であり、この一本で戦争の戦況を変える程の威力を持つ。


 その剣の名は、邪剣・グランソラス。


 魔剣や聖剣ではなく邪剣だ。

 

 威力だけなら世にある他の魔剣や聖剣を差し置いて、最強の可能性があるらしいが、邪剣と呼ばれるだけあり、ただの剣ではない。


 その理由は、グランソラスは使い手を貪り喰らうからだ。


 魔力に始まり、魔力が無くなれば魂を。魂が尽きれば残された肉体を。


 ライラの祖父もグランソラスを使った後遺症で、若くしてこの世を去ったらしい。


 グランソラスの性質については本来当主にのみ伝えられてきたが、現当主がクズだったのもあり、ライラが剣の担い手として選ばれた。


 そんな使用者を貪り喰らうグランソラスだが、グランソラスの容量を超えるほどの魔力量のある持ち主なら、話が変わってくる。


 悪魔と呼ばれるほどの魔力量を誇るライラならば、剣を扱えるかもしれないと思われたのだろう。


 祖父の目論見は成功したが、流石のライラも無事では済まなかった。


 祖父の遺言に従い家を飛び出たライラだが、正式に当主となったライラの父親が牙を剥いた。


 逃げるライラに暗殺者を差し向け、ライラを殺してグランソラスを奪おうとしたのだ。


 ここで問題となったのが、グランソラスを従えるために魔力を喰わせた結果、不調となってしまった事だ。


 開けた場所ならばグランソラスで一掃できるが、暗殺者も馬鹿ではない。


 結果的に追い詰められる形でホロウスティアへと入り、毒によって死に掛けていたのだ。


 ここまでは前座の話であり、本題はここからだ。


 虐げられ、祖父以外からは不当な扱いを受けていたライラだが、その内に秘めた憎しみは相当なものだった。


 だが祖父には幸せに生きろと言われていたので、その通りに生きるつもりだった。


 そう、つもりだったのだ。


「我の復讐の手伝いをしてもらいたい」


 何とも言えない表情で、ライラは俺にそう伝えた。


 なんとも救えない話…………か。


 もしもライラの髪の色が普通だったのならば、こんな事にもならなかったのだろう。


 祖父も若くしてと言っていたが、グランソラスの後遺症だけではなく、何かされていそうだな。

 

 どう答えたものか……。


『いつの世も、人は愚かだのう。肉親すら忌み嫌い、迫害するとは。しかし、妙な話だ……』


(妙な話?)


『その小娘の髪は、神の生まれ変わりの証だ。崇拝こそされ、迫害されるなどないと思うのだが……』 

 

 ヤバい単語が聞こえたが、答えてやるとしよう。

 

(その件だが、過去にライラの国で暴れた奴が居たらしい。それ以降迫害されるようになったとか)

 

『それこそおかしいのだ。奴らは基本的に悪しき心には染まらぬ。大方、革命やなんだで歴史が歪められたのだろうな。貴様の世界でもよくある話だろう』


 ……なるほど。ライラ程の力を持った者が何人も現れれば、国力など変わってくるだろう。


 ならばまだ芽である、赤子の内に始末できるシステムを作り出せばいい。

 

(その髪の持ち主はライラの国でしか現れないみたいだが、理由はあるのか?)

 

『場所次第だが、おそらくエデンの塔を破壊した影響で、神の転生があまり行われなくなったのだろう。エデンの塔があった周辺ならば転生は可能だろうが、遠くまでは無理なのだろう』


 なるほど。元凶はまたもやルシデルシアか。

 

 裏事情は置いておくとして――復讐ね。


 綺麗事かもしれないが、復讐が生み出すのは新たな憎しみでしかない。

 大人として、復讐に手を貸すのは駄目だろう。


 まあ一般論としてだがな。


 ライラも復讐などする気は無かったが、ライラがこのグランソラスを持っている限り、常に狙われることになる。


 そしてこのグランソラスを手放せば、王国が何をするか何て考える必要も無い。


 グランソラスの本当の能力を知ったとしてもだ。


 復讐とついでに、争いの芽を絶つ。

 

 そう考えれば、手を貸すのもやぶさかではない。良い行いだからな。


『公爵家がどれ程のものか分らんが、その剣と貴様が居れば負ける事は無いだろうな』


(確認だが、この剣に関わっていたり?)


『…………まあ、何だ。余が余を殺すために造ったものだな。余が育てた一人に下賜したのだが……まさか残っているとはな』


 もう全部、悪いのはルシデルシアじゃないかな?


 まあ数百年も前の事で怒るのは見当違いだろう。


 悪いには悪いが、諸悪の根源なだけであり、実際に悪いのは今を生きている人々だ。


 ルシデルシアがいなければ、こんな事にはならなかったかもしれないがな!


 まあライラを助けるのは、身内の不始末を肩代わりする意味でも、有りだろう。

 

 珍しくライラが不安そうな顔をしているし、ここは大人として責任を持とう。


 ライラの頭を抱きしめると、僅かに驚きの声を上げた。


「これまで大変でしたね。ライラの苦悩や想いは分かりました。本来シスターとして復讐に力を貸すのはいけない事でしょうが、ただのサレンディアナとして力を貸しましょう」

「…………すま……ぬ」


 ライラの顔から落ちた何かが、ベッドのシーツを濡らす。


 この歳まで、人としての温かみを殆ど感じる事はなかったのだろう。


 今の話だと両親はライラを見放し、理解者だった祖父はもう居ない。


 いくら強がっていても、ライラもまだ子供なのだ。


 ライラも俺に抱きつき、静かに涙を流す。


 泣き止むまで、そっと頭を撫でてやった。

ルシデルシア「余は悪くない。悪くないったら悪くない」

サレン「分かったから静かにしましょうねー」

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